第5話 浮き島のカエルたち

僕が旅を続けるためにはどうしてもお金がいる。




寒い冬が明けた今頃は特に稼ぎ時とも言える。




今、僕の懐は冬真っただ中になってしまった。




今回は出来るだけ早く、沢山のお金を稼いで行かなければならない、迎えに行かなければいけない・・・僕の大切なひとのために。




冬の国を抜け、わたぬきの国を越えた僕はお金を稼ぐために、時折立ち寄る場所に向かった。




そこはいくつかの浮き島があり、一つ一つの浮き島に色んな色のカエルたちが住んでいる。




冬眠から目覚めたカエルたちが僕たちに稼ぎをくれる。




「やあ、目覚めて春を迎えた気分はどうだい?」




そう聞くと一つ目の浮き島のカエルは答えた。




「いつもと変わらないよ・・・そっちは良いもの出来上がってるかい?」




この青いカエルがお金に換えてくれるものは作品。




旅人は旅をしながら、詩を書いてみたり、絵を描いてみたり、木彫りを作ってみたりして、ここでお金と交換している。




「今回の出来はなかなかいいと思うんだ。ブレイクするんじゃないかな」




と何枚かの詩を渡した。




「ふーん、とりあえず全部買うけど、一枚銅貨1枚だからね・・・君が言うようにブレイクしたら分け前を都度、送ってあげるよ」と手にしたのはたった数枚の銅貨だけ。




文句はない。芸術は誰かの目に留まる事がまずは大事だからそこから人気が出たら儲けものだ。




とはいえ、今まで分け前が送られてきたのはほんの数回。




それでも、数人が喜んでくれたのだろうと思うと、書いた甲斐もあったもんだ。




「君は絵と木彫りは作らないの?」と青いカエルは言う。




「僕は絵はてんでダメなんだ・・・木彫りか・・・今度長くゆっくり出来る時に作ってみようかな」と答えると、青いカエルは手を振って僕の詩を浮き島の掲示板に貼りに行った。




青いカエルはこれから卵を産む季節、歌う事が大好きで旅人たちの持ってきた詩をリズムに乗せて歌いながら、その歌に寄って来たひとたちに貰ったチップから分け前を送ってくれるんだ。




「銅貨数枚じゃ、全然足りないや・・・次の浮き島に行こう」そう呟いて先を進むと、




次の浮き島では赤いカエルがとても忙しそうにしていた。




「やあ、今日も忙しそうだね。手伝いに来たよ」と声をかけると、




目を輝かせた赤いカエルは嬉しそうに、




「おお、いつもありがとう!もう今年も子供たちの世話がとてもじゃないけど手が回らないんだよ。今回はどのくらいの時間手伝ってくれるんだい?」




と、言うので、今回は沢山稼ごうと思って居る僕としては出来るだけの時間を売りたい。




でも、あまりにも長く時間を売ってしまったら・・・大切なひとに忘れられてしまうかもしれない。




「1週間でどうかな?」と聞くと、




「それだけでも、とっても助かるよ・・・でも銀貨7枚でいいのかい?」と返事をされると、確かにまだ足りないな・・・。




「子供たちの寝ている時間に何かやれることがあればそれをやるから色つけてくれないかい?」とここは交渉のチャンスだ。




赤いカエルは寒い間に卵を産んで、オタマジャクシから少しずつカエルの姿になっていく子供たちにごはんの取り方を教えたり、外敵から身を守る方法を教えたりしているのだけど、




一匹のカエルが生み出す子供の数がとてつもない数だから、いつでも春にはてんてこ舞いしている。




「もうだいぶ手足がしっかりしてきた子たちは、ちょっと目を離すと迷子になってしまって蛇に食べられてしまうから、いつものようにその子たちが勝手に飛び出さないように大きな網を背高く作ってくれるかい?それで銀貨3枚乗せるよ」




とりあえず、いつもやっているように子ガエルたちが飛び出せないくらい背の高い囲いを浮き島のまわりの水辺一帯に作った。




「いやぁ、本当に助かるよ・・・僕たちのこの手と大きさじゃとてもじゃないけど作れないからね」と、銀貨3枚を手に入れた。




ここから1週間は大変だ。僕よりも大人の赤いカエルよりも小さくて好奇心旺盛な子ガエルたちの見守りと世話をする。




オタマジャクシから手足が出たばかりの子ガエルは、上手く飛び跳ねる事がまだできない。




「どうやったら、僕も高く高く飛べるの?」と聞いてくる。




赤いカエルは、見本を見せるが同じ動きが出来るわけもない。




「子ガエルくん、僕は君たちみたいに高く飛べないけど、君たちの練習台にはなれると思うんだよ。まずは僕の足にジャンプしてみようか」とこれが僕に与えられた仕事だ。




僕の時間と僕の身体を貸すことで子ガエルたちが成長していく手伝いをする。




子ガエルたちは一生懸命僕の足にジャンプしてまずは靴の上に飛び乗る。




「おお!一回で靴の上に乗れたじゃないか、才能があるよ!」と褒めると、




「本当?じゃあ次はもっと上を目指してジャンプしてみる」と前向きに練習をする。




「僕の肩がゴールだよ」と伝えると一生懸命水かきのついた手足を使って上に上に移動する。




途中重力に負けて転げ落ちてしまっても、助けてはいけないことになっている。




痛みを経験しないまま独り立ちをさせることは、危険を知らないまま蛇に出会うことと同じだからと赤いカエルはいつか親である自分が死んでも子供たちがちゃんと生きていけるようにと願っている。




順番に僕に上り始めた子ガエルたちは、1週間もあればゴールに到着することができるほど、大人のカエルと姿形は同じになる。




「ありがとう旅人さん!また僕たちが大人になった時には子供たちの事よろしくね」と、たった1週間ですっかり独り立ちした子ガエルたちを見て、僕は嬉しくなった。




赤ガエルは「おかげで今年も立派に育ててもらえたよ・・・いつもありがとう・・・そうだ囲いはもういらないから撤去してくれたらもう銀貨3枚追加しとくよ」と銀貨を10枚、合計13枚手に入れる事に成功した。




僕の懐には銀貨13枚と銅貨が数枚。




浮き島は冬の国以外ならどこにでもあるとは言え、これでは全然足りない。




赤いカエルに聞いてみた。




「もっと一回で稼げる浮き島はないかい?」




赤いカエルは不思議そうな顔をして、




「ウシガエルの浮き島を知らなかったっけ?そこならきっと大きく稼げるだろうけど」




ウシガエルの浮き島か・・・。




「ありがとう・・・行ってみるよ」と赤いカエルに手を振って、僕はウシガエルの浮き島を探した。




青いカエルや赤いカエルの居る浮き島と違って大きな大きな浮き島があった。




ご丁寧に「ウシガエル」と表札がついている。




先に進むと大きな大きなウシガエルが鎮座していた。




「おお、旅の者か。丁度良かった退屈で退屈で仕方なかったんだ」




ウシガエルは身体が重くなりすぎてここから動かず、誰かが来るのを待っていた。




「ウシガエル、僕は君に何をしたら大きく稼げるだろうか?」と聞くと、




「そうだね。毎度のことながら説明は大事だね。君の旅の話を聞かせておくれ」




旅の話・・・みんなが聞きたがるけど、今回は話すべきだろうか・・・。




「おや、どうした?なんかあったんなら、なんの相談にも乗ってやれないけど、話だけは聴いてあげられるから話してごらん。稼ぎたいのだろう」




と言われて、ここ最近の色んな出会いの話を一通りした。




誰かにただただ話を聞いてもらう事は自分の中から会えなくなったひとたちを蘇らせるような気持ちになって、話しながら僕は悲しみ、自分を責め、逃げる弱さと向き合い、幸せな気持ちを思い出した。




ウシガエルは、ただ本当に聴いているだけだった。




「最近の出会いはこんなところだと思う・・・もう全部話したけど、君は僕にどんな稼ぎをくれるんだい?」




「君の旅はとても楽しかった。いい話をしてくれてありがとう。そこで、4つの中から好きな報酬を選ぶといい。その思い出を僕は買い取るよ。おまけにここで僕と会ったことの思い出も買い取ってあげよう。鮮度は大事だからね」




そう言ってウシガエルが提示したのは、




1,ヒマワリの種200個


2,クルミとどんぐり200個


3,傘を1本


4,金貨100枚




僕は迷わず金貨100枚を選んだ。




「金貨100枚を選んだのなら、その思い出と僕との思い出合わせて金貨150枚をあげよう・・・本当に貰っていいのかな?」と聞かれたが・・・僕には今何よりもお金が必要だ。




「もちろん。150枚もの金貨を貰えるなら僕はここに来た甲斐があったよ」




僕はある看板の目の前に居た。




「寒い冬を越えた皆様を暖かくお迎えすることを国民総出で楽しみにしています。是非一度いらっしゃってください。わたぬきの国」




その看板には沢山のサクラの花びらでレビューが書かれていた。




「この上ない幸せを得られる国」「入国料はたったの銅貨1枚」「何度でも行きたくなる国」など高評価ばかりだ。




「わたぬきの国か・・・いつか僕も一度くらい行ってみたいな」




そして、僕の旅は続くのだった。




おしまい

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【短編集】旅人は出会う かねおりん @KANEORI

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