ターン6-6 真実を語る彼女と恋する勇者の覚醒
あずさの首肯する仕草を見た後に俺の、本当の自分は何者だったのかを彼女に語る。
数年前。俺はとある公式の大型大会、世界を股に掛けてマジシャンズバトルを繰り広げる大会で日本人初の選手として出場していた。
いわゆる世界の代表選手を相手にして戦い頂点に立つ大会だ。
「普通ならそこでいい話で終われたかもしれない。あずさも知ってるだろ? この大会で何が起きていたのか」
「不正行為が横行していた年だったね……あの時は本当に酷い試合ばかりだったのを良く覚えてるよ……」
そう、そこで俺は不正行為をする選手達を相手にして準優勝まで登り詰めることができた。
「たまたま、うちはその試合の様子を見ていなかったけど。ダーリンがチャンピオンと戦っていたんだね」
「まあ、あの時はドロップアウトするつもりでいたんだけれどさ。対戦相手に申し出をしてみたら怒られて。その対戦相手も俺と同じように運良く真面目に戦って決勝戦にまで勝ち上がってきた選手だったんだ」
――『あきらめるな。君はそこまでの人間なのかい? 俺はそんな半端な気持ちでこの大会から身を引こうとするユーを尊敬する事なんて出来ない。逃げて得られる者なんてほんの少しの参加賞のみ。君が立って見る世界の全てを見渡せる場所に立つ事の出来るチャンスがいまそこにあるんだ』
「対戦相手に鼓舞されてはどうも身が引けないと思ってな。結局、真剣勝負に挑んで結果を出したんだ」
その後。俺に対してファン感情を抱いた人達からは『チートキラー』または『大会に一閃の輝きを残してくれた勇気ある人』という呼び名でそう呼ばれることになり。
「気づくと、俺の呼び名が勇者カズマに統一されていったんだ」
――当時の俺からすれば只単に真面目なマジシャンズバトルをしたかっただけだ。
その大会をもって、俺はなすべき目標を達成したと感じ、満足感と共に競技大会終了後に。
『準優勝の勇者カズマです。今大会のトーナメントでもって、自分は使命を全うしたと感じたため。最前線の場から身を引くことにします。ファンの皆様には感謝を申し上げると共に。今後、陰ながらになりますが。マジックマスターズの一ファンとして楽しませて頂こうと思います。応援ありがとうございました!』
SNSで現役引退を表明し、数日後にアカウントを削除した。
「素敵な話を聞かせてくれてありがとう。君の事、もっと知る事ができて嬉しい」
「あずさ、怪我は?」
「ううん、大丈夫。それよりもダーリン」
「何だい?」
「ダーリンにね。うちの全てを話したいの。聞いて欲しい、うちは一体何者なのか」
あずさは今まで自分が偽りの人間を演じてきたことを打ち明けてくれた。
――確かに、どこかのタイミングで少しだけ取り繕った感じがあるなとは思ってはいたな。
そして自分の父親は異世界人である事。そして母はこの世界の現代人であり。
「私は異世界人と現代人の間に生まれたハーフだったの」
さらに、自分は幼い頃からその容姿が原因で周囲の人間から避けられる日々を送り、小学校からはいじめの対象として在校生のいじめっ子達の的になっていたという。
「そして……私がいじめられる絶頂期の最中で。父が不審な死を迎えた」
「ああ、こちらも別の人間からマクスウェルが今まで起こしてきた悪事を聞いてて把握はしていたが……つらいな……」
共に【父】という大切な存在を失った影響は計り知れない。
「うん、そして当時の私は父が生きていると誤認したままマクスウェルの計画に使われる駒として今日まで働き続けていた。でも、もうそれは今日までの事。うちはもう誰にも縛られない恋する女の子になれる」
と、あずさは思いを打ち明け、俺に言いたいことがあるようだ。
「最初からずっと君に対して嘘つきで卑怯者な自分を演じてきた」
「そうだな」
「でもね。こんなうちでも君に本音を語りたいって思う自分がいて。それで今日の出来事をきっかけにね」
ひとつ間を開けると、あずさは緊張した様子で自分の気持ちを俺に伝えてくる。
「ダーリンと今まで積み重ねてきた偽りの関係を終わりにしたい」
まっすぐに見つめてると共に。
「もう一度。真剣にダーリンと恋がしたいの!」
あずさが本音を言ってくれた。
駆け引きが始まり、そのあずさが投げかける対話に対するこちらの解答は。
「いつものことじゃないか」
と、俺は笑みをこぼして答えると。
「バカ、デリカシーが無いしサイテーよ。もう!」
と怒りつつも、あずさは俺の頭部に両手で触れると、彼女は額をくっつけて小さく笑ってきた。
「でも、思えばあずさのそういう所は見習うべきだと思ったし。それに、その事が俺にっとって惚れてしまった要素なんだよな」
すると彼女はうれし涙と共に。
「好きです。結城一馬さん。私、仙堂寺あずさは心からあなたの事を愛しています」
その言葉に俺は本当の意味で互いを認め合う仲となったの感じる。
「俺もあずさが好きだ」
「……うれしい」
もうそれ以上の言葉は不要だとお互いに思った。
ギュッと抱擁すると共に互いの感触を肌で感じながらその場の時間を過ごすことにした。
ふと、目端でチラッとPCの画面が見えており、そこには配信途中だったのを忘れてて。
――あ、これ状況的にリスナー達共からやばいお気持ちコメントが流れているんじゃ……。
そう思って目を良くこらして配信に流れているコメント欄の様子をうかがうと。
『おめでとう!』『いいモノをみさせて貰えたよ! これこそエンタメMBだ!』『まるでここはドラマの世界の……いや、これは勇者と姫のふたりで彩り飾る愛のハッピーエンドストーリーですぞ……』
「みんなが祝福をしてくれているな」
「うふふ、うちのリスナー達は良く訓練された精鋭ぞろいだからねー。じゃあ、このままラストの締めにねダーリン」
「何をどうするんだ?」
「うちと抱擁したままキスをしてほしいなぁって思うかなー」
なんとも言えないが、彼女の望みを汲み取ることにして。
「……いくぞ、あずさ」
「ハニーって呼んで欲しい、ダーリン……お願い……」
――ふっ、仕方がないな。
「……ハニー、君の唇は俺のモノだ」
「……嬉しい……来て、もうこれ以上は我慢出来ないの……」
お互いの顔が重なった瞬間。俺達の本当の恋物語が始まろうとしていた。
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