第3章

ターン3-1:ストーカーに殺されて魔人になったので彼女の為に復讐を誓う。



「うああああああああ!!!!」


 ガバッと身を起こすと……


「あ……れ……? えっ、生きてる?」


 病室のベッドで自分が悪夢にうなされていた事に気づく。


――な、なんだよさっきの夢は……? やけに現実味があったような……てか、なんで病室にいるんだ……?


「おはよう。目覚めたんだねダーリン」

「あずさ……」

「よかった……」

「俺……生きてる……んだよな……?」

「怖かったよね。うちがダーリンを巻き込んでしまうような事をしなかったら。あなたはこんな酷い眼にあわずに済んでいたのに……」


 彼女の目尻からこみ上げてくる涙が頬へと伝い落ちる。


――どうしてあずさがここに居て泣いてるんだ……?


「あのね。ダーリン」

「……?」

「ダーリン」

「あずさ……?」


 あずさはじっと見つめて何か大事な話をしようとしている。


「うちの今から話す事をよく聞いて欲しい。……ダーリンは交通事故で1度死んじゃって。あなたの中に眠っていた魔人の力が覚醒して人ならざる者として生き返ったの」


 わからない。あずさが話している内容がよく理解できない。


「その……魔人って何?」

「人外の力で魔術を操れる人のことを指す言葉。ダーリンはその力で魔術を操る事が出来る超人になったの」

「………」


 何かのジョークだと思った。

 そう受け取って話を切り返すことに。


「いや、普通に生きてるじゃん。何で病室にいるのかは分からないが。ほら、身体を動かしてもなにも痛いとか感じないぜ?」

「ううん。それは違うの。それは奇跡的にもダーリンが魔人として生き返った事で得られた特異体質で。もしそれが無ければダーリンはあの時にはもう……既に死んでたの……」

「…………」


 あずさが圧のある視線で訴えかけてくる。

 突拍子もない事を言われて最初は何が何だかさっぱりだった。

 とはいえ……


――でも、よく考えると……交通事故で死んだはずの人間がこうやって五体満足にいられるはずがない……よな……? え、俺って交通事故にあってたわけ????


「えと、思い出せるような……あの時に自分の右腕が欠損したのを虚な意識の中で目に焼き付けていた気がする……」

「お医者さんも腕が綺麗に繋がった事に驚いたみたい」

「それも含めて夢の中で酷い目に遭ってた気がするんだ」

「夢じゃないよ! 私も警察から連絡があって事故現場に駆けつけて……その場でダーリンの姿を見つけて……叫んだもん……夢じゃないよ……この光景は私が見ている……ダーリンが来るのをお昼寝で待つ間に見ている夢の世界であって……欲しかったよ……」


 暗い雰囲気の中であずさの張り詰めた声が響き渡り、彼女の悲痛な想いが込められた言葉が胸に突き刺さる。

 その言葉で俺は先に見ていた悪夢の出来事が鮮明に記憶として蘇る事に気づきを得る。


――本当の出来事……か……。昔に読んだことのある資料にあったような……確か……。


 何気なく卒論のテーマ探しにと思って昔に読んだ事があり、警視庁が公式のホームページで公開している、交通事故被害者の身に起きるトラウマ期乖離の精神状態……つまり自分は『記憶の乖離』の症状に罹患している状態に当てはまる。


――自分は本当にあった出来事に対して。脳が無意識に嘘の記憶で塗り重ねて無かった事にしようとしていたのか……。


「俺さ。さっきまで悪い悪夢にうなされていたと思い込んでいた……あずさのお陰で実感が持つ事ができるよ……」

「うん……でもやっぱりダーリンが受けた事故に対して。うちは気持ちの整理が出来なくて耐えられそうにない……」


 あずさが顔を手で覆い隠して俯いている。


「…………」


 彼女の気持ちが落ち着くのを待つ。


「……また明日来るね」


 しばらくしてそう呟くと、あずさはその別れの言葉と共に俺の右手を握りしめてきて……


「お別れのキスをするね」


……手の甲にキスをして病室から立ち去って行った。

 あまりの出来事に追いかける事ができず、彼女が出ていくのを見届ける共に力が抜けてベッドに身を預ける事になり……


「……」

 

……無言のままキスを受けた右手を掲げて眺める。


「手の甲にキスをするのって。確か敬愛の感情が込められたものって聞いた事があるよな……」


 あずさはよく頬にキスをしてくる。

 その彼女が普段した事のない箇所にするのには何か意味があるわけで……


――もしかすると、俺達の関係はもう終わりなのかもしれない……。


……そう考えると何故か寂しくなり泣いてしまった。

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