ターン6-4 真実を語る彼女と恋する勇者の覚醒


「ようやく君自身の置かれている立場を理解できたみたいだね。このカードの効力はつまり。死のマジックが込められた恐ろしいカードなんだよ、フヒ!」

「………………」


 ただ、従順に従う人形になれという意味合いにもとれる。


――あぁ、私。いや、うちはもうここまでなんだね……。色々と尽くしてダーリンが迎えに来てくれることを信じて頑張ってきたけれど。結局、うちは自分の命が惜しくて。目の前の悪人に屈しちゃった……ごめんね。ダーリン……こんな愚かなうちを許して欲しい……。

 マクスウェルの持つスマホの画面を視て命令文通りに従い、ゲリラ配信に訪れたリスナー達の前で話し始める


「みんな。夜遅くからごめんね。さっきの配信は楽しかった? えへへ、ありがとうねー」


 沈んだ表情の中で、いつもとは違う配信環境に対する不信感を持ったリスナー達を前にして、私は自分が鉈豆あずさの中の人であることを打ち明けた。


『え、めっちゃ美少女じゃん!』『きゃわわっ!』『速報:あずさの中の人がゲリラ配信してるって呟いた! すげえええええええええええええええ!!!!』

「えへへぇ、恥ずかしいぃよぉ……」


 意外にも普通の顔出し配信でも収益がでることに気づかされて学びを得ることができたけど。


『さあ、このカンペを読み上げて全てを終わらせるんだ』


――マクスウェル……あなたを一生、絶対に許さない……!!


「今日はリスナーの皆様にお伝えしたいことがございます」


 マクスウェルの書いた文章の通りに、私は今まで自分がリスナー達をどんな風に騙してきたのかについて読み上げていく。


――これ、全部マクスウェルの被害妄想で書いたカンペじゃないの……ぁあ、嫌だ……。


 こんな偽りの文章を読み上げさせられて、それを聞いていたリスナー達が黙っているはずもなく。


『意味不明……』『理解に苦しむ自分がいる……』『どうして私達を騙してきたの……?』


――あぁ……、私が大切に積み上げてきた夢が穢されて崩れていく……嫌よこんなの……。


 ダーリンと共に積み上げてきた夢をこんな形で終わらさせられるだなんて、死にたいくらいに心の中で苦痛を感じる。


 そして締めと称した最後の言葉を読み上げることになった。


「皆さんに最後のお知らせがあります。今日この配信を持って鉈豆あずさは引退宣言をさせて頂きます」


『ああそう』『で?』『裏切るつもりなら炎上させますよ?』


――泣きたいけれど飲み込んで我慢するしかない……。


「そして私、鉈豆あずさもといい。仙堂寺あずさは今日。この画面越しにいる男性と兼ねてのお付き合いをしており。このたび、結婚をさせて頂くことになりました」


『ファン辞めます。さようなら』『うそつき』『こんな醜い女に俺はガチ恋してたのかよ』


「そんな……ひどい……!」


 リスナー達の冷たい言葉に絶望すると共に悲しみがこみ上げてくる。

 そして胸が傷つき悲しんだ後に自分の心に涙で溢れている事に気づく。


「さて、結婚披露宴はこれにて終了だ」


 ふと、マクスウェルが配信アプリを操作してマイク音声入力の遮断をすると。


「やってくれたわね……っ! うちが一生懸命に育ててきた夢の世界を……こうも簡単に……うぅ……酷いよぉ……!!」

「当然の報いだ。君が僕の指示に従わなかったからこうなったのだ」

「あんたの指示する内容の全てが。どれも私を大事にしないモノばかりだったじゃない!」


 彼の言い放った言葉に私は噛みつく。

 するとマクスウェルは我慢ならないと言葉を乱雑に吐き捨て、私に『スタン』のカードを使って痺れさせてきた。


「もう、どうでも良い。さあ、行こうか。あの壇上で僕たちの誓いの言葉を囁こう。僕がエスコートしてあげる」

「……あ……がっ……あぁ……!!」


 マクスウェルは痺れて何も出来ないことを良い事に、私の片腕を強引に掴んで壇上へと連れ出す。

 そして始まる誓いの言葉。


――耳にしたくもない。こいつの顔を目に焼き付けたくもない。


「僕は君の事を心から愛しています」

「ぁ……うっ……」

「ありがとうハニー」


 長い時間に感じられるマクスウェルの並べる誓いの言葉に耐えがたくて辛い。


「誓いのキスをするね」


 私の有無を聞かずマクスウェルがその醜悪な顔がを近づいてきた。


――嫌ぁあああああああああああああああああぁっ!!


 声と心と共に絶叫で満たされており、もう何も考えることなんて出来なかった。

 私はマクスウェルの口づけを受けようとした。


「あずさぁああああああああああああああああっ!!」


 後ろで教会の大扉が盛大に爆破する音が聞こえてくる。

 そして聞き覚えのある人の声聞こえてきたのを耳にして顔を向けると、そこに現れた私の愛する勇者様がいた。そして隣には大聖霊龍シャンバラがあくびをかいて座している。


「ば……バカな……ありえない……っ!?」


 マクスウェルを驚愕させると同時に、侵入者は聖堂の中へと入り込んで。


「待たせたなあずさ。君を迎えに来たよ」

「ダーリン!」


 愛しの王子様こと、結城一馬が私を救いに来てくれた。


――素敵、信じてたよダーリン。んもう、気分がハイになるじゃないの!


 それと共に感じるこの胸の高鳴り。


――好き……ううん、愛してるダーリン。これが終わったら、ふたりで紡いでいく壮大な愛の物語を描こうね。その時には私、本当の気持ちを君に伝えたいなー。


 感極まって思わずダーリンに対し、私は心からの愛情を表現した投げキッスを送り届ける。


「あずさ。その気持ちありがたく受け取るぜ!」


 ダーリンは手でつかみ取ると胸にしまった。


――だめ、好きで溢れちゃいそう……こんなの駄目なのに……!


 その後、ダーリンは1枚のカードをデッキケースから抜き取って発動する。


「俺はこの手の中にある勇者の盟友の発動を宣言する事で。あずさに大聖霊龍の加護を付与する事が出来る。頼んだぞ、シャンバラ! その男が触れられないようにあずさを護ってくれ!」

「くっ、くそ!」


 宣言して発動した『勇者の盟友』のカードの効果によって、私は大聖霊龍シャンバラが顕現したと共に放たれた加護の恩恵を受ける。


――感じる……。シャンバラの心を介してダーリンの愛が伝わってくる……。


 もう、安心していいよね?

 私はその場で心で感じる涙を流して愛する彼に問いかけた。


「ダーリン! マジシャンズバトルはもう始まってるよ!」

「あぁ、俺はもう二度と君を失う訳にはいかない。この覚醒した力でマクスウェル。お前をマジシャンズバトルで必ず倒してみせる!」

「やれるものならやってみせろ、結城一馬ぁああっ!!」

「前置きはここまでにしよう。後は俺達のマジシャンズバトルで対話しようじゃないかマクスウェル!」

「望むところだ結城一馬。改めて貴様をこの場で殺して、僕はハニーと添い遂げてみせる!」


――始まる……最後のマジシャンズバトルの瞬間が今、目の前で壮絶な戦いの幕開けの予感がするわ……。


「あずさ、俺達のマジシャンズバトルの為に合図を頼んだぞ!」

「えっ、いいの?」

「ああ、いいさ。俺達は一蓮托生っていうその……なんだ……」


――ふふっ、思いつきで喋ってるね。


「いいよ。でも少し待っててね」

「なんだ?」

「こんなに貴重な戦いをふたりだけってずるいかなーって。ほら、そこのパソコンを見てよ」

「……あっ」


『いけー!』『俺達のあずにゃんを救ってくれぇ!!』『こんなの見届けない訳がないでしょ!』『勇者! 勇者! 勇者!』


――嵐が過ぎれば輝く太陽が地を照らしてくれる。あの状況でも、信じてついて来てくれたみんなにありがとうを伝えたい……!


 すかさず私は立ち上がりリスナー達の前に立つようにパソコンへと駆け寄る。


「ごめんねーみんな! 私はみんなに嘘をついてきていた。でも、こうしてみんなが視ているマジシャンズバトルの景色。ずっと視ていたいよね。私もそう思う。いつもの景色に変わった景色がある。なんて素晴らしいんだってね! みんなは……この戦いを見届けたい……かな?」


 そう問いかけてみると。


『いいですとも』『俺達は最後まで諦めないぜあずにゃん!』『君の素顔を見れただけでも眼福だ!』『あいつ……どっかで見た覚えがあるんだよなぁ……』


 首をかしげるようなコメントもあるけれど、肯定するコメントが流れいるので。


「……ありがとうね。今まで私が頑張ってきた努力が報われた感じがするよ……」


 何時も応援をしてくれているリスナーのみんなに感謝した。

 そして。


「だからお願い。いま目の前で私を助けてくれている私の王子様。大好きな勇者様が勝つ瞬間を見るために一緒に応援して欲しいの!」


『『『もちろんだよ!!』』』


 この瞬間。みんなの気持ちがひとつになった。


「じゃあ、改めまして。私の名前は仙堂寺あずさ。みんなが愛してくれている本当の私がお送りする。今にも世界の命運が掛けられそうな予感のするこのマジシャンズバトルの実況解説を生配信でさせていただきたいと、思いまーす!」


 すかさず編集作業に入り、メインタイトルを『〈生実況〉鉈豆あずさ(本人顔出し)が【因縁の対決】勇者・結城一馬VS大魔王・マクスウェルの戦いを実況解説しまーす!』に変更をする。


『やっべぇえええええ、異世界じゃん!』『マジシャンズバトル開始の宣言をしろ磯野!』『お楽しみは、これからだ!』『勇者! 勇者! 勇者!』


 みんなのテンションのボルテージが最高潮に達してるのを感じている。

 するとダーリンが私のしたい事を察してくれたのか。


「マジシャンズバトルの開始を宣言しろあずさ!」


――マジシャンズバトル……楽しいねっ!


「みんな準備はいい? いくよ、せーのっ!」


『『『マジック・スタート!!』』』

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