第4話

「まずここがどこかについてだが」


1つ目の広場を過ぎた辺りで男が話し始める。


「簡単に言うと道」

「えーと、それだけですか?」

「…まぁ、そうだな」


思わずじっと見てしまった。


「説明が下手という自覚はあるから言わないでくれ」

「まだ何も言ってません」

「あのなぁ、そもそも何て言ったらいいか分からないんだって。説明難しいんだって」

「じゃあ僕が質問するんで答えてください」

「はーい」

「まず確認なんですけど、やっぱりここって人間の世界ではないですよね?」

「そりゃもちろん」

「だとしたら、何の世界なんですか?」

「んー、人間風に言うと…神様とか?」

「えぇ…」

「おいコラ、胡散臭そーな目をするな」


胡散臭いことこの上ない。いつの間にか右も左も分からないような場所にいて、その上神様の世界だって?


「信じられないって顔だな」

「だってそうでしょう。いきなり神様の世界だなんて言われても…」

「まぁ当然の反応か」


男は肩をすくめる。


「残念ながら本当だけど、信じるかはあんた次第かな。で、他に質問は?」

「…じゃあ、僕だけお面をつけてはいけないのはどうしてですか?」

「それは区別のため。人間が迷い込むってのはかなり珍しいが無いわけじゃない。あんたの場合はちょっとかなり特殊みたいだけど」

「それは、迷い込んだわけではないってことですか?」

「そうだ。あんた、狐の面をもらったって言ってたよな」

「はい」


腰にぶら下げていた狐面を持つ。


「あぁそれそれ。人間がこの道を抜けるのには確かに面が必要なんだけど、本来なら何も描かれてないはずだ」

「どういうことですか?」

「狐っつったらお稲荷様かな。あんた気に入られたんだよ。だから連れてこられた」

「どうして?」

「さぁ?そこまでは知らないな。神なんざ気まぐればかりなんだから」

「でもさっき分かったって言ってたじゃないですか」

「憶測で物を言っちゃいけないことを今思い出した」

「何ですかそれ…」


くっくっと笑って男は続ける。


「しかしまぁ大物に気に入られたもんだ。よくこの道を歩かせてもらえてるな、あんた」

「言ってる意味が分からないんですけど…」

「お狐様は気に入った奴のことを手放さないことで有名なんでね。この道は帰るためのものだから」


つまり、手放さないはずのお気に入りが帰ろうとしているのに何もしてこないのは変ということか。


「ここが神様の世界なら、歩いている人たちって全員神様ですか?」

「そうだ。八百万の神ってやつ」

「じゃああなたも?」

「まぁそうだな。一応神なんだろうよ」


他人事のように言っているけど、神様なんて聞いたら普通に話しかけることが躊躇われる。


「僕、話しかけていいんですか…?」

「今更だろ、もう既に。そもそも俺は気にしないし」

「そういうもんですか」

「そーいうもん」


少しホッとした。


「それより」


ずい、と目の前に手を出してきた。


「これ舐めとけ」

「飴ですか?」

「あぁ。多少は時間を稼げる」

「何の?」

「その溶けてる手足だよ」


両手はもう二の腕あたりまで骨だけになっている。足は膝くらいといったところか。


「時間稼いだって、戻らないのでは?」

「言ったろ、お礼するって。いいから舐めとけ」


飴なんて食べるのいつぶりだろう。

久しぶりの飴は、記憶にあるものよりも甘かった。

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