私は作中作中作中作
私は多分、お話の登場人物なのでしょう。
私の人生はずっと、お膳立てされています。
一日に一つは、特筆すべき何かに出会う。余計な要素は何一つない、純度の高い『出来事』。
それは、誰が見ても『出来事』だと思えるようなことだったり、私以外の人間にとってはどうでも良いような事だったりします。
実態はどうでもいいのです。
ただ、私は、それらを心のなかで反芻しない、ということができない。
全て、自分の心情描写を交えた文章として、心に書き留めてしまう。
きっとそれが出版されているのではないかな、と思うのです。
作家になることにしました。
どうせ私の心中が売買されているなら、自分の手で売ってやろうと思ったのです。
ためしに、今まで心のなかに留めていたことを文にして、とある賞に応募してみました。
入賞しました。
作家になりました。
色々と、大きな出来事が起こったはずですが、思い返すことができません。
私の筆者がそれについて知らないからなのかな、と思いました。
それから私は、作中作を書き続けました。
書く話書く話、すべてがなんとなく話題になり、なんとなく売れていきます。なんとなく権威のある賞も、なんとなく数えきれないくらい獲りました。
しかしその感情を言葉にすることは、いつまで経ってもできないままでした。
「俺は普段、あんまり本とか読まないんだが。ていうか買った記憶もないんだが……せっかくなんで、読んでみたんだよ。メタフィクション?っつーのか?まあ、物珍しさもあったよ」
図書館にやってきました。
怪談小説を書け、と言われたからです。
誰に言われたのかは、もう思い出せません。
きっとどうでもいいのです。
図書館は、本の匂いがしませんでした。
どれだけ目を凝らしてもタイトルが読めない背表紙が並ぶ本棚に、目的の資料を発見しました。
『妖怪百科』。
その本だけ文字がはっきりとしていて、まるで私がそれを求めていることが分かっているかのようでした。
最近は、露骨です。
その本に乗っていた妖怪のうち、私が魅力を感じたのは『 』でした。
人間に化け、人間を騙し、殺して食って、また人間に化け、また騙し、殺す。
あまりにも有名で、今更題材にしたってしょうがないような妖怪です。
散々考えなしに受賞させてきた筆者への意趣返しにもなるでしょう。
を元に、怪談を書き始めました。タイトルはそのまま、『 について』。
私の筆者に対する悪意をたっぷり盛り込んで。オリジナルの妖怪、化物、怪異として、いくつかの新たな性質を得たその怪談は。
「びっくりするぐらいつまらなかったな。なんというか、話がぶつ切りというか……無理やり終わらされた、みたいな。それに、肝心の化物の正体がわかんなかったしな」「……ほら。書いたぞ」
その日からわたしは、誰にも邪魔されず自分をかたれるようになりました!
結局、自分の心の中にとどめておくのが一番よかったんですよ。
あんなもの書くから。
わたしは、わたしをかたっています!
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