ターン3-5:ストーカーに殺されて魔人になったので彼女の為に復讐を誓う。


 *


 退院当日となり、俺はあずさと再会した。


「おまたせー。はい、ダーリンの好きなコーヒー」

「ありがとう。うん、いい豆を使ってるな。コクと深みのある甘さが特徴的で俺好みだ」

「でしょー。これはダーリン専用にブレンドしてるからねー」


 安息のひと時の中で聞こえてくる、あずさの優しい言葉を耳に傾ける事がまた出来て嬉しくなる。


「隣にすわりたいなー」

「いいよ。ほら」

「ふにゃ〜ん」


 病院の外で待ち合わせた後に、俺は彼女が隠れ潜んでいるシェルターにお邪魔させて貰っていた。


「あんまりくっつき過ぎると。あずさが入れてくれたコーヒーが飲めないぞっと」

「うにゃぁ~ん」

 

 身を寄せて猫なで声で甘えてくる彼女に易しく触れて諭してあげると。


「コーヒー溢しちゃったら、うちがお洗濯してあげるから大丈夫だよー。むしろ……」

「……うん??」

「ふふ……にゃんでもないにゃ~ん」


――まぁ、大方。服を脱がせる口実が欲しかったんだろう。なんて破廉恥エッチな……。


 という憶測を立てつつ……


「部屋の飾り付けとかはどうする?」

「うーん。これからネトリに行って。ダーリンとお揃いの家具を買いに行くでしょ?」


……引っ越ししたばかりな事もあり、俺とあずさが居る場所には禄な家具が揃っておらず、白無垢でのっぺりとした16畳間の部屋にはペアマグカップを乗せた密林製の段ボール箱が置いてあるだけだ。


「ダーリン……あのね、このままお布団でダーリンと一緒にゴロゴロしたいなー」

「あーっ……外が明るいしさ。今からゴロゴロすることなんてないよー」


 昨日よりも、俺でも分かるくらいにあずさが大胆なアプローチを仕掛けにきている。


――まあ、そういう男女の駆け引きも楽しいんだろうし。ゆるーく対応していこうか。


「なぁ、この後にさ。昨日に話してくれていた魔人の事について教えて欲しいな」


 あの後、あずさを慰めるだけで一日が終わってしまった。


「えーっ、うちはダーリンとお布団で沢山ゴロゴロがしたいなーって思うかなー。こう……刺激的なお昼寝を……っ!」

「っていう前置きだろ?」


 冷静さと落ち着いた言葉を返してコーヒーを啜る。


「もう……ダーリンの意地悪ぅ……」


 あずさは拗ねた物足りなさを感じさせる声色で、ニコニコ顔のままで俺の頬を指で突いてくる。

 

「じぁ……飲み終わったらやるか……」

「うん……いよいよだね。うちはダーリンと……初めてはどんな気持ちになれるのかな……」

「んーっ、そうじゃない事を考えて欲しいかなー」


――今日のあずさは肉食系女子な感じで俺にアプローチがしたいのか。喰われないように気をつけよう。


 でないと遥に暗い夜道で後ろから、殺意増し増しの出刃包丁で刺される事になりかねない。


――そんなのは……なりたくない……。


 

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