ターン5-7 偽りの彼女と恋する勇者の物語
それから数十分が経過すると共に、あずさの恋バナ配信は無事に終了を迎えた。
ファンの配信内における反響も良く、また同じような再配信を希望する声も多かった為。
「じゃあ、せっかくのファンサでまたどこかのタイミングを見計らってやろっかなー」
「コミュニティ内における需要の高まりがあるようだから、ファンの気持ちが冷めないうちに対応はしていく方がいいだろうな」
あくまであずさとしての意見はどうだろうか、俺自身としても気になるところ。
「またダーリンに愛してるって言えるならばぁ、うちは何度でも君のために同じ配信を続けていくつもりだよ?」
少し重い言葉を投げかけられてしまった。
そう言葉に返すのに苦労していると。
「ふふ、冗談だよ。ほら、こうして目の前でダーリンが面と向き合って。うちとお話をしてくれているだけでもね。うちは幸せを感じているんだから。君の心の中にあるうちの愛しているっていう気持ちを探りたい訳じゃ内からねぇ」
――本当の所どうなんだろうな。そう言って俺を好きでいてくれている事に、俺は嘘を演じてまでしてこんな関係を続けても良いのだろうかと……。
そう彼女の前で考え事をしていると。
「はぁ、汗かいちゃったし。うち、今からシャワー浴びてくるねぇ」
「おう、じゃあ俺は何処で待機かな?」
「真面目な話するとね。うちの寝室で待って欲しいかな。あいにくリビングルームの状態見たでしょ?」
――そういえば人がリラックスして過ごせる家具が置いていなかったな。
「ああ、じゃあお言葉に甘えてそこで待つよ」
「うん、そうしてね。あ、ちーなーみーにー」
「なんだ?」
あえて即答はせずにしよう。俺が言うとセクハラになる。
「ダーリンは桜かシレネのお花のどっちが好きかな?」
ただの思い違いだった。
――桜はともかく、シレネってなんだ?
「ちな、そのシレネって何色だ? こういうのって色の好みがあるし」
「原産国は広くて、北半球から南アメリカまで分布している白がとても綺麗な虫取り花なの」
「ほう、その虫取り花っていうのはどこから来ているんだ?」
「茎の上のあたりから粘着物質を分泌してるとこから別名、ムシトリナデシコって呼ばれることもある面白い花なの。花言葉は――」
――桜は美しさを託した言葉が多くある。じゃあ、あずさがチョイスしてきたシレネの花言葉は?
「秘密だったかなー」
「じゃあよく分からない花より、純粋に俺は桜が好きだな」
という事で俺は先にあずさが部屋から出るのを見送り、そのまま彼女が待機にしている寝室へと向かった。
――何故そんな話を持ちかけてきたのかが疑問には残るが、とりあえず今日はもう遅いし休めるなら休みたい……。
マジシャンズバトルの連戦で身体が堪えている。
「ふぁ……ぁあ。ここだよな」
間違ってもあずさが居る浴室になんていうオチはなかったので一安心だ。
「座れそうなのは、ベッドだけか」
シンプルな空間にある家具はベッドとサイドスタンドくらいだ。
――ストーカーの事もあって荷物で持って行けなかったんだろうな。
実際にシェルターでは布団だったから無理はない。
――仕方が無い。彼女には申し訳ないが座る場所に困ってるし、そうさせて貰おう。
後で断りを入れておけば良いだろうと思い、俺は彼女のベッドの上に腰掛けて待つことにした。
「はい、どうぞー」
扉のノックと共に着替えを済ませてきたあずさが目の前に姿を現した。
「おまたせー。いやぁ、良いお湯だったなぁ。ダーリンは入る?」
暗がりで彼女の全体は見えないがすらっとしたモノを着ているようだ。
「いや、時間を無駄にしたくないし今日は遠慮しておく」
「ふーん、じゃあ。そのままうちとベッドで寝たいんだね?」
外の窓の景色は既に月明かりで照らされており、その光は俺達の部屋にも届いてきた。
「あずさ、そ、その格好は……!?」
あずさが月明かりの中で俺に歩み寄り、彼女は恥じらいながらもその身体が透けて見える桜色のキャミソールワンピース姿をみせるため、俺の座るベッドの前に立った。
「……恥ずかしぃけど、ダーリンにうちのこの姿を見てもらいたくて……頑張りました……」
そんな愛らしい顔をされたら男の俺が言うべき言葉はアレだろ。
「めっちゃ可愛いし綺麗だ……少しごめんね」
「あっ、うぅ。突然キスするのはなしかなーって思うんだれどな……」
――頬にしてやっただけでそう反応されると、少し意地悪な事がしたくなるな。
とはいえ、あずさが何かを言いたそうにしているので聞く姿勢に戻ると。
「ねぇ、あたしと勝負しない? ルールは簡単。あたしの誘惑で我慢ができなくなったらダーリンは負けだよ」
「負けたらお前を襲うかもしれないんだぞ?」
「ダーリンならあたしの体を好きにしてくれても良いよ。あなたの事を全身で受け止めたいの」
と、あずさが思わせぶりな事を言いつつ。
「それと負けたら約束してもらおうかなー。遥とはもう恋人同士で会わないと誓約書に書いて欲しいかなーって、うちは本気で思っているよ?」
「……わかった。俺は負けはしないからな?」
その勝負に俺は乗ることになりゲームが始まる。
「まず上半身に着ている服を脱いでね。うちもこんな格好してるのに不公平だし」
「……ああ、そうだな……」
言われたとおりに上半分を床に脱ぎ捨てると。
「あぁ……やっとダーリンの体に見て触れる事ができるんだね……嬉しい……」
「うっ、そ、そこはっ!?」
早速彼女の攻めが始まる。
「ふふ、可愛いなぁ。その感じちゃってる声。もっとうちに聞かせて欲しいなぁ……ふふ」
恍惚とした表情で俺の各所弱いところを手で触れて弄くり回してくる。
――経験の無い俺にこの攻め具合はキツすぎるって!?
俺は必死に歯を食いしばって耐え続ける事となり。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「さっすがだねー。うちが見込んだだけの男なだけあるなー。これは楽しみがいがありそうかなっておもうなー。ふふ」
小悪魔な笑みを浮かべると、あずさは甘い吐息と共に頬へキスをしてくる。
「ふふ、これで上書きは完了だね。ダーリンの体はうちだけのモノなんだから」
――こんなのクラクラする……終わってくれ……彼女の匂いと行為でどうにかなりそう……だ……。
このままトイレにダッシュして身を静めたい。次に何か刺激のキツい事をされてしまえば理性の崩壊が訪れて大変な事になる。
「ねぇ、ダーリン。どうしてここまでしてダーリンを堕としたいのか分かる?」
「なっ……なにがだ……?」
彼女の声を聞くだけで頭がくらっとしてくる。
「ちょっと待っててね。目隠しをするから」
すっと彼女の体が離れていくのを肌で感じると共に、俺はベッドの上に背中を預けて一息ついた。
「最初は我慢出来るって思ってたのになんだよこの様は……全然耐えられないじゃん……」
それだけ彼女の堕とすテクが上手だった事がよく分かる。
――このおやまま行為に及んだら取り返しのつかない事になるしな……。
当然、その行き先は遙を失う事になる。
俺は思わず自分の心の弱さを思い、目元を腕で隠しながら涙した。
――あずさとはそういう行為をしても嫌じゃないっていう自分がいる……。
結局、俺は自分の本能に負けていたんだ。どちらも手に取って、自分が居やすい場所にいようとして。結局の所、俺は彼女たちの心を弄んでいると思う。
――俺の親父は過去に母の不倫が発覚して大変な事になったんだよな……あれは酷かった……俺も中学から帰ってきて……資産家の親父の死んでいるその姿を目の当たりにして……。
親父は俺を置き去りするように家の中で首つり自殺をしてしまった。
正直に不倫をしてしまった母親に対する愛情なんて言う気持ちはもう無いに等しく、この世のどこかでその不倫相手と暮らしている事について思う事なんてない。
母が不倫するようになった理由は、芸能関係の経営者だった父が築き上げてきた莫大な資産の運用方針で事で揉めることになり、当時にアイドル活動をしていた母は、将来の事で不安になり、それと単に自分の人生経験からお金に困りたくは無かったから、父よりも経済力のある資産家の男にアプローチを掛けて不貞行為に走ったわけで。
――俺の過去の事を踏まえて思うと。この状況で俺は……恐らく……彼女の仕掛けてくる行為には抗えない……。
母の時とは違うが、俺も同じ目に遭うと思うと恐怖の感情がこみ上げてくる。
――じゃあ、そう思う自分はどちらの未来を選べば良いのだろうか?
『彼女の居ないスキに逃げ出して無かった事にする』か、『彼女の愛を受け入れて身を委ねて籠絡される』かの二つがある。
俺の未来にはどちらも選べないという選択肢は存在しない。
――それは俺の心情に反する卑怯な行為だ。しかし……。
「あずさ……俺はどうすればいいんだ……?」
と悩み、俺は誰も居ない部屋で言葉を漏らすと。
「じゃあ、このまま堕ちちゃう? いいよ、うちをこのままベッドに放り投げて。そのまま自分の欲望を吐き出してくれれば良いんだよ? うちは君がするその全てを受け入れてあげるから……しても……いいよ……ダーリン。その言葉を聞かされてうち、ちょっとだけ欲しくなっちゃった……」
「あ、えと……その……」
丁度よくあずさが帰ってきてしまった。
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