第3話 ラウラの朝は比較的早い
ラウラの朝は比較的早い。
領主の娘として、ちゃんとした格好で家族との朝食の時間を迎えるからだ。
天蓋付きのベッドからモゾモゾと動き出す。
カーテンの隙間から朝日を浴びながら、布団から脱出する。
歳不相応なスケスケのネグリジェをぽいっとベッドに脱ぎ捨てて、用意されていた着替えを手に取る。
普通の貴族であれば、使用人が手伝うものだろうが、常在戦場の感覚を残す為、ある程度は自分でやるように教育されている。
慣れた手つきで着替え終えると、備え付けのベルを鳴らす。
少しの間をおいて、メイドが部屋に入ってくる。
「お呼びでしょうか」
「ふぁ……今日も髪お願いね」
「畏まりました」
ラウラは、ウトウトしながらメイドに指示を出す。
恭しくメイドが指示に従い、髪をブラッシングして整えていく。
「んー………」
「まだ少し眠そうですね。お嬢様」
「……そう、ねぇ」
「よく寝られなかったのですか?」
「んー……」
半分くらい夢見心地のまま、ラウラの髪はしっかりと整えられていく。
「できました」
「……ふぁ、じゃ行ってくるわ」
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
着替えを終えたラウラは修練場に向かった。
そこにはラウラの兄であり、南ヴァルスガム家の長男ブレインが剣の素振りをしていた。
「ブレインお兄様、おはようございます」
「ラウラ、おはよう」
ブレインは、蒼銀の髪をなびかせながら、素振りを続ける。23歳で細マッチョだが、着痩せするタイプなので文官と勘違いされることもあるとは本人談である。
「さて、今日もやろうか……聖剣抜刀」
「今日は負けませんよ……聖剣解放」
ラウラが指先をナイフで切り、うっすら出た血を猟銃に浴びせ、聖剣を呼び起こす。
聖剣ダークネスイルミネライザー、これが真の姿である。黒いゴチャゴチャした刀身がゲーミングに光っている。
対して、ブレインの聖剣は名も無き勝利の剣と呼ばれている、シンプルな聖剣である。
「いつ観ても趣味の悪い光り方だね」
「引き継いだ時点でこうなので、慣れました」
「それもそうか。じゃ、いつものルールでいくよ」
「はいっ」
この二人は、一回だけ聖剣を振ってよいというルールで、時間があえば修練している。勿論、寸止めだ。
回数制限をしているのは何度も打ち合うと周辺に被害がでるからだ。
その危険があっても実施するのは、聖剣を使わないと聖剣が拗ねて使い物にならないからである。
一瞬の刹那ではあるが、二人の中では何時間もの時間が過ぎているくらいの読み合いが繰り広げられている。
互いに殺気を飛ばし合い、相手の隙を生み出そうとしているのだ。
「また成長したね。ラウラ」
「お兄様こそ、そろそろ成長期終わってもいいんですよ?」
軽口のなか、ラウラはブレインの殺気の合間をぬって聖剣を振るう。
だが、ブレインは一手先にいた。
既に、ラウラの首元まで聖剣を振るっていたのである。
「……負けました」
「ラウラも良い線いってたんだけどね」
「届かない斬撃に意味はないですー」
ラウラはわかりやすく拗ねた。まだまだ子供なのである。
その後、軽く訓練用の剣で打ち合い鬱憤をはらしたラウラはブレインとともに朝食の場へむかった。
「ブレイン、ラウラ。おはよう」
「おはようございます、父上」
「おはようございます、パパ上様」
二人がそれぞれ席につくと、父親である
パンにスープにベーコンエッグ、そしてとろけたチーズ。
この辺りでは、チーズにパンをディップして食べられるので、食事直前まで温めているのだ。
「うむ、今日も旨い」
食事を旨く感じられるうちは健康だという家訓があるので、紫雨はテーブルマナーより優先して味の感想をいう。
紫雨は武闘派として相応しい屈強な肉体を誇っているが、それに似合わず実際は頭脳派で内政が好きなのである。
「父上、母上はどちらに?」
「ああ、北の森にちょっと討伐に行っている。夕方には戻ってくるだろう……そうだ、ラウラ」
「もぐもぐ……なんでしょう?」
「今日はお使いに行ってもらいたい」
「わかりました。それでどちらに?」
「ちょっと前線にだ。凄女と行っておいで」
「はいぃ!?」
ラウラの叫びが屋敷内にこだました。
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おまけ
「さん、にー、いっち……どっかーん。てんっさいっ魔砲使いナツキ様の魔法講座ー!! 本日は、銃についてっす」
「銃は、杖だとやりづらかった魔法に対する指向性を保たせるのに役立っているっす。あくまで杖の発展型という立ち位置っすから、杖と同じ素材で作られているっす」
「基本となる銃魔法を無詠唱で使う為、銃身には銃魔法の魔法陣がいくつか描かれているっす。これに魔力を流すことで気軽に撃ち分けられるっす」
「この魔法陣は特殊なインクを使うので、専門家に描いてもらう必要があるっす。勿論用途次第では書いてないものもあるっす」
「銃は大体百回程度で壊れるっすから、実際消耗品っすね」
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