第5話

「2つ目の広場を通り過ぎてから結構歩いたと思うんですけど…」

「そろそろ着くよ」

「そうですか」


飴を舐め始めてから、両手足の溶けかけている皮膚がピリピリとしてきて、確かに少し溶けるのが遅くなった気がする。


「この飴って何なんですか?」

「んー、俺のおやつ」

「いやそうじゃなくて…」

「美味いだろ」

「美味しいですけど」


答える気がないことを理解し、それ以上は聞くのをやめた。


「お、見えた見えた」


広場を進むごとに、どんどん活気も規模も大きくなっていた。1つ目よりも2つ目、2つ目よりも3つ目。


「賑やかですね」

「だろうな。ここが1番出入りの多いとこだから」


まるで縁日に来たみたいだった。

賑やかで明るくて、少し苦手ではあるけどたまにはこういうのも悪くない。


「あの、すっごく今更なんですけど」

「何?」

「何があっても追い越すなって言われてたんですが、ここではそういうこともないんですか?」


こんなに人(?)の多いところにいたら、どう足掻いても追い越さないなんて無理だと思う。


「あー、今更だなぁ」

「そもそもどうして追い越してはいけないんですか?」

「そりゃあんたが人間で、俺らは神様だからだよ」

「…よく分かんないです」

「立場の違いとでも思っとけばいいさ。広場は休憩するところだから、神も周りを気にしない」


荷台を押しながら男は説明をしてくれたけど、言っていることはよく分からない。


「逆に言えば、神にも序列みたいなのはあって、自分より高い序列の神を追い越してはいけないんだ」

「なんというかめんどくさいですね」

「おい!そんなでかい声で言うな馬鹿」


男に口を押さえられて、それから周りの視線を感じて押し黙った。


「死にたくないなら余計なことは言わないのが賢明だな」

「そうみたいです」


あまりの威圧感に冷や汗をかきながら頷いた。


「さて、俺はここが目的地なんだが…」

「そうでしたよね。ここまでありがとうございました」


そのまま広場の出口へ向かおうとすると止められた。


「待て待て待て」

「何ですか?」

「お礼するって言ったろ」

「あぁ…」

「本当にしてくれるんだみたいな顔するのやめない?」


どうして分かるんだろう。いつもは何考えてるか分からないとか、笑顔が嘘くさいとか言われるのに。


「何で分かるんだって顔だな。あんた分かりやすいよ」

「サトリか何かですか?」

「それはサトリに失礼だろ」

「そうですかね…?」


空いているところに荷台を置き、男は周辺の屋台の方へ歩き出した。


「えーと、そこの1番右端のわたあめください」

「まいどー」

「べっこう飴ください」

「まいどありー」

「たこ焼きの8個入りあります?」

「あるよ」

「ラムネ1つ」

「はいよ」

「えっとあの」

「ん?何?」


もうすでに両手にいっぱい食べ物を抱えているのにまだ買おうとしているのを見て、さすがに声をかけた。


「まだ買うんですか?」

「そうだよ」

「そんなに食べられます?」

「食べられるでしょ。むしろ足りないんじゃない?」


そんなに大食いだったのか?


「まぁひとまずこれくらいにしとくか」

「ひとまず…?」

「荷台の方戻るぞ」

「あ、はい」


荷台のところに戻ると、

「じゃあはい、これ」

「えっ、えっ?え、ちょっと」

「早く食べた方が効果あるから」

「いやこれ僕にだったんですか?」

「そうだよ。俺は別にいらないし」

「こんなに食べられないですって」

「食べられるさ。お腹空いてないの?」


言われてみれば、お腹は空いている気がするけどそれでも量が多い。


「空いてますけど…」

「なら大丈夫。足りなかったら言えよな。追加買うから」

「言いませんよ」

「どうかな?」

「言いませんって」


男は笑いながら屋台の準備をし始めた。

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