ターン6-3 真実を語る彼女と恋する勇者の覚醒

「僕は君のお父様が掲げる理想的な世界に対して反対の意義を申し上げたんだ」

「それで、うちのパパが賛同しなかったから。だから殺したっていうの?」

「あぁ、そうさ。気に入らないからと言ってこの僕である弟子を捨てようとした。その瞬間に愛が憎悪に変わって。僕は大賢者である君のお父様をこの手で殺したんだ」


――そんな……そんなの……ひどいっ!!


「……ひどい、酷すぎるっ!! よくも、うちのパパを……っ!! パパがどんな思いでカードに気持ちを込めたのか、なんで解ろうとしなかったわけ? ねぇ、教えなさいよ! この人殺しぃっ!!」

「そんな下らない物に情熱を注ぐようになった。愚かで憐れな大賢者の背中を見て落胆しない奴が何処にいるとでも?」

「……娘のうちだから解る。パパは魔法を平和的に利用する方法を模索するために魔力が込められたカードゲームを創ろうとした。そうじゃなかったらもっと、パパはその素敵な魔法の力で色んな人の笑顔を沢山つくれる魔法使いになれていたはずだったのに……」


 言葉の端々でも解るその、パパのなりたかった次の新しい自分について。


――勇者の剣は魔王との最終決戦の後に目の前で音もなく忽然と消えてしまった。


 勇者との旅を終えたパパは、その勇者からの頼みで剣を探す旅に。この異世界に転移してきた。


 そして私は自分の事を理解した。


――私は異世界と現代世界の間に生まれたハーフだったんだね……。


 母が死んだ理由はもう、マクスウェルによって父が殺されてしまったので、直接聞くことが叶わないので諦めるしかない。


――パパとママはこの世界で出会って恋に落ちたんだね……。


 そして私が産まれてきた。

 私とママの為に、パパは安息の地としてこの世界を選んでくれた。


――私を産んでくれてありがとう。パパとママが産んでくれたこの身体。これからも大切にするね。


 ふたりには会えないけれど、感謝の気持ちを込めて亡き両親に願いを込めた。


「僕は魔王との戦いで味わったあの時の勝利の感覚……今でも……忘れることなんて出来ない……」


 と、マクスウェルが余韻に入り浸のをじっと見つめて次に話す言葉に耳を傾ける。


「ハニー、僕はもう一度。あの戦いでしか得られなかった快感を味わいたいんだぁ……」


 マクスウェルは喉の渇きを癒やそうとする仕草を取ると共に視線を私に送ると。


「それでね。僕は師匠の陰で考えていたんだよ」

「……で?」


 マクスウェルの甘えた態度に対し冷たい態度で言い返すも、私の声は聞こえて居ないようで。


「どうすればこの異世界において魔法を上手く使い。自分のこの満たされない欲求を解消する事ができるのかについて考えたんだ」

「そ、それでどうしたのよ……」


――自分の世界にいるのね。


「僕は師匠の生み出したカードゲームに魔力を込める技術を。僕はこの明晰な頭脳でもって軍事的な利用に繋げられないかと考えたんだよね。そう、僕のこの手の中にある魔法技術がトリガーとなる。この世界に最も凄惨で残虐な魔法戦争を世界に拡げていきたい……。あぁ、素敵な策略だろぉ? この世界に再び魔王が現れて、僕が魔王となり配下に僕が産みだしてきた研究成果の数々の魔人達が軍勢となって矢面に立つことになる。文字通り僕がこの異世界の帝王になるのさ!」

「人が魔人になればもう……その人の未来にあったはずの幸せな人生はそこで終わりじゃないの……」

「なぁ、ハニーはこんな僕の事を賞賛してくれるだろぉ?」


――人の話を聞いていない。


 マクスウェルの狂った思想に心が抉られるも、私は強い意志でもって内なる積年の怒りをぶつける。


「つまり何よ。パパに無断で盗んだ研究技術を使って人殺しの研究をしたいだけじゃないの!」


 その先の事は考えたくもない。


「まあ、いい。ハニーには疲れているようだし。そもそもで、僕がこの一連の出来事を計画したかについては聞きたくはないかい?」

「……手短にお願い……今にもうちはあんたを殺したくて仕方が無い自分を抑えるのに必死だっていうのに……これ以上の無駄話は無用よ……」


 事実。父の敵を前にして何も出来ない自分が悔しくて仕方が無かった。


「じゃあ、この話を語るので最後にしよう。その後は……フヒ! 僕とハニーの素敵な晴れ舞台が待っている」


 その素敵な晴れ舞台というモノは一体何を指しているのかは解らない。


――でも、何か良からぬ事を企んでいるには違いないんだろうね……。


 無抵抗の私に何をさせようと言うのか、そう思っているとマクスウェルが自分語りを再開したいと話すので。


「……続けて」

「では、お言葉に甘えて。ハニーには僕の生み出した生物兵器である『魔人』の全てをお話しましょう」


 マクスウェルが恭しくお辞儀をすると共に魔人の成り立ちを知る事になった。


――まさか、私が集めた勇者のカードがそんな事の為に悪用されてたなんて……。


おまけにその改造された勇者の『心』のカードは、あの時に半グレの男に手渡したモノで。


「つまり、私は人間を魔人にする為にパパが残してくれた大切なカードを……」


 私はこれ以上に言葉が出なくて塞ぎ込んだ。


 それをほくそ笑んだ表情でマクスウェルが見てくる。


「イリアスを殺した僕は数年の歳月を得て。マクスウェルの名をこの世から消し去る事で、君のお父様に身を扮する事で計画の第一段階が成功した」

「パパに扮して何がしたかったの」

「もちろん、僕の掲げる理想の異世界生活が送れることを願ってのことさ」

「…………」

「そして君が回収した勇者のカードは全て解析に回したが。イリアスの巧妙な偽造防止魔法の影響で研究が遅れてしまった。不覚にも……弟子の僕がしてやられたとは……」


 呆れたと素振りをする彼にじっと話の先を聞くことに集中する。


「だが、その偽造防止魔法の技術も数ヶ月で突破に成功した。こうして僕の考えた本格的な軍事利用の為のカード研究と魔人の製造の計画が始動したんだ。そしてこのデッキが僕の最高傑作さ! これを使う事で使用者は魔人になれるかつ、そのカードの力で人を簡単に殺すことができる! 某国の将軍とも取引の契約を結ぶことができたし。今度は大国の大統領とも話せる機会があったんだ……」

「ちなみに……その持っているデッキの中に……ダーリンを石にしたカードがあるわけ……?」

「もちろん、そうさ。石化のマジックを封じたカードは実に軍事的な価値のある代物だと評価されたよ」

「じゃあ、もし。うちのダーリンが再び現れたらその……戦うつもりなのよね……?」

「そうさ。それば今の僕に課された使命さ」

「ダーリンは勇者のカードを持っているんだよ。負けると思うんだけどなー」

「ありえない事だね。とはいえ、あの男をターゲットにしてからは……不思議と……どうしてだか僕が考えて進めてきた計画に狂いが生じるようになってきたんだよ……そして計画はご破算になって……くそっ!!」


――取り繕う島もない感じね。


「だからダーリンを交通事故で殺そうとしたのね……」

「それもあるが。君と親交を深めているあの男を見ているうちにね……純粋な殺意が湧いたんだよ……。私怨ってやつさ」

「ジェラシーで人が簡単に殺せるなんてさすがね」

「皮肉だろうが何とでも言ってろ。僕は君が物心がついていない頃から好きだったんだ」

「うっ……ロリコンじゃん……」


 ギョロッとした眼差しを向けてくるマクスウェルに思わず身の毛のよだつ思いをする。


「生理的に無理」

「そうだとしても君をこの手にするまでは地の果てでも。いや、どんな異世界に居ても追いかけてみせるさ。それが僕なりの君に対する愛情表現なんだから」

「……吐き気がする……」

「まあそんなハニーの反抗は魅力的でもあるが。あの男。結城一馬は一度この手でしっかりと殺した筈だったのに……」


 ダーリンは一度死んでしまった。


――でも神様のイタズラなのか、私の知る限り。魔人になって復活したダーリンはその命を救われた。


「魔人に覚醒したのよダーリンは」

「ああそうさ。ハニーの差し金か?」


 マクスウェルはダーリンを生き返らせるために、私が何らかの工作を行ったのではないかと疑ってくる。


「それはない。ダーリンが死んだ時。うちは勇者のカードを手渡すような事はしていない!」

「ふん、まあいい。僕は正直に言って人を信じる事が出来ない。人は全て僕に対して正直者でなければならないんだ」


――隠し事はなし。全てを知る事に何が意味があるっていうのかな? そんなの独裁されたコミュニケーションしかないわよ。憐れ。あなたは齢12歳で得た何の成功体験のない壮大な勝利の快楽に溺れて依存するようになって。心が成長する機会を失いそのまま大人になってしまったのね。


「あの男に送りつけた刺客は悉く返り討ちに遭ってきた。こちらが掛けてきた研究予算も既に底がついてしまった……。クライアントからは縁を切ると言われ、終わりまっしぐらな状況……どうすればいいんだぁ……!!」


――勝手に自滅してなさい。


 嘆いている。1人前にマクスウェルは自分の事だけを考え、精神的に思い詰められて悲しみに明け暮れている。

 そんな私には彼の行動に対して何も言うことは無かった。


「もう残す計画は君との結婚以外にないんだよ」

「気持ち悪い……」

「いいや、気持ちの良い事だよ! これから始める結婚披露宴の準備をしておいた。あそこにある、君がいつも使っている配信機材をそのまま僕が同じのを用意してあげたんだ」

「そこで何をさせるつもりなのよ……」


――性的な配信を強要させるとでも? いや、冷静に考えると……マクスウェルが私に好意があって。


 彼が実際にいま求めている事を推測する。


――もしかして……顔ばれ配信をさせるつもりでいるの……?


「さて、今からハニーには。君が今まで僕にしてきた全ての罪を償って貰わなければならない。その配信機材にはハニーが何時もしているような面割れを防ぐための加工はしていない。もし、おかしな真似でもすればこのカードで君を殺してあげるよ」


 マクスウェルが脅す目的で私にみせてきた一枚のカードに目を通して思わず絶句する。

「こんなの……人を殺すためにあるだけの完全な対話拒否カードよ……」


――禁忌マジック『死への誘惑』


【・このカードの発動の宣言に対し相手マジシャンは全ての宣言ができない。】

【・このカードはトラッシュしてから次のアクションフェイズ開始時に使用したマジシャンの手札に戻る。このカードの効果に対する発動宣言に対して相手はリアクションは行えない】

【・このカードの発動宣言が成功した後に、相手マジシャンは自身のLPが1になるように削らなければならない。出来ない場合は相手マジシャンのLPは0になる】

【・このカードは相手の効果で手札から離れない】


 その1枚で死が確定する。

 普通のマジシャンズバトルで存在していたなら、惨事になりかねない危険なカードだ。

 それが目の前の男の手の中にある。


「それをリアルで使ったら死んでしまうの……?」


 私はマクスウェルに対して潮らしい態度にならざるをえなかった。

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