僕の町で、それだけが本物とされていた。

僕の町には、よくわからない祠がたくさんある。

どこを見ても、視界内に、必ず一つはお供え物がある。少し散歩をすれば、石を蹴ってしまう。それくらいに。

それらは全て、誰かの祈りなんだそうだ。

この町には、神様がいない。

実在する、実在しない、という話ではなく、

伝承として、「神様がいない町」、とされている。

たとえ神社が近くになくたって、無神論者だって、都合よく神頼みをすることぐらいはあるだろう。

重い病気とか、どうしても成功させたい受験とか。

この町では、

そういう祈りが許されていない。


昔、神様がこの町を捨て、いなくなった。

だから、神様に祈ってはいけない。

だから、

自分だけの神様を作って、

自分だけの祠に祀る。

ここは、そういう町だ。

祈る意味がなくなったら。病人が死んだら、試験が終わったら。

祠はそれ以降管理されることはなく、ただ打ち捨てられる。

どうせ勝手に作って勝手に使った偽物の神様なんだから、祟りなんてあるはずもない。

だからこそ、

僕の町で、それだけが本物とされていた。


「だから私は、お前らを捨てたんです」

聞き覚えのない声が聞こえる。

もうすぐだ。

もうすぐ、あれが僕を訪ねてくるだろう。

僕は必死に、家の中のあらゆるものを使って、祠を作り続ける。

そんなものに祈っても、あのお供え物を盗んだ罪は消えない。

そんなものに祈っても、あの石を蹴飛ばした罪は消えない。

あの祠だけは、誰が作ったのかはっきりとしていない。

「打ち捨てたのは私の方だったんですよ」


それだけが、本物の。



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