ターン6-2 真実を語る彼女と恋する勇者の覚醒


『君が知る事になる事実』と言い始めた、その光の魂の存在は名を『ユウマ』と名乗った。


『数十年前。この地にイリアス。つまり、あずさの父は当時12歳だった弟子のマクスウェルを連れて現代のこの世界に別の世界から異世界転移を果たした』


――なんだこの不思議な雲だらけの世界は? さっきの。石の身体から魂を抜き取られた現象は何だ?


 ユウマに導かれるように、眩い天が照らす雲だけの世界で、ぽつんとひとりで地に立つ自分はというと。


「この世界に異世界転移とは?」

『文字通りの出来事が起きたという事だ。理解について行けていないようだな』

「そうだと言いたいところだ」


――正直。石になった自分が意識があるっていう時点でおかしいことだけど。


『ならば、そちらに聞く価値のある話をしよう。君が愛して止まない大切な人の居場所』


 そのユウマの言葉が俺の頭の中にある導火線に火をつける。


「教えろ、あずさは今どこにいるんだ!」

『私はその少女を連れ去った犯人ではない。ひとまず落ち着きなさい少年。いや、もう1人の俺……』

「は、え……?」

『無理に相づちを打たなくてもいい。君の知りたいことは全て揃う。もう1度だけ頼む。この私の話を最後まで静かに聞いてはくれないだろうか……?』

「…………」


――尺稼ぎされているみたいだと思われたくもないし。ユウマの話を大人しく聞いてやろうか。


『話を続けよう』


 ユウマの言葉で合図になり、彼は再度自分が話す『君が知る事になる事実』について話し始めた。


『異世界転移に成功したイリアスは現代の世界文明に大きく感銘を受けることになった』


 イリアスという、勇者の付き人であった大賢者は遊びを通じて、この異世界に魔法の概念を輸入するという試みに動いた。

 その際に彼はどのような遊びを通じて世に広めることが出来るのかと模索したという。


『そしてイリアスはあるコンテンツと出会いを果たす』


 現代世界の数多ある遊びの中で、イリアスが選んだのはトレーディングカードゲームだった。


『その1枚の小さな紙の玩具に新しい着想を得たイリアスは会社を新秋葉原となる地に設立し。名をマジックインダストリーズと名付け。そして小さなテナントオフィスビルの屋上に看板を立てて活動を始めることに』


 その会社の目的は、イリアスの理想とする。


『遊びを通じて魔法の力を体感し。その楽しさを世に発信する事が目的だったんだ』


――つまり、娯楽目的で異世界の魔法を広めていきたかったのか。いい話だ。 


 俺の手元にあるマジックマスターズのカードは、イリアスが掲げる理想の為に作り出されたという事になる。


『現にマジックマスターズで使用されているカードは好調な売れ行きを示すとおり。世に限定的ながらも。魔法の力が行使できる場が設けられている状態にまで発展してきている』


――つまり、イリアスの願いは叶った。いいじゃないか。


『しかし、それでも。その事に対する不満を持つ者が居た。全ての諸悪の根源となる男の話だ』

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