第4話 はじめてのおつかい
「なぜ私がそんなことを!?」
ラウラの疑問に、紫雨はパンをちぎりながら雑談のように答えていった。
「北部に、杉エルフの祠があっただろう」
「えっと……はい」
「そこに、魔王軍残党七龍星の一人が匿われているという告発があった」
「「なっ!?」」
ラウラとブレインが同時に驚く。
杉エルフというのは、増えすぎた杉に耐性を持つため人体改造された種族であり、ごくごく僅かな生き残りが残っていると言われている。
魔王軍残党は、勇者の子孫を倒したものが次代の魔王になるという前提で集まった残党たちである。
そのなかでも七龍星は、魔王になれる可能性を秘めた上位層と言われている。
勿論、南ヴァルスガム家でも子孫代々戦い続けている相手だ。
「それで、フレンに討伐を命じておいたのだが」
「だめだった……と」
「……結果的にはそうなるな」
紫雨は苦虫を噛み潰したような表情をみせる。
フレンは、南ヴァルスガム家の次男であり対魔王軍残党遊撃部隊を率いている武闘派であるものの、魔法の適正がなかった。
つまり剣一本で魔王軍残党を斬り伏せているのである。
「フレンと共に行軍していたギンガ・ブラッドスタークの報告によると、フレンは七龍星との決闘の末敗北し、杉エルフの祠に連れて行かれたとのことだ」
「なぜ、決闘を?」
「杉エルフの祠周辺の杉を何らかの魔法で活性化させてほとんどの戦力が無効化され、一人で立ち回るしかなくなったようだ」
「あー……」
現代人はほぼ全て花粉症である。
だからこそ生活圏周辺までの杉はほぼ伐採されている。
「父上、それならラウラではなく俺が」
「お前は他にやる事がある。フレンの部隊の再編と遺族への対応を進めてほしい。ラウラにはできないからな」
「……わかりました」
紫雨の言うことは最もだ。ラウラではそういう対応は上手くできない。
「わかりました。パパ上。では、凄女と後数名連れて行きます。フレンにぃに様がどうなっているか確認して助けられたら助けます」
「うむ。それでいい。話はしてあるからブラッドスターク家に行って案内してもらうといい。彼は祠内部の構造に明るい数少ない人物だ」
「はーい」
朝食を終えたラウラは、ナツキに使いを出して、マリアに会いに行った。
「マリア嬢。今日暇?」
「へっ!? もしかしておデートですか!?」
「あー……そう言えなくもないけど、ちょっと違うかな」
マリアの勢いにラウラはたじたじである。
だが戦力として考えたら絶対に必要だ。
「ちょっと杉エルフの祠まで討伐しに行くんだけどついてきて」
「なるほど、おデートですね」
「違うってば!?」
結局、小一時間ほどこの問答を続け、成功報酬としてデートを約束した。
ナツキと合流した時点でラウラは既に疲労困憊であったが、そのままブラッドスターク家に行き、ギンガを訪ねた。
ギンガは老兵に片足を突っ込みだした騎士である。ラウラが小さい頃は護衛騎士をしていた時期もある。
傷だらけの身体を見ると、即座に出発できるようにずっと準備を進めていたようだ。
ラウラを案内した執事に声をかけられ、ギンガはラウラに相対した。
「ラウラ様。お変わりのないようで……フレン様の件は我々が不甲斐ないばかりに」
「ギンガのオジサマもまだまだお元気のようで。フレンにぃに様はまだ死んだと限らない以上すぐに行きましょう。もしかしたらまだ助けられるかも」
ギンガの言葉を遮るようにラウラは出立を促した。
「確かに当面は人質として置くメリットもあると思いますが……」
「すぐ殺すつもりなら祠に引きずり込まないでしょう」
「一理ありますね……」
「他の騎士様達は?」
「十名ほど現地にそのまま残っておりますが、戦力と数えるのは難しいでしょう」
ギンガの言葉を聞き、ラウラは後ろに控えていたナツキに声をかける。
「ナツキ嬢。花粉対策ある?」
「花粉対策のマスクは十回分用意したので、2日間の行動と少しの予備もあるっす。現地待機組の騎士さんたちは手遅れっすね」
ナツキは花粉対策のマスクを取り出し解説した。
大気中の魔力を取り込み、フィルターをすり抜けた花粉を封じ込める作りになっている古代アイテムだ。
基本的には増産出来ないレア物である。
「ナツキ嬢のこれを装備して短期決戦で挑みます。
ギンガのオジサマはナツキ嬢とともに内部調査をしてください。
その間、凄女と共に注意を引き付けておきます」
「それではラウラ様が危険なのでは?」
「聖剣で挑んだほうがいいと思いました。
それにフレンにぃに様が捕まっているとすれば、ラウラ嬢の知見が必要かもだし」
「なるほど」
そもそも暴れる側じゃないと出来ないし、とラウラは内心思いながら作戦を伝える。潜入は出来そうな二人に丸投げだ。
「敵の情報は道すがら教えてくださいね」
ラウラは悪の道を行きたい〜凄女に好かれてるので駄目です〜 御剣ぼののーの @mitsurugibononono
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ラウラは悪の道を行きたい〜凄女に好かれてるので駄目です〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます