第5話 寝顔
仙人が住む伝説の山、
上空に浮かぶその山の外見は、雲のかかった巨大な岩山なのだが、一歩足を踏み入れればそこは岩だけではなく、ふくよかな花、生命力あふるる緑、物憂げな紅葉、静謐な雪と、四季も詰まった彩り豊かな山が出迎えてくれて、大仙人、仙人、道士、霊獣、そして、仙界の守り手である白龍、黒龍が、それぞれ好きな区域に居を構えていた。
岩の区域にて。
屋根に茅葺、壁床天井に竹敷の小さな家に、白龍はポメラニアン化した黒龍と共に帰って来た。
『やはり、今までと違う白龍と黒龍だからこのような異変が生じたのではないか』
『義兄弟の契りを交わすなど。反目しあってこその、白龍と黒龍であったのに』
『大仙人の言っていたように、これは今からよからぬ事が起こる予兆ではないのか。白龍と黒龍の所為で』
(早く新たな守り手が生まれればいいのに、か)
全員が全員、このように自分たちを非難する声を上げていたわけではない。
自分たちを擁護する声もあった上に、そもそも普段であったならば、非難の声も受け止められていたのだが。
(こうも、弱くなるものか)
思い知る。
黒龍がいてこそ、しなやかで在れたのだ。
この世に生を受けた瞬間から、傍にいてくれた黒龍がいてこそ。
(いや。弱くなっている場合ではない。早く、黒龍を元に戻さなければ。有事があった際に。無論、私だけでもどうにかするが)
腕に抱えるポメラニアン化した黒龍は、すよすよと心地よさそうに眠っていた。
黒龍の姿の時も、よく眠っていたな。
その見覚えのある寝顔に、確かに黒龍だと認識できるのだがそれでも。
「………さびしい」
声に出して、苦笑を溢した。
(2024.2.19)
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