ターン4-2 現世遥


 昨日。あたしは幼馴染みに思いを打ち明けて喧嘩腰になり別れてしまった。


――はぁ……やっちゃったなぁ……。


 昔からそうだ。あたしは彼に対して感情的になるとよく平手打ちをするクセがあって、昨日は怒りと悲しさと惨めさに手を出してしまった。


『愛してる遥。好きだ。お前と一緒になりたい』


――あれ、冷静によく考えたら。あたしの事を好きだってことだよね? あずさより

もあたしの方を選んでくれたって思っても良いんだよね……?


 ポーッと胸が熱くなるのが分かる。

 ギュッとワンピースのスカートの端を両手で握りしめて、彼があたしの事を意識してくれている事を理解した。

 それから思った事があって。


「あの時。怒ったりしないで。そのまま家に連れ込んだら良かったじゃん……バカ……」


 この年になれば分かることだってある。


――そうしたら頭でっかちのアイツでもその気になってさ……うん。


 どんな形でもいい。彼の全てを受け入れることさえ出来たのにあたしは過ちを犯してしまった。


――両想いなんだよね私たち。いままで実感が欲しくて、彼を異性として見るようになってからそれなりにアプローチを仕掛けてみたり、昨日みたいに彼の気持ちを知ろうともした。


「一馬……どんな事があってもあたしを受け止めてくれていたね……」


 感謝を伝えたい。

 それと。


「謝ろう一馬に」


――もう一度彼に気持ちを伝えたい。


「現世遥さん。出番です。壇上へ上がってください」


 今から始まる内定企業主催のミニファッション大会に出場する。

 この大会で審査員に好印象を与えることが出来れば、今後の就職活動で優位にたてる。


「一馬。もう一度あなたに恋がしたい」


 一馬に対する甘い気持ちを胸に押し込んで深呼吸をする。

 壇上を駆け上がると同時に笑顔になり、降りかかる視線を一身に受けながら一世一代の大勝負に挑んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る