2024年2月14日 水曜日
2024年2月14日 水曜日
漸く仕事が終わった。
22時半超えの夜は霧が濃く、見通しが悪い。しまった、こうなってしまえば時間をかけてでもゆっくりと帰る他ない。軽いため息を吐いて車へ乗り込んだ。白い霧に真正面から浴びながら走行するが、違和感が拭えない。先ほど同じ道を通らなかっただろうか、と窓を開けると、その目の前に交番があった。お巡りさんにでも相談してみようと車を交番の駐車場に停めて降りてみる。
「道がループしていて家に帰れません」
そう言うとお巡りさんは「あぁ、だって今日はバレンタインだからね。チョコは持ってない?」とまるで当たり前のように言う。「チョコがないとどうなりますか?」僕はそう聞いてみた。
「チョコがないと家に帰れない可能性がありますね。そうだな……おーい爺さん!ちょっとこっちに来て!」
お巡りさんが唐突に僕の後ろに手を振っている。流れで僕も後ろを振り返ると、白い顎髭を蓄えたお爺さんが杖をつきながら霧の向こう側から現れた。
「爺さん、この人ね家に帰れないんだって。チョコ持ってないから。でももうこんな夜中だし、どうにかして家に帰してあげられないかね」
困り気味のお巡りさんがお爺さんになんとか交渉してくれている。僕もなんとかならないかと頭を何度も下げた。
「ややや、バレンタインにチョコも持っとらんのかアンタさん」
「作ろうとは思ったのですが、週のど真ん中なので作れなかったのです」
「えぇ……じゃあ土曜日には作れるのかい?」
「元より土曜日に作ろうとは思っていました。チョコではないんですが、やはりチョコがいいんでしょうか?」
「バレンタインはチョコがええ。ほんの少しでも構わんて。溶かして固めたやつでも立派な手作りチョコだからどうにか頼むよ」
お爺さんは豪快に笑うと僕の肩を叩いた。じゃあ土曜日に、と口約束だけをして車に乗り込む。去り際にお巡りさんとお爺さんに会釈をしてそのまま車を走らせると、難なく帰宅出来た。もう時間は0時を指そうとしている。
僕は風呂に入ると、そのまま就寝した。
長い帰り道だった。
9割嘘日記 no name @gunyuukakkyo
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