ターン3-3:ストーカーに殺されて魔人になったので彼女の為に復讐を誓う。



『昨日未明。東京市内にある生活道で車がバイクに追突するひき逃げ事件が発生……』


 翌日になり。概ね気分も好調で暇を持ており、何気なくテレビを午前のニュース番組をテレビで眺めていた。


『犯人が乗っていたとされる車の所有者はまだ見つかっていないという事ですが。犯罪心理学専門でおられる武雄先生にお伺いします……』


 映像の合間に差し込まれた事故現場のVTR映像に、自分を追突して乗り捨てたと思われるクラウンの姿が映っている。


『……おそらく犯人は何らかの強い動機を持って犯行に及んだのは間違いないでしょう。被害者に対する怨恨の線が濃厚でしょうねぇ。事故の惨状から察するに。被害者は相当な恨みを買われるような事をしていたんじゃないでしょうか?』


 綺麗な女性のニュースキャスターの問いかけに合わせてテンプレで答えるスーツ姿の年配の男が好き勝手な物言いをしているのを視て思う事がある。


――マジで目立ちたがり屋だな。言ってること野次馬と同じじゃん。


「……おはよう」


 あずさの声がして病室の入り口に目を向けると、彼女は不安げな表情と共に顔を覗かせていた。


「おはよう」

「入っていいよ」

「うん」


 彼女を手で招きいれる。


「そこに座椅子があるよ。使って」

「…………」


 閉口したままゆっくりと縦に頷き部屋に入り、あずさは俺が寝そべるベッドの側に畳んで置いた折りたたみ椅子を使い腰を下ろす。


「ダーリン」


 あずさは座るなり俺の右手をギュッと握り話しかけてくる。

 彼女の顔はヤツれていて辛そうだ。


「体の方は大丈夫?」

「ああ、医者から今日中には退院できるって言われてる」

「あのねダーリン。聞いて欲しいの」


 話題を変えてとりあえずと思って話したかったのだが。彼女が先に話を切り出してきた。


「私たち、もう終わりにしよう」

「え、つまりそれって……別れ話?」


――来た。事前に想定はしていたが。彼女の優しくて気を遣う性格なら状況的に言わざるを得ないと思っているはず。


 あずさはいままで続けていた擬似的な恋愛関係の終わり望んだ理由を話す。


「ダーリンが死んじゃったのを見て思ったの。あぁ……うちは人を死なせるような事をしたんだって。ダーリンは魔人になっていまここでうちとお話をしているけれど。もし……そのまま魔人になれずに一生のお別れをしていたたらどうだったんだろうって思うようになって……それで……つらくなって……」

「考えすぎだあずさ」

「でも! 1度は生き返ったかもしれないけれど……ダーリンがまた殺されたらどうなるの……」


――その疑問にはうまく答える自身が無かった。けど。


「確かに俺は1度は死んだかもしれない。でも、こうしてあずさと話せていれる。それで良いじゃないか。次にもし……俺を殺した奴がまた来たなら……」


 昨日までに考えてきた想いを明かすのにはまだ早いので言わないでおこう。


「……よくないよ。またダーリンが酷い目に遭うのは……うちは嫌……」

「ちなみに警察には相談したのか?」

「警察の人から話を聞かれた時にはお願いはしてみたよ。厳重な巡回で対応するって返されただけだった。うちはそれだと安心できなくて……また絶望的な立場に立たされちゃうのかなって……」

「もう待つのは嫌になったのか……」

「うん……」


 ストーカー被害の当事者であるあずさに出来ることは本当に限られていると思う。


――おそらく犯人は今が彼女を自分のモノに出来るチャンスだと思っているはず……また近いうちに彼女をおそって来るはずだ。


「ねぇ、ダーリン。うちに別れようって言って欲しい。そうしたら全てが終わりになって良くなると思うかなーって……ははっ……。もう……これ以上ダーリンが傷つくのは……嫌なの……。昨日。ダーリンとの思い出を忘れようと思って頑張ってみたけれど……ダメだった。うちには出来なかった……心も体も。触れて感じていた全てがうちにとっては命に替えても代えがたい宝物にしか思えなかった……だからねダーリン。うちに言って欲しいの。お別れしようって。そう言ってくれたら……うちはちゃんと忘れることができるから。優しくて心の強いダーリンなら分かってくれるよね……?」

「………」


 星の輝きを失くした彼女の瞳から涙が一筋にこぼれ落ちていく。

 彼女の胸の内にあるギュッと詰まった想いの言葉に胸を打たれた。


――あずさは俺のことを本当に思ってそうさせようとしている。


「あずさ俺は……」

「うん、いいよ」


 早とちりな彼女は涙ながらにその場から退出しようと立ち上がったので引き留める。


「待てよ。俺は頼まれても。絶対に君と別れようなんて言わない」

「わかってる? もう……うちとダーリンは偽りの恋人にならなくてすむんだよ。こんな重い荷物をもった女じゃなくて。他の好きな子と恋する事だって出来るんだよ? どうしてそこまでしてうちの事を思ってくれているの?」

「俺はあずさと一緒にいたいから。一緒に居たい。たとえお互いの関係が偽りだったとしても。あの時に書いた契約はまだ生きている。この2ヶ月間。あずさを見てきてそう思うようになっていたんだ」


 余計な着飾った言葉なんて信じて貰えないなら、シンプルな形で好きな女に思いを伝えるべきだろう。


「あずさ、また一緒に居よう。俺に取ってあずさは心の支えだったんだ。偽りでも良いから。君との大切な約束と。君の涙に負けないくらい……幸せに満ちた沢山の思い出をこれからも作りたい。嘘だと思われても良い。そもそも最初から偽りの関係だった。でも、俺は仙堂寺あずさを心から愛してる。それが俺から送るあずさへの気持ちだ」

「……うちもダーリンの事が……好き……愛してる……」


 あずさは涙ぐみながら両手を胸の前にたぐり寄せて唇を噛みしめる。


「あずさ。君を守りたい。俺が好きになった女の為にまた頑張りたいんだ」

「うん」

「そして君に伝えたい言葉がある」

「なぁに?」

「俺はあずさを泣かせたストーカーに復讐する」


 俺を殺し。目の前で悲しみ。彼女に望まない涙を流させた悪党を地獄へ突き落とす。それが生き返った自分に課せられた使命だと思ったからだ。


「……わかった……いいよ。ダーリンが望みたい事。うちも強力する」

「手を汚すのは俺でいい。あずさは側で見守ってくれれば良いから」

「わかった……うん。期待してるよダーリン!」


 彼女の瞳には星の輝きが戻り、沢山の涙が輝くと共に流星群を描くようにして落ちていった。


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