ターン3-4:ストーカーに殺されて魔人になったので彼女の為に復讐を誓う。


 *


「良いの? こんな我が儘なうちをダーリンは許してくれるの?」

「いいさ。俺達はお互いの気持ちを分かち合う仲なんだからさ」


 優しく微笑んで彼女の気持ちを受け止める。

 その後。あずさは抱えていた気持ちを吐き出して、俺の胸に顔を埋めるように身を寄せて号泣をした。

 声を上げて泣くあずさの頭をそっと手で撫でる。


――壊れているんだ。彼女の心はもう誰かが側に居て支えてあげないと駄目なんだ……。


「……うれしいよダーリン。またこうしてダーリンと幸せな気持ちでお話が出来るようになれて」

「俺もだ」


 返す言葉を短く切り、本題に話を移すことにした。


「それであずさ。昨日はどうしていたんだ?」

「昨日。ダーリンとお別れした後に急いで引っ越しの作業に取りかかったの。そうしないとストーカーに襲われると思ったから。今は安全な居場所に身を隠しているから安心してほしい。後でうちの隠れているお家にダーリンも来て欲しい……かなって」


 あずさは俺がひき逃げにあった当日。お家デートの準備をしていた。


「あの時。ダーリンの喜ぶ顔が見たくて頑張って沢山の料理を作っていたのだけれど……電話が掛かってきたから……ダーリンかなって思わず画面を見ずに出てしまって……それで……」


 あずさは辛い事を思い出して俺に寄りかかって身体を沈み込ませてくる。


「電話の先の相手はストーカーだったんだな?」


 彼女はコクリと震える体で頷いてくる。

 その姿に対し、俺はあずさを守りたいという情が湧いて、背中に手を回て優しく包み込みように抱いた。


「少し休むか?」

「大丈夫……後で沢山ダーリンに甘えられるから頑張る……」


 その言葉に答えるようそっと頭を優しく撫でてやると……


「みぃ」


……あずさは頭を動かして猫が甘えてくる様な仕草で手に頬ずりをしてきた。


「可愛らしい猫ちゃんだな」

「こうすると気持ちが落ち着くなーって思ってるところだにゃーん」


……とはいえ話が逸れているので軌道に戻そう。


「……はじめは無言というか。その……こっちから話しかけないと喋らない感じだったの。それで聞こえてますかって問いかけてみるとね。男が気色の悪い声を上げて笑ってきたの……」


 思わず手にしていたスマホを地面に落としてしまったと言いつつ、あずさがパーカーのポケットから違う銘柄のスマホを取り出すと、指で画面をスワイプ操作をして見せてきた。


「クラウドで共有していたのか」

「うん。一応は証拠にいるかなって思って」


 その画面には録音アプリの再生インターフェースが表示されている。


『ウヒヒ。君の大事な物をいま壊してあげたよ。もう……君を守ってくれるモノはいないんだ。ひとりで寂しいよね? 大丈夫……落ち着いた時に僕が君を迎えに行くからね。待っていてねハニー。ウヒヒ、ウヒヒヒヒ!』


 聞き覚えのある声だ。


「まじかよ……あいつがあずさに付きまとうストーカーだったのか……」

「そう……だと思う…かな。すごく気持ち悪かった……」


 男は愉悦に満ちた感情と達成感で天に昇っているようだ。

 永遠に止まらない笑う声が頭の中でループする。


――俺を殺して何が嬉しいんだ。あずさをこんなにも悲しませて何を愉しんでいるんだよ……!!!!


「電話を切った後に着信拒否をしたんだけれど。その後になってその男の人からメールが届いたの。……中身は……ダーリンの……」

「いいよ。もう話さなくていい」

「…………」


 ぎゅうっと彼女を抱きしめてあげると。


「ありがとう……このままずっと抱きしめたままでいて欲しいかな……ダーリンにこうされていると……気持ちが落ち着いて……安心する……」


 ひとつ間を開けて、あずさがシューズを乱雑に脱ぎ捨てると布団に潜り込んで身を寄せてくる。


「なあ、あずさ」

「なあに?」

「俺が魔人になったっていう話は本当なのか?」

「私の知っている限り。ダーリンは魔人になったと思う。理由は後で話すね」


――やっぱりそうなのか……。


 ふと。


「あれ……? ねぇ、ダーリンのパジャマからうち以外の女の臭い匂いがするんだけれど……何でかなー?」

「え? あぁ……昨日。俺の幼馴染みが見舞いに来てくれていたんだよ」

「へーっ……そうなんだー。ちなみにその女の子って現世遥だよね?」


――なんでうちの幼馴染みの名前を知っているんですかねハニー?


「彼女は俺が物心つく頃の前からずっと一緒にいる良い奴だよ」


 事実。こんな事をしていても許されるくらいには愛されているとは思う。


「知ってるよー。うちのダーリンにお手つきがしたいのに。奥手な性格のせいでその場凌ぎになりがちで。そのワリには天真爛漫なように自分を見せたがる気の弱い女の子だって……」


 あずさが話す敵意の言葉に言い返せない。


「うちのダーリンは……うちだけの愛しの旦那様なんだけれどなーって……ね?」

「う、うん……」

「だから諦めて欲しいかなーって……いつも思っているの……」


 あずさの目が瞳孔で黒く染まり……


「ねぇダーリン……愛してる。大好きだよー。ダーリンもうちを心から愛してくれているよね? ねぇ? どうなの?」


……ぐいっと顔を近づけ愛を確かめようと押し寄せてくる。


――棒読み……怖っ。ヤンデレかな?


 あまりのプレッシャーに思わず沈黙を貫く。


「……なーんて。うっそー! ぷぷぷ! そんな顔されても困るよ-。大丈夫。ダーリンの幼馴染みに対して悪い事なんてしないから。うちらは擬似的な恋愛関係で結ばれた恋人同士だよ。あれ? 本気にしちゃってたー?」


 おどけた表情を返してくるので思わず釣られて笑ってしまった。


――憎めないやつだな。将来は才能ある女優にでもなれそうな予感がする。


 その立ち姿の将来を見るためにも、俺は彼女を護らなければならない。


「これからも変わらずあずさと交わした契約を果たすし。あずさは俺の守るべき存在であり続ける。これからもよろしくな」


 そっとさりげなくだが、彼女の額にキスをする。


「はぁぅ……うち……そんな事をされたら色んな意味で我慢出来なくなっちゃうよ……」


 うれしいと呟き、あずさはニコッと笑みを浮かべて涙を流す。

 この優しい嘘に塗れた恋愛関係が何時までも続くことを願った。


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