第1話 隠れ家に行こう
「根源たる風の精霊よ。我が名の元に力を行使したまえ。エアロブラスト!!」
マリアの背中めがけて、風系魔法のひとつエアロブラストが放たれる。
強風で相手を吹き飛ばしたりするための魔法である。
「ラウラ様、お待たせっすー! 貴女様の右腕の登場っすよーー!」
「でかした! 愛してるよー、ナツキ嬢!」
ナツキ・ラナンキュラス、12歳。ピンクブロンドのツインテールで童顔の少女。
その正体は、ラウラの右腕にして稀代の天才魔砲使いである。
魔砲使いとは、魔法使いの上位職であり、銃ではなく専用の魔砲を用いて、複数種魔法の同時運用や、魔法の最新化・効率化などを行うことができるのである。
中でも彼女は、幾重にも細分化した魔法のうち十種まで連続で行使できるように、特製ガトリング砲を用いて魔法を繊細に使い分けている。
「ナツキ様は少々面倒ですね!」
マリアが吹き飛ばされながら、鎖付き棘鉄球をナツキの方へと飛ばす。
「風よ、炎よ。我が名の元に力を混成したまえ、ファイアストーム!!」
対して、ナツキは炎と風の魔法を混成して迎撃を行う。
「凄女ちゃんさー、ワタシ様の目の黒い内は簡単にラウラ様に触れさせないっすから!」
「ほんの天才程度で止めれると思わないでほしいのですが!!」
マリアはいつの間にか、鎖付き棘鉄球を手放してナツキの直ぐ側まで近づいており、ナツキが気づいた段階でガトリング砲を右手で貫かれていた。
「ええー……」
「こんな所でどうでしょうか? それとも、まだやります?」
「んー……いいっす。充分っすから」
「それはいったいどういう? ……ああっ! ラウラ様がいない」
「じゃあねっすー」
「あー……酷い目にあった」
ラウラは尊い犠牲を払って、なんとか隠れ家にたどり着いていた。
ひとまず、数日前に来た際に置き忘れていた銃を回収しておく。魔法騎士の家系で魔法が使えない状態では自身を守ることもままならないからだ。
ラウラの銃は、南ヴァルスガム家に伝わるもので、この世界で普及している拳銃タイプではなく、猟銃タイプのものだ。これは本来剣であるのだが、曰く付きらしく銃の形に封印されている。しかし、南ヴァルスガム家に連ねるものの血を浴びることで一時的に元の姿にもなるのだ。
「……お前も大変ね。剣なのに剣としての力を封じられているなんて」
ラウラは、自身の為に用意された装飾物満載の椅子に腰を掛け、銃を撫でながらそう呟く。
冷たい銃身が、逃走で火照ったラウラの指先に心地よさを与えてくれる。
「……ナツキ嬢が戻ってきたら、ちょっとどこかにちょっかいでも出しに行こうかな」
そんな事をつぶやいている間に、隠れ家に誰かが入ってくる音がした。
小心者のラウラは一瞬ビクッとし、銃を構える。
「あ、ラウラ様。いらしてたんですね」
「……なんだ、驚かさないでよ。ソフィー嬢」
ソフィー・紅莉栖タル、17歳のシーフ系女騎士であり、常に男装をしており、ラウラの従姉妹にあたるため、少し大人になったらこうなるんだろうなという見た目をしている。大きな違いは前髪がぱっつんで、後ろ髪が肩くらいまでの長さだというくらいだろう。
「勝手にラウラ様が驚いたんでしょ?」
「まーそうだけど、マリア嬢にちょうど追っかけられた後だったから」
「あー……激しいもんね。あの子。じゃあ、そんなかわいそうな子にはプレゼント」
「なにこれ?」
ラウラはソフィーが取り出した1枚の報告書を受け取りざっと眺める。
斜向かいの酒場についての悪い噂の報告書のようだ。
グレーゾーンの麻薬を取り扱っているらしく、金庫も潤っているとのことだった。
「騎士団で話題になってたんだけど、くすねて来ちゃった」
「くすねてって……まぁいいわ。麻薬は潰してお金は活動資金に寄付として貰いましょう。異論は?」
「ないよ。これくらいなら二人でも朝飯前だし、丁度いい余興だよね」
「そうね。でも、ナツキ嬢が来てからにしましょ。私たちはその……ポンコツ気味だし」
「そうだね。逃がしてしまったら勿体無いし、もうひとりは欲しいよね」
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おまけ
「さん、にー、いっち……どっかーん。てんっさいっ魔砲使いナツキ様の魔法講座ー!! 本日は、魔砲についてっす」
「まずワタシ様の使っているガトリング砲タイプ。これはガトリング博士の考案したもので、銃身を複数にすることで複数種の魔法を取り扱えるという作りになっているっすが、複数使うために独自の詠唱を用意する必要があったり、耐久面に難があるっす」
「次にバズーカタイプ。これは魔砲技士のバズーカ師が作り出したものが基本設計になっているっす。砲身を大きくする事で、魔法の威力を向上させているっすが、その分燃費は悪いんすよね。下手な人が使うと気絶するっす」
「現在の主流はこの二種っすが、まあ魔砲使いは変人が多いのでカスタムしてたり、主流以外の新型探して使ってたりするっすから、面白いっすよ」
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