第5章

ターン5-1 偽りの彼女と恋する勇者の物語


 一馬と遥が警察署内で事情聴取を受けていると同時刻。夜の夜景が煌煌と輝く秋葉原のどこかにある企業の社長室で三人の男達が話をしていた。


「ほぅ、お前達。自分に課せられた使命を果たすことも出来ず。のこのこと、この私の前に現れて跪き許しを請おうと」


 後ろ手を組み大窓を前にして跪く彼らに背を向けて立つ、中肉中背で高級感のあるスーツ姿の男がいる。

 地声を悟られないよう加工を施しており、暗闇の中でその正体は誰なのかは不明である。


「はい、イリアス様……誠に申し訳ありませんが、あの者の力量を見誤っていたと戦線会議の中にて見解一致で話が纏まっておりまして……」


 戦々恐々とその男に報告と謝罪を述べる、先ほどの一馬とのマジシャンズバトルで敗走した魔人のひとりが話をしているところだ。

 その傍らでは同じくもうひとりの魔人が沈黙と共に跪いて震えており、相方の魔人に報告の全てを一任しているようだ。

 一馬に絡んできた男達三人全員が魔人であった。


「して、結果はどうだ?」


 窓辺に立つ男こと、イリアス様の興味はそこにあると感じた魔人が答える。


「心の魔人は恐れながらも、その驚異的な力の持ち主でした」

「違う、そうじゃない」

「はっ?」

「その産廃を相手にした青年の実力は如何なものなのかと聞いているのだ」


 そっちの方だったかと見誤り、イリアスと受け答えする盾の魔人が焦りを感じ、的確な解答を導き出すのに時間を要しながらも頭をフル回転させて物事の整理をする。


「盾の魔人よ。お前は直ぐにこの場から立ち去り、我らの意図しない形で目覚めた魔人の排除を任せる」

「同胞になれるかもしれないのですよ?」

「構わん、いけ」

「しかし、私(わたくし)が行ったとして……果たして勝機があるのでしょうか……?」


 自身が勝つ事を確約して欲しいと希(こいねが)う盾の魔人が目の前のイリアスに訴えかける。


「知らぬ。お前が生きるか死ぬかなど私には興味など1ミリもないのだ」

「……ならばその命令を拒否します」

「ふぅむ、実に愚かな選択をしたものだ盾の魔人よ。貴様らには失望した」


――とばっちりはごめんだっ!!


「お待ちくださいイリアス様っ!?」


 盾の魔人とそのやりとりに耐えかねたもうひとりの魔人が口を挟む。彼は酷く憔悴している。


「なんだ名無しの魔人よ。お前に発言する権利などない」

「し、しかしながら!?」


 名無しの魔人が自身の意見を強引に押し通そうとした瞬間。


「あ、え……?」


 彼の頭部より下が砂の像となり風と共に霧散した。

 程なくして名無しの魔人は頭部を地面にゴトリと落として息絶える。


「このイリアス。貴様などに興味がないと言ったにも関わらず口答えをし、この俺様の怒りを買ったことが原因だ。自身の浅はかな立ち振る舞いをあの世で永遠に詫びていろ」


 一瞬だけ稲光が部屋を照らした事でイリアスの殺意を纏った表情が顕わになる。

 盾の魔人がイリアスの顔を見て驚愕と共に絶望する。


「あぁな、なんてことを……よくも俺の大事な家族を殺したなぁっ!!」

「甘いな盾の魔人よ。貴様も同罪としてこの場で処すことにしよう。そしてお前が所有する『盾』のカードは彼女に託す」


 見限られたと感じた盾の魔人がすかさずカードの力を使って戦うが。


「剣が無ければ盾も只の鉄細工にすぎない」


 イリアスは目に見えない不可思議な力を使い、盾の魔人が叫び声を上げる間もなく殺害する。


「む、無念……」


 盾の魔人は憎しみの籠もった言葉と共に砂の像となり消えてしまった。

 その後、イリアスは盾の魔人が落とした血塗られた『盾』のカードを地面から拾い上げると。


「さぁ、私も最後のフェイズに移ることにしよう。彼女が望む良き未来の為にも」


 含みのある不適な嘲笑を上げると共に、イリアスはデスクに戻って座ると引き出しから茶封筒と便せん用紙の2枚を取り出して一筆を認める。


「盾の魔人の置き土産。利用させてもらおう」


 そしてイリアスは封筒の中に手にしたカードを手紙と共に入れて封を閉じた。


「これで役者が必要としているカードが揃う」


 イリアスは思わずウヒッと、素の自分が出そうになり堪える。


「君が目覚めた力は僕の考える幸せな未来に祝福をもたらしてくれるのか。はたまた」


 イリアスは愉悦に満ちた表情をしてすぐに無表情へ切り替わる。


「……それとも、僕が大事に側に置いてきた彼女の心を奪うつもりでいるのか」


 星の輝きを無くした暗い宇宙を彷彿させられるその瞳と共に、イリアスは人がいるように語りはじめる。


「であるならば、僕はもう一度君を殺さなければならない。そうでもしないと僕の胸の中で渦巻いているこの気持ちが治まらないからね……」


 その言葉と共にイリアスは近くの写真立てを手に取りそれを眺めて優し微笑む。


「愛しのハニー。もう少しで君と二人で幸せに暮らすことが出来る素敵な世界が生まれるから待っててね……愛してる……」


 その写真に仙堂寺あずさが立ち姿で自分を可愛くみせようとピースサインでアピールをしている姿が描かれている。

 それの写真は彼女が生配信中に鉈豆あずさを演じていた時の瞬間で、イリアスは彼女が演じる姿をWebカメラを通して盗撮し、それを額縁におさめていたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る