第4話 尊敬
殺傷能力のある鋭く硬い、歯も爪も鱗も角も要らない。
あの方を傷つけてしまうこんな身体など、こんな思考など、要らない。
『これからよろしく頼む』
あの方は仙界の守り手に相応しかった。
清楚、神秘、温厚、強靭、丁寧なあの方は。
対して、自分は仙界の守り手に相応しくなかった。
屈強だけが取り柄で、大雑把で怠惰な自分は。
『一緒に仙界を守ろう』
この世に生を受けた瞬間から、あの方は自分の手を取って、導いてくれた。
同じ時に生まれたにもかかわらず、あの方は、ずっと、兄のような存在だった。
ずっと、尊敬の念を抱いていた。
ずっと、本当の兄になってほしいと。
『他に証明する為だけのものだと思っていた。義兄弟の契りを交わそうが、交わすまいが、私の心に変わりはないと思っていたが。やはり違うな』
本当の兄になってほしいと、切に願っていたはず。だったのに。
『あなたの義兄になれて嬉しい。あなたが義弟になってくれて、嬉しい』
自分は、
『これからもよろしく頼む』
あの方を傷つけてしまうこんな身体など、こんな思考など、要らない。
あの方の心に添えぬ、こんな思考など、要らない。
ゆえに、自分は、捨てる事にしたのだ。
(2024.2.17)
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