第7話 渇望





 精神的な重圧が溜まればポメラニアン化するというその飲み薬を、地上で買っては飲み干した。


 白龍と黒龍は、二匹で一匹の存在。

 片方に異変が生じれば、不要の烙印を押される事は。仙界から追放される事は。

 容易に想像できた。はずだった。


 ただただ、あの方を傷つけない身体になりたかった。

 ただただ、あの方を傷つけない思考を持ちたかった。


 突発的と言っていい。

 幼稚な行動だった。


 仙界を守る。

 あの方の強い信念を砕くつもりはなかったのだ。


 本当に。

 問いかけてくる声に、是と、確固たる声で返せは、しなかった。


 望んでいたのではないか。

 仙界の守り手という縛りから解放されたかったのではないか。

 あの方を解放したかったのではないか。


 仙界の守り手としてのあの方を守りたかった。

 仙界の守り手ではないあの方を引きずり出したかった。


 どちらも本当の心。

 どちらも本当に。




『すまない。黒龍』




 何故、あなたが謝るのですか。

 謝るべきは、俺なのに。


 ごめんなさい。

 ごめんなさいっ。


 黒龍に戻りたい。人化でもいい。

 謝りたい。

 莫迦な事をしてごめんなさいと謝りたい。

 もう、こんな莫迦な事はしない。

 あなたが望む、義弟に徹するから。

 どうか。

 どうか、そんな顔をしないで。

 苦しそうな、悲しそうな、顔をしないで。











(2024.2.21)



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