ターン4-7 現世遥


 心の魔人とのマジシャンズバトルを終え、俺は近くで見守ってくれていた遥の元へと歩み寄る。


「一馬……あたしの為に戦ってくれてありがとう……」


 その場で俺は彼女に長年の想いが詰まった感謝の言葉を受ける。


「あのね。あたしが一馬に想いを寄せていた事はとっくの昔から知っていたよね?」


 その言葉を受けて素直に首肯する。


「俺も。昨日、あんな唐突な事を言ってしまったが。遥の事を昔から好きだった」


 互いに想いが通じ合ったと感じた。


「もし、昨日であたしの事が嫌いになっちゃたんだったら。ここでさよならしてもいいよ」


 急に素っ気ない感じの素振りを見せだして話を逸らそうとするものだから、


「お前の痛すぎるビンタを受けたのに。目の前で平然とお前の事が好きだと言える奴なんて俺くらいだろ?」


 って言い返してやった。

 すると彼女は鳩が豆鉄砲受けたような表情を言葉の代わりに返して。


「ぷっ、そうよね!」


 それにつられる感じでお互いに大きな笑い声を上げた。


「まあ、さいてーなあたしの事はそっちに置いておいて」


 持ち前の切り替わりの早さで話題を最初に戻すと。


「もう一度、あなたと恋がしたい。例え、あたしの言葉にあなたがイエスと答えて。それがあたしを慰める為に語る偽りの言葉だったとしても」


 遥はギュッと胸の前で両手を握りしめて想いを伝えた後に歩み寄り目を閉じた。


「素直な気持ちであたしをその手で強く抱きしめて欲しい。一馬の気持ちを体で感じたいの」

「俺もこの瞬間だけは遥を見ていたい」


 そっと彼女の肩から頭の後ろに両手を回す。


「俺も今が許されるならば。君ともう一度恋がしたい」

「うれしい……ありがとう……」


 彼女の温もりを体で感じながら強く抱きしめた。

 長く感じるこの暖かいひと時を堪能し終わると。


「ねえ、一馬」

「ん?」

「あたし、ふと幼稚園の頃を思い出してさ」

「おう」

「あたしたちさ、みんなでかくれんぼしていた時に一馬を物置のある3階の階段に隠れようって誘ったじゃん」

「そうだっけ?」

「その後にあたしたちさ……その場の勢いで思わず……ちゅーしたの覚えてる……?」

「……あっ、思い出した……」


 遠い記憶に埋もれていたあの頃の思い出がよみがえり恥ずかしくなる。


「それでね、あたしたち。またこうして……その、またあの時みたいに……」


 遥の向けてくる眼差しに男としての度胸が試されている。


「巡り巡って俺達はまた甘い気持ちで見つめ合っている」

「それで?」


 言わせないでよという視線で訴えてくる。

 俺は覚悟を決めた。


「またあの時みたいにもう一度だけ俺とキス……してくれないか……?」


 恥ずかしくて少しひよる自分に思うところはあるが。


「……わかった……いいよ一馬……きて……」

「感謝する」


 目を閉じて互いに顔を近づけて唇を重ねる瞬間に。


――あれ、遥の唇の感触がない。


 そこに感じるはずだった遥のそれはなく。


「ねえ、夢じゃないよね?」


 ゆっくりと瞼をあげると、遥は寸止めで互いの鼻がくっつきそうな距離感で恍惚とした表情で俺を見つめてきており。


「夢じゃないさ」

「してもいい?」


 といいつつ。


「もう一度、一馬の気持ちをあたしに耳元で囁いて欲しいの……そしたら沢山のキスが出来そうだから……」


――注文の多いお姫様だな。


 怠いとかはなくて、素直な気持ちで彼女の耳元に顔を寄せて囁きたいと思い。


「心から君を滅茶苦茶にしたい。愛してるよ遥」


 長く思い続けて積み重ねてきた思いを伝え、ようやく抱えていたタスクから解放された感触を心で感じる。


「うん、いいよ。」


 愛されていると彼女は悦びを感じ涙を流してくれているので。


「受け止めてくれ」


 と優しく呟き。


「……きて」


 頬を伝う彼女の涙顔に手を添え、自分が思う星の輝きを瞳に描いて唇を重ねる瞬間。


「コホン! お取り込みの途中のところ申し訳ないんだけれど。ちょっと良いかしら?」

「きゃっ!?」「うぉっと!?」


――い、いつの間に……!?


 真面目そうな女性の声に気づき横を向いて息を呑む。

 咳払をして話しかけてきた女性は警察官だった。

 そして周囲は複数で囲んでいる警察車両の上で回転する赤色灯で染まっており。


「「あああああああああああああああっ!?!?」」


 自分たちの世界だけを見ていたことに気づいて羞恥心を感じ、恥ずかしさの余りにその場の勢いで仲良く悶絶する事になった


「はぁ、本当若いわねあなた達。こんな騒ぎ起こして行かないなんて断れないわよ」

「一馬、どうしよう……」

「どうするってもなぁ……」


 不安を隠しきれない遥をギュッと腕で包み込むように優しく寄せる。

 俺は警察官の任意同行に応じた。

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