ターン3ー6:ストーカーに殺されて魔人になったので彼女の為に復讐を誓う。


 朝のコーヒータイムを終えた後。俺はあずさがとある部屋の紹介がしたいと彼女に言われてシェルター内にある秘密の地下室に足を運んだ。


「どう? すごいでしょ?」

「おぉ……」


 中に入り案内されてまず最初に思ったのが……


――いい、練習部屋だな……。闘技場を模してるあたり、対面してリアルタイムルールのマジシャンズバトルで対戦する際の事も想定されているな。


……例外を除いて、ある程度の強力な魔術札を使っても壊れない頑丈な構造をしていると見受ける事ができる。


「ふふん、ここはVRマジシャンルームっていうの。うちの為にパパが作ってくれた特別なお部屋なんだよねー」

「ほう」


 昔に読んだネット記事のことを思い出す。

 あなたのご自宅にも仮想空間で遊べるマジシャンズバトルルームをお届けします……というコンセプトの元でリリースされ、その話題性からカードゲーム界隈では注目されていたはものの。


「この部屋って、リフォームとかの費用が高額なせいで誰も買う人がいなかったと。そう噂では聴いていたが。意外な場所でお目にかかれるとは思いもしなかったな」

「あはは……まあ、世間体的にアレだったけれど。一応。現存しているのはこの部屋だけになるかなぁ」

「値段はともかく。いい趣味してるし。俺は好きだな」

「うん! うちもこの部屋の事が大好きなの! ねぇ、後でダーリンと熱いバトルがしてみたいなー」

「そうだな……この機会に試しで対戦しようか……」


 という約束を交わしつつ本題に入る事になった。


「じゃあ、早速だけれど。デッキといつもリアルで使っている専用のデッキケースを用意して欲しいの。ここではデッキケースの事を『魔導書』と呼ぶね。それと魔人が使うカードゲームのカードは『魔術札』と呼ぶよ。シャッフル済みとなっている40枚のデッキを魔導書の中に収める事で。束ねられた状態の魔術札の束には、ダーリンの身体を介して魔力が充填されるの」

「あとはあれか。いつも通りに。プレイヤーは最初に5枚のカードをめくり取って手札に加えて戦いに備えればいいんだろう?」

「ザッツライト! 物わかりの良いダーリンは天才デース! ごほーびにキスしちゃいマース!」

「頬にするくらいなら許す」

「大丈夫。君の唇は何時でも奪えるから、うふふ……」


 とりあえず言われたとおりに準備を進めて完了させた。


「基本的にはカードゲームをプレイする時と変わらないんだけれども。手の中にある魔術札に念を込めて魔術の発動を宣言すると。使用した魔術札に込められた魔法が発現して。その力で相手にダメージを与えて倒すことができるの。体感的にかつ直感的な操作を必要とする戦いになるから。基礎的な知識と技を習得するところから始めてみようかなーって思うの」

「ちなみにあずさは俺みたいに力が使えたりする?」

「うちはダーリンとは違って身も心も人間のまま。イタイケな乙女のうちがそんな怖いことなんて出来ないよー」


 魔人に対する知識が豊富だなと思い、あずさも同じように魔術が使えるのかなと考えたが。


――まあ、人によって、出来る事と出来ない事ってあるってよく言うよな。とりあえずは自分の事に集中しよう。


「それで、具体的にはどうやって何をすれば良いんだ?」

「最初は基礎的な攻撃系のカードを使った魔術攻撃の練習をしてみようよ!」


……ということで、俺は部屋の中央に移動する。


 その後。魔導書を腰元に装着すると、創造される宇宙が爆誕した後にキラキラと輝く星々が天の川を産み出して流れていくのを身体で感じた。


――なんだ……この感覚は……? 血の流れに添って何かが魔導書に集まろうとしている……。


 その不思議な体験をした後に、腰元で輝く魔導書は既に充分な魔力量をチャージできているようなので。


「準備できたぞ」


 魔道書のページを開き、1枚の魔術札をめくりとった。

 あずさが後ろに控えて見守られる中で魔術攻撃の練習を始める。


「じゃあ、さっそく。スマホを使って対戦する相手を呼び出すね」


 あずさの操作で少し離れたところに仮想空間技術で生成された人型の的が姿を現した。

 なにやら怪しげな奇術師の姿をしたマジシャンが立ちはだかってきている。


「最初は手札事故塗れで何もできないマジシャンと戦ってみよう! がんばれー!」


――えっ、なにその理不尽な立場の相手を倒すっていう設定はっ⁉︎


 普通に考えて一歩だけ下がり、相手の顔を立ててターンを譲るというファンサービスのプレイがしたくなるな。

 その後に解決が出来なかったら返しのターンで介錯ワンキルをするのがマジシャンとしての情けだろう。


「通常マジック、ファイヤーボールの発動を宣言する」


 1枚だけの手札であるノーマルマジック『ファイヤーボール』のカードを使い。相手マジシャンに攻撃宣言する。


《ドゴォオオオオオオッ!!》


『ウゲェエエエ⁉︎』

「おぉ……!」

「パパの本に書いてあった通りの事が起きちゃった……」


 普段のマジシャンズバトルで見ていたファイヤーボールというカードは、火の玉ストレートで飛んでいくエフェクトが付与されているだけで終わるはずのマジックだった。


「キノコ雲が浮かんでるじゃん……」

「なにこれ……核爆発がおきてるじゃないの……」


 俺が発動を宣言して相手に直撃させたファイヤーボールは、その一撃で大魔王もワンキルできそうな破壊力のある超大火球に変貌していた。

 着弾と共に巨大な業火の火柱を巻き起こした後に大爆発し、現状の出来事が目の前で起きているわけで。


「相手は……まあ、ダメージ計算的に即死判定で終わるよな……」


 直撃を受けた対戦相手は跡形も無く消し炭となっていた。


 とはいえ、あんな一撃を見て何も思わない自分なんていないわけで。


――こんなの異世界じゃん!? 俺って、最強の魔術師にでもなってしまったのかぁっ!?


 最強の魔術師。つまり自分はそれと同等の存在である『魔人』になってしまったんだと理解した。


「ほ……他にもどんな魔術が使えるか試してみようぜ……っ!?」

「ダーリンが童心にかえっちゃったっ!?」


 好奇心のあまりに目を輝かせてという事もありながらも、俺は内に秘められた力を表に出していく練習を重ねていった。

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