マジックマスターズー偽りの彼女と恋する心の涙ー

ターン５－５ 偽りの彼女と恋する勇者の物語

「ま、まぁ今回の所はあたしの負けで良いわよ。何時でも一馬に会えるし。あずってそんなに一馬と会えるとは思えないから。そのときだけは許してあげる」

　間違ってもふたりで仲良くしている時に、お前は変な気は起こすなと遥は彼女に釘を刺したいのだろう。

「んー、昼ドラの匂いがするお言葉に甘んじて受け入れちゃおっと」

――さっき円満に終わって良かったと思っていた自分が馬鹿だったか……？

　二人の会話を黙って聞くしかない。

「とりあえず。うちにつきまとうストーカーが無事にいなくなるまでの間になるけれど。その間だけでもいいかな？　ダーリンの事を大切に思ってるし、一緒にすごしたいの」

　それはとても難しい交渉だった。

「だめよ。あたしだって一馬と両想いだって分かって嬉しくて。今にでもこのまま思いをぶつけたくてうずうずしているのにこれ以上の我慢をしろと？」

「はるっちには申し訳ないんだけれど。やっぱりダーリンが一番頼れる人で強くて包容力のある男の人なの。うちはダーリンと居るだけでも心から安心できるし」

「なによそれ……あたしだって、ずっと昔から一馬の事を側で見続けてきたし。それにもう少し早ければ……あたしのモノだって言えたのに……」

「火に油を注ぐような話はなしかなー」

「わ、わかってるなら諦めなさいよ！」

「ううん、いやだなー。だってうちはダーリンと偽りの恋人関係で結ばれているわけだし。それに契約事項にはダーリンが身を挺してうちを守ってくれるって約束して署名してくれているわけだから契約は有効なんだよねー」

　静かなる視線のぶつかり合いと舌戦が繰り広げられていく。

　暫く平行線のまま話が続くと思われるのだが。

「…………わかった」

　最初に口を開いたのは遥だった。

「折れていいのかよ」

「うっさいわね。平手されたいの？」

「いや、止めておこう」

「なら黙ってて」

「うわー、ダーリンがはるっちのお尻に敷かれてるぅ。こりゃ、将来は鬼嫁夫婦で名を馳せそうだなぁ」

「んなわけあるか！」「んなわけないでしょ！」

「あはは、せいせい……じゃあ、先に聞かせて欲しい。うちとダーリンは正式に契約関係の恋人として認めてくれるかな？　本当の恋人。現世遥はどう答えてくれるのかなー？」

「あたしは……、あたしは断るわけにはいかないと判断する……わ……」

　その答えには自信がなさげなのが見え隠れしている。

――断りたくて仕方が無いんだろ……。

　気づいていた。

　俺の立場は彼女たちの判断に委ねられている。

「あなた、ストーカーに狙われているんでしょ？」

「うん、そうだよ。うちは悪質なストーカーに狙われていて。おまけにダーリンはそいつのせいで一度死にかけた」

「ええ、あたしも一馬が一時はどうなるかと心から心配に思った。でも気持ちを切り替えて乗り越えられている。これも全てあなたのおかげ」

「うちが？　どうして？」

「あなたは一馬との間にある壁をぶち壊してくれた。いまこうして居られるのも。あずが手を差し伸べてくれたから一馬に思いを打ち明けることができたの」

　あずさはその遥の言葉に少し暗い影が残る表情を浮かべると、何かを計算しているかのような表情で思案すると。

「……まあ、あれは想定外だったけれども……」

　と、言葉を漏らして話を続ける。

「うちはふたりの中を取り持とうとしたつもりは無かったかなーって思っていたりするけれどね」

「いやそれ、何か策を巡らしてるような言葉に聞こえるが？」

「ダーリンは少し静かにして欲しい。うちは遥と恋の行方を左右するような大事な話をしているから」

――あっ、はい。

　もう何も言うまい。

「今のは余談ね。ここからが本命の話」

「ええ」

「うちとダーリンの契約期間が満了するのは、そのストーカーが居なくなるまで」

「そうね。その方がいいわ」

「ダーリンはそのストーカーと対等に渡り合える力を持っている事を知っておいて欲しい」

「ええ、見たわあの時の戦い。今になって思い返すと……一馬が戦う姿。とても格好よかった！」

――今の状況で褒められるのもなんだが。まあ、素直に気持ちは受け取っておこうか。

「うんうん、いいね。うちも間近でみれたらよかったなー」

「あたしの一馬が戦う姿を特等席で見ることができるのは、このあたしだけよ」

「うちも混ぜてー！」

　という、睨み合ってるはずなのに、お互いに俺の良いところをひとつやふたつとあげていきお喋りしており。

「あのもう２時間たってますよ……？」

　俺が話しかけてもその喋りはまだ続いていた。

　とはいえ、話が尽きると元の鞘に収まり。

「じゃあ、そういう事で今日はダーリンをお借りしまーす！　ダーリン、沢山お家デートしようねー。ふふ」

「一馬、くれぐれもだけれど……あずに手を出したらどうなるか分かるよね？」

「……やめてくれ。その言葉は俺に刺さる……」

　この後、俺は秋葉原の駅前で遥とさよならをした。

　その際に遥は俺の頬にキスをしようとしたものの、あずさが先を越して頬にキスをしたもので。

「ちょっと、あたしの彼氏になんであんたが頬にキスするわけぇっ!?」

「へへーん、一番乗りがいいなーって思ってしてみたりー」

　笑顔と共にイタズラが過ぎるあずさに対する遥の気持ちが俺にはよく分かる。

――まあ、あずさも唇にはしてこないあたり、遥に配慮してるのだろうな。

「ねぇ、一馬。このカードをあなたにプレゼントするね。カードから不思議な力と声を感じて。あなたと一緒に居たいって」

「それは……新しい勇者のカードじゃないの……」

　あずさは突然の出来事に口を隠して驚く。

「勇者の盟友（ブレイブ・ベストフレンド）か……シャンバラが俺の力となる新しいカードだったとは」

　通りで明らかに、通常の聖霊龍シャンバラのカードスペックとは大きく異なっていたわけだ。

「快く受け取るよ」

「スキあり！」

「あ……」

「あちゃ、一本とられちゃったなー」

　あずさにキスされた箇所を上書きするように、遥がその上から俺の頬に口づけをしてきた。

「バイバイ、またね。大好きだよ一馬！」

　終電に向かうため、遥は改札口の方へと駆け足で去って行った。

――めっちゃ可愛かった……。

　これが普通に思う本当の恋なんだろう。

「あ……うち。遥と女同士で間接キスしちゃった……、きゃー！」

　横でバカな事を言っているがスルーしておこう。

――せっかく良い雰囲気で遥と今日のお別れが出来たし、あずさには申し訳ないが少し位は構わなくてもいいな。

「ダーリン。じゃあ、そろそろいこっかお家へ」

「え？　帰っちゃ駄目か？」

「何をいってるのよー。ダーリンのお家はうちの家だよー」

「えぇ……」

　あずさにがしっと手を捕まれて次の場所へ向うことが決まった。