ターン5-4 偽りの彼女と恋する勇者の物語
――戦況は五分五分。互いの手札とトラッシュゾーンにあるカードのアドは少し程あずさに傾いてる。互いのLPはあずさが『20』で、遥は『15』と並んでいる。
あずさの先行で始まったマジシャンズバトルは彼女が『臆する教義』のカードの効果を使う事で、遥に対してLD3を刻むことに成功する。
そしていま、後攻側である遥の返しのターンが始まる。
「あたしのアクションフェイズに入るわ。リアクションはある?」
「宣言はなしだよー、ほい続けてっちょ」
「じゃあ制限マジック『輝く閃光の稲妻(ライトニングボルト)』の効果発動を宣言したい」
「あちゃー、それを使われると困るんだよねぇ……」
――ここで『輝く閃光の稲妻』の発動を宣言するのか。
制限マジック『輝く閃光の稲妻』
【このカードの発動を宣言した後。相手マジシャンは全ての手札をトラッシュゾーンに消滅したした状態でトラッシュする。】
【アタックコスト:3/ガードコスト:10】
シンプルに強く、雑にやばいマジックマスターズにおける指折りの全体ハンデスマジックが遥の力で行使されようとしている途中である。
――ハンデス耐性のあるカードでないと対処できないからな……。
『教義(ドクトリン)ガードロック』デッキに対する対策札としてはあり寄りの1枚で、手札の質を重んじるこのデッキに対しての有効な手段のひとつでもある。
「うーん、ちょっと考えさせてー」
手札にある4枚のカードをシャカシャカと流し、あずさは素早くハンドシャッフルを繰り返しながら長い時間を掛けて思考を巡らせている。
「……あるにはあるんだよねぇ……」
と、一定の解答が見つかったようだ。
「じゃあリアクション宣言するね。うちは手札のこの3枚のカードを使ってチェインガードを宣言するね。この組み合わせでどうなるかというと。このスピード・スペルマジック3『暴かれし教義』の効果により、このアクションフェイズで受けるうちのLDはゼロで計算される。そして、相手マジシャンはこのチェインガードで組んだ『教祖の嘆き』による効果で、相手マジシャンは自分の手札を2枚まで選んでトラッシュゾーンに裏側で送らなければならない」
「ハンデス返しですって……ひどい……」
「やりようだな……」
「えへっ、みすみすとハンデスされるくらいならねー。うちは悪あがきをしてでも勝つよ」
と言いつつ更なるカードのチェイン発動の宣言を続けていく。
「それと最後になる1枚のカード。『呪いし教義』の効果で。うちは一度だけ相手の発動を宣言したカードの効果を無力化する事ができて。そのカードが持っているアタックコスト分のLDを受けるね。輝く閃光の稲妻のアタックコストは3だから、うちが肩代わりするLDは3なんだけれども。このターンは『暴かれし教義』の効果処理の順番がルール上。つまりスピード・スペルマジックの共通処理で。最初の1番目に発動したスピード・スペルマジックのカードが優先的に適用される。通常のマジックは後追いで処理されて終わる。と言うことで。このアタックフェイズでうちが受けるLDは0にしかならないっていうこと」
一応、そのスピード・スペルマジックに対抗できるカードは同じスピード・スペルマジックになる。
スピード・スペルマジック3にチェインできるのは4以上の数字を持つカードと、カウンターマジックに限られる。
「……つまりあたしが発動を宣言したカードは無力化されて。おまけに3枚まで選んでトラッシュゾーンに裏側でハンデス。それと、あずさが受けるLDは0で処理されちゃうと……」
――こ、こぇ……。
さすが現環境デッキに連なる防御特化型のテーマだ。
おまけにいま、遥が裏側で手札から2枚トラッシュゾーンにトラッシュした事によって、このゲームでそのカード達はルール上使用不可な状態のカードとして処理される事になる。
――あのカード達は事実上の封印扱いになる。
「あたしのターンは終了するわ……強すぎるよぉ、助けて一馬ぁ……」
遥が半泣きで俺に助言を求めてくる。
普段はラフな対戦しか経験のない遥が、ガチの領域でうろつくあずさを相手にすればこうなることはわかりきっていた。
――こいつ。最初から負けないことを理解した上で対戦してるだろ。
一瞬だけジトッとあずさに視線を送ると。
――あ、バレたぁ?
と、思ったのだろう。テへペロと表情を返してくるので。
「あー、なんだか手札の枚数的に有利だし。その間に出来ることはやろうってことでいいんじゃない?」
のらりくらりとした物言いになり、遥にさりげないアドバイスを送ってみると。
「……あ、そうか。ねぇ、あずさ。今の手札は何枚?」
「1枚だよー」
「あたしの手札はあと2枚あるから……そうか!」
と言いつつ何かひらめいたようだ。
――教義のデメリットはチェインガード後のリカバリーの遅さだ。気づけるか?
「じゃあ、その閃きを挫くためにも。うちは頑張らないといけないなーって思ったりしてー」
「1枚で何も出来ないからドロー宣言する、だろ?」
「いやん、ダーリンったらうちの手の内を見透かさないでよぉ」
あずさの甘え声が店内に響き、一瞬だけ店がスンと静かになる。
「こほん。とりあえず遥のアクションフェイズだってさ」
「え、ええ……」
――何か意識してるな……。
つい最近まで幼馴染みでいたからよく分かる彼女の思うこと。
――あたしもああやって一馬に受け答えしたら喜んでくれるのかな……?
って考えながらマジシャンズバトルをしているはずだ。
――いや、俺は全然ウェルカムなんだよなぁ、って目の前で言ったら目も当てられない大惨事マジシャンズバトルになりそうだし止めておこう。残念だ。
ここでいきなり俺のせいで修羅場フェイズに入れてしまうのは身の危険を感じる。
「あたしのアクションフェイズ。リアクションは?」
「できたらいいなーって思うし。宣言なしかなー」
――小手先の番外戦術で乗り切ろうとしてくるなよ。
「分かったわ。もう出来ないって言わせてあげるんだから覚悟しなさい。この戦いで勝てばあたしの一馬はあずさに明け渡さなくて済むし安心ねー」
「あらいやだぁ、何時からうちが遥の彼氏を奪うなんて言ったかしらー」
――いや、俺がやらなくてもこいつらが勝手に修羅場フェイズに入ってるからいいや。
この勝負で勝つとどうなるのか考えてみる。
遥は言わずもがな俺とずっと一緒に本当の恋人関係で居られる。
対してあずさは挑戦者的な立ち位置な事もあり、彼女の場合は勝つと俺と再び偽りの恋人関係で居られる。
――ひと夏の恋はほんの数時間で終わりを迎えるのだろうか……。
俺と遙かはしばらくの間だけ恋人関係を解消する事になる。
要するに遥は負けると暫くは俺と恋人として一緒に居られないという苦しい立場に立たされる事になるわけで。
互いに譲れない思いと信念があってバチバチに視線がぶつかり合っている。
――うん、重い。女同士でするマジシャンズバトルはメンタル面でしんどいもんなんだなぁ……。
そんな戦いをテーブルの側で座りながら見守っている。
暫くターンが続いてゲームが終了し、気に入らないからもう一勝負になりの繰り返しが続いていく。
――もうなんか、俺を巡っての争いじゃなくてさ……。個人のプライドに関する戦いになってなくね?
まぁ、戦いあれば静寂が訪れるわけで。
「はぁ……なんかあたし、もう満足した感じがする……」
「うちもこんなにマジックマスターズをプレイしたの久しぶりすぎるなぁ……ははっ」
まあ、俺もそれを見ている側で疲れもしたが。
「ねぇ、今度一緒にどこかおしゃれなお店でランチでもしない?」
「あっいいねぇ、はるっち。その提案にうちも乗っかっちゃおうかなーって思ったりして、ふふ」
――昨日の敵は今日の友ってよく言うモノだな。微笑ましいよ、本当に。
円満に終わって良かった。
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