エピローグ

嵐の旅人・仙堂寺あずさ


「うちの恋物語はまず、自分探しの旅から始まるの」


 あの後、俺はあずさと一緒に長い夜を過ごした。

 その際にあずさは自身の人生再スタートとなる思い出の場所を作りたいと提案してきたので、数日後に俺と彼女で東京から少し離れた山奥にある平原に足を運んでいた。


「それで何処で旅をするんだ? 北海道、関西、それとも世界一周でも計画してたりしてな」


 あてずっぽな感じに考えることもなく、彼女に行き先を問いかけてみると。


「私が生まれるきっかけとなった世界に行きたいの」

「それはどういう?」

「前にも話してたよね。パパは異世界から来た人だったって」


 その言葉の意味と、その後に来る俺と彼女との間にある運命に察しがついた。


「……そうか、やっぱそうなんだな……」

「あのね。ダーリンはこれから沢山の出会いと別れを繰り返して行くと思う。うちもその一人だと思うの」

「もう別れ話なのか……?」

「ううん、違うよ。うちはこれからもずっと人生の最後までダーリンの事を愛し続けていく。これはお別れの為に訪れた最後のデートじゃないの」


 そう言い終えて、あずさは平原の景色をバックにするよう俺の前に立つと。


「ここから始まるの。私達の新しい恋物語の序章がね。うちは自分が生まれる事になったルーツを探す為に異世界を旅する。ダーリンは……どうする?」


 長く考えていく内に、俺の胸の中にはチクチクとした辛い気持ちがこみ上げており。


「正直……俺にはまだこの世界で……未練はあると思う……」


 何も言わずに俺は、自分を大切にしてくれている人達の元から去るだなんて出来ない。

 そう思い悩んでいると。


「そうだよね。うん、ダーリンは誰にでも優しいから。これからもずっとその優しい姿のままで居て欲しい」


 彼女の目には寂しさの混じった涙がこみ上げつつある。


――だからと言って俺は手のひらを返したように返事はしないさ。


 そう、それを踏まえて俺も今日の事が訪れる事を予期していた。

 ここから俺と彼女で駆け引きが始まる。


「確かに。俺は色んな人達に支えられて生きてきた。その恩もある。それに俺達の事を陰ながら見守ってくれている遥の事が俺にとって……心配なんだ……」


 彼氏失格だと罵られても良いと思った。


「知ってる。そこは遥にはあって、うちには無い強みだと思う。いいなー幼馴染み。うちももっと早くからダーリンと出会っていたらさ。遥と一緒になって甘酸っぱい青春とやらを謳歌できていたんだろうなぁーって思うなー」

「だから御願いがある」

「んーっ、何かなー?」


 あずさは取り繕った感じの柔らかな笑みで俺の話に耳をかたむけてくる。


「俺もあずさと一緒に異世界に旅がしたいんだ」


 この言葉を彼女にかける前の前日に、俺は遥の前で土下座をして異世界の旅に行きたいと懇願していた。


――恥も全て投げ出して。彼女に平手打ちされる覚悟もしていたんだけれどなぁ……。


 俺の誠意に対して、なんと彼女はあっけらかんとした様子で。


『何よ突然に土下座なんかしちゃって。あんたがそんな事をするって事は。よっぽど自分では手に負えないような事なんでしょ?』

『あ、あぁ。その、実は……』


 そして事情を説明すると。


『いいなーあたしも忙しくなかったらあんたの事がその……心配だから……一緒について行きたいなって』


――そっか、内定が貰えたんだよな。


『遥。君の勝ち取った人生を無駄にして欲しくはない。俺は自分の望む未来を送りたいと思っているんだ』


 そこが俺と遙の間にあるレールの分岐点だった。


『行ってらっしゃい。旅先であずさを悲しませるような事をしたら許さないから。そんな事をしてあたしの前に現れてみなさい。その場で特大のビンタ。全力でお見舞いしてあげるからね?』


 俺は彼女の元へ歩み寄り、優しく抱き寄せて囁く。


『遥、これからも君は俺の幼馴染みで大切なもうひとりの恋人だった。また君と一緒に着せ替え遊びが出来る事を心から楽しみにしてるよ。時間があればまた君の元に会いに行くよ』


 その言葉で彼女はすすり泣きながらこくっと首肯して見送ってくれた。


「ダーリン、それは本気なのかな? 手のひら返しをしちゃうの?」

「違う。単に前置きとして話したかっただけだ。その、昨日……遥と別れの挨拶をしてきた」

「えっ!?」


――届いて欲しいな。この気持ちと行動が彼女に伝わってほしい。


 俺が望む未来の為にも。


「あずさ」

「うん」

「俺とここで、最後のマジシャンズバトルをしてくれないか」

「それって。この世界で思い残す事が無いようにしたいってことかな?」

「ああ、ここで俺は過去の自分と決別したいと考えているんだ」

「わかったわ。じゃあ、そこまでして覚悟を決めてくれた訳だし。いいよ、一緒に異世界の旅をする前に。うちとマジシャンズバトルでお話しよう」

「感謝する」

「どういたしまして。じゃあ、せっかくだから精一杯頑張ってうちを満足させてほしいかなー」

「ああ、望むところだ」


 お互いにデッキを用意し、手札を5枚手に取り、俺達は正面を向き合って距離を取りながら。


「いくぞ、あずさ」

「はてさて、数多のマジシャンズバトルで腕を磨いてきた。百戦錬磨のうちに勝てるとでも」

「その言葉、返させてもらう。さあ、一緒にマジシャンズバトル開始の宣言をするぞ!」


 静寂の後に俺達は互いに頷いた瞬間。。


「「マジックスタート!」」


――俺達の心の中にある童心はこの先も色褪せる事は無い。この命が尽きるまで俺達の目指すロードは永遠のマジシャンズバトルで紡がれていく!


「先行はもらったぁああああ!!」

「いい気になってんじゃないわよ! さあ、最初の1枚は何?」

「うぉおおおおおおお!!」


 俺達の熱き戦いが幕を開け、決着に1時間を費やし。


「ふぅ、お互いに大健闘だったな。これからもこの力を武器にして互いに支え合おう」

「ふふ、ダーリンが望むならうちは全てを捧げるつもりだよ」


 両者敗北という形で幕を閉じることになった。


「ああ、そうだな」


 とはいえ。


「それでどうすれば異世界に行けるんだ?」

「えっとね、方法はひとつあるの」

「どんな?」

「ダーリンが持っている勇者のカードの力で異世界に繋がる門。名前は旅の扉って言うんだけれどね。うちもパパが残してくれた資料を基にして、ダーリンに話しているところだけれど」


 要するに、そのカードの力を結集させることで実現が可能だという。


――って事はカードを全て重ねたらいけるんじゃね?


 そう思って試してみると。


「これが異世界に繋がる旅の扉……」


 アニメや映画でしか見たことの無い渦を巻く亜空間が現れる現象が目の前で発生し。


「行こうよ新世界に。ほら、いつ閉まるから分からないしさ」


 旅の扉を開いた5つの勇者のカードが化学反応で混じり合い、融合マジック『勇者の紋章』という1枚のカードにデザインを変えた。


「どうやら。これが俺達が持つ異世界への通行証みたいだな」

「ふふ、楽しみだなー。うちが生まれることになったルーツを探す旅。きっと好きなラブソングを中古店で探すように素敵な旅になりそうだねー」


 あずさが微笑んで俺の手を取る。


「そうだな」


 こうしてあずさと共に俺は異世界の旅を始めることになるのであった。

          

            マジックマスターズ-偽りの彼女と恋する心の涙- 完

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マジックマスターズー偽りの彼女と恋する心の涙ー 天音碧 @amane_mitinonn

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