第6話

黙々と渡された物を食べ続けていると、違和感を感じた。主に両手足だ。


「お、効果出てきたな」

「うわっ…こんなことってあり得るんですね」


食べれば食べるほど、溶けていた皮膚や肉が戻ってくるというか復活?してきていた。何とも言えない気持ち悪い見た目ではあったけど。


「どう?食べられそう?」

「…そうですね」

「足りないんじゃない?」

「そんなことはないです」

「頑なだなぁ。食べられるなら食べ貯めといた方が良いと思うけど」

「いえ、結構です。もう充分お礼はしてもらいました」


むしろ、してもらい過ぎた気がしてならない。


「そうか。まぁいいならいいよ」

「ところで、何の屋台なんですか?」

「提灯の装飾だよ」

「提灯?」

「そう。ここから先に進むには提灯が必要なんでね」


看板を立てながら男は言う。


「装飾はなくても進めるんだけど、俺らの描く紋様には加護が付くらしいんだよ。だからわざわざ頼みに来るの。主に眷属とかがな」

「そうですか」

「あんたの分も用意しといてやるよ。お狐様の紋様で」

「勝手に良いんですか?」

「狐面持ってる奴に描いて駄目なことはないだろ」

「そうだといいんですけど」


狐の神様に気に入られたらしいけど、自覚ないんだよな。


「食べて待ってな。5分くらいで出来るから」

「はーい」


ラムネを飲み干したあと、ビンの中に入っているビー玉を眺めていた。何気にラムネを飲むのは初めてで、ビー玉を取り出したこともない。


「あの…」

「…僕?」

「うん」


声をかけてきたのはおかめのお面をつけた子供だった。この子も神様なのだろうか。


「どうしたの?」

「そのビー玉、ちょうだい?」

「ビー玉?」


どうして、と言いかけてなぜか言葉を飲み込んだ。


「えっと、ちょっと待ってて」

「うん」


ビンを逆さまに振ると、ビー玉はカラカラと音を鳴らした。


「どうぞ」

「ありがとう。お兄ちゃん、お礼してあげる。ついてきて」

「どこに?」

「すぐそこだから」


ぐい、と手を引っ張られて思わずよろけた。およそ子供とは思えない力の強さで思わずぞっとする。


「ねぇねぇ、あっちに困ってる人いたの。その人のことも助けてくれる?お礼はいっぱいするから」

「えっと…」

「してくれるよね?お兄ちゃん、人助け好きだもんね?」


ぎりぎりと手を掴まれ、引きずられるようにして連れていかれそうになる。


「ちょっと待ってよ。本当にどこ行くの?というか痛い!」

「お礼してあげるから。ね、ほら早く」


行きたくない。確かに人助けは好きというか、断れないだけではあるけど、見境なく助けるわけじゃない。


「ほら早く…ね、人間」

「えっ…?」


目の前で、お面がずれた。ずれたお面の隙間から、大きく笑った口が見える。


「い、いやだ!行きたくない!」

「それなら、もうここでいいか」

「え…」


お面が完全に外れて、カランと音を立てながら地面に落ちる。見つめられて、動けなくなった。


「な、に…?」

「いただきます」


大きな口がさらに大きく裂けて、鋭い歯が並んでいるのが見えた。


「馬鹿かお前は」


突然視界が遮られ、頭上から男の声が降ってくる。


「あ…」

「はいはい、深呼吸してー」


言われるがまま、何度も大きく息を吸っては吐いた。背中を優しく叩かれる。


「あの…」

「ちょっとこのままな」


有無を言わせない声で、口を閉じるしかなかった。

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