第3話
「何の用だ?」
「困ってそうだったので何か手伝えるかなと思って」
「ふーん?」
「あの、何してるんです?」
男は左手をじっと見た後に掴んできて、指の骨をつついたりしていた。
「感覚あるの?これ」
「ありますけど…」
「あぁそう。あんた、急いでるんじゃないの?」
「え?まぁそうですが急ごうにも急げないので」
「俺を助けてくれるんだ?」
パッと手を離し、男は荷台にもどる。
「はい」
「じゃあ一緒に押してくれない?」
「分かりました」
男と共に奮闘すること数分。
溝から車輪を出すことに成功した。
30分ほどで左手は完全に溶けて骨だけになり、右手も中指、薬指、小指が溶けた。
そんな自分の両手を眺めていると、男が声をかけてきた。
「手伝ってくれてありがとな。あんたどっち行くの?俺はこっちなんだけど」
「同じ方向です」
「じゃあついてきなよ。手伝ってくれたお礼するから」
そんな感じで、なぜかひょっとこのお面をつけた男と並んで歩いている。
不思議な状況だし、相変わらず手は溶け続けていて怖いけど、1人ではなくなったことで多少は気が楽になった気がする。
「なぁ、気になること聞いてもいい?」
「何ですか?」
「どこから来たの?」
「鳥居をくぐってきたんですよ」
「どこの?ここら辺、鳥居いっぱいあるからさ」
鳥居をくぐってくる前にあったことや、通ってきた道を大まかに男に話した。
「あー、うん。はぁぁぁ…」
「な、何ですかそんな深いため息をついて…」
「いや、まぁちょっとね。こっちの話。気にしないで」
そんなこと言われると気になるんだけどな。
「あなたは、この道の先に何があるのか知ってるんですか?」
「1番奥までは行ったことないけど、途中までなら知ってるよ」
「何があるんですか?」
「ずーっと、こんな感じの道が続いてる。等間隔に広場みたいなところもあるよ。俺が向かってるのは今から3つ先の広場」
「広場…?」
「そ。屋台とか出てるとこ。休憩所的な?」
「そうですか」
休憩所って、誰が休憩するための場所なんだろう。人間のためではないことだけは確かだろうけど。
「あの、僕も質問していいですか?」
「いいよ」
「その荷台には何があるんですか?」
「あぁ、これね。屋台の道具とかだよ」
「屋台ですか」
「そう屋台。まぁ押し付けられたんだけどね」
誰に、と聞く前に、ガクンとバランスを崩して転んでしまった。
「え…?」
足の力が抜けたわけではなく、急にバランスが取れなくなった。
男も立ち止まり、顔を覗き込んできた。
「なぁ、本当に聞きたいのはこんなことじゃないだろ」
靴を脱がされ、あらわになった自分の足を見る。両手同様に溶けて、骨が見えている。
「あ…」
呆然としていたら、額をつつかれた。
「ほら、聞きなよ。俺は聞かれなきゃ答えないからな」
本当は聞きたいことがたくさんあるけど、聞いていいのか分からなかった。
目の前の男は間違いなく人間ではない。
「そんなに怖がんないでくれないか?あんたの方から声かけてきたんだから」
「あの…えっと…」
「別に取って食いやしないよ」
聞かなければ何も分からないだけだ。
答えてくれるというのだから、聞かないという選択肢はない。
「…ここは、どこなんですか?」
「いきなりどストレートにきたな」
「人間の世界ではないんでしょうけど」
「まぁそうだな。今ここにいる人間は多分あんた1人だ」
手を差し出され、立ち上がる。
「何て言ったらいいんだろうな。説明が難しい」
「本来は人間なんかが来れる場所じゃないってことですか?」
「そりゃもちろん」
じゃあどうやってここに来たのだろうか。
考え込んで俯きながら歩き始める。
「あ」
男の声に顔を上げると、前を歩いていた人が何かを落としていた。
「あのっ」
思わず走り出し、声をかける。振り返られて、思わず体が硬直した。
一ツ目のお面だった。結構怖い。
「あ、これ…」
お礼を言われてとりあえず何とか渡して男の隣に戻ると、
「あんた、お人好しって言われない?」
と聞かれた。
「よく言われます」
「あんたが拾ってやらなくても、誰かが拾ったかもよ?」
「そうかもしれないですね。けどいいんですよ。損したわけではないですし、お礼も言ってもらいましたし」
「ふーん。なるほどな」
「何がですか?」
「あんたがここに来た理由が何となく分かったんで」
「え、何でですか?何で僕はここに来たんですか?」
ぐいぐいと男に詰め寄る。
「ちょ、おい待て。順々に説明してやるから!」
勢いというか圧がすごかったのか、若干引き気味で男が言った。
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