第2章 青い森の洞窟

第12話 洞窟への道程(1)


 冷静になって考えてみれば『パーティーを組む』という事は『ずっと二人きり』という事でもある。


 男性に対して免疫めんえきがない上に、色々と心の準備が出来ていなかった。

 胸に手を当て、その場にうずくまる私に対し、


「回復しましょうか?――いや、しようか?」


 とライジェル。本気で心配しているようだ。

 だが、今はやさしくしないで欲しい。


「だ、大丈夫っ」


 そう言いつつ、私は左手を突き出し、ライジェルの接近をこばむ。

 かなり意識してしまっている。だが、今れられるのは不味まずい。


 うにゃーん♡――となってしまいそうだ。


(まずは冷静になろう……)


 こういう時は食べ物のことを考えるのがいい。

 昨夜食べた野草の天麩羅てんぷら美味おいしかった。


 『青い森』で採取したため、色は青くて不気味だったけれど、肉厚の葉は食べごたえがあって、同時に「食べた」という満足感もある。


 定番の『おひたし』や『え物』も良かったのだけれど、あの肉厚な葉を存分に楽しむには天麩羅てんぷらが最適解だ。


 葉の裏面だけに、ころもを薄くつけてげる。片側に衣がついている様子が白雪のように見えることから『白雪揚げ』と呼ばれる揚げ方だ。


 クセのない味だが、葉にはあらい毛があった。

 そういう場合はげたり、でたりすると気にならなくなる。


 他にも食材あれば、いため物にするのも良かっただろう。

 もう少し暖かくなれば花も咲くだろうから、そちらはうすい衣で天麩羅てんぷらにしよう。


 塩漬けにすれば、保存も効きそうだ。

 春から初夏にかけては野草の季節である。


 探せば――美味おいしい野草が――沢山あるに違いない。


(早速、ライジェルにもご馳走ちそうしてあげなくちゃ♡)


 先程もらったので、天麩羅てんぷらころもに使う卵もまだある。

 よし! 落ち着いてきた。


 いいえ「お腹が空いてきた」の間違いかもしれない。

 心を落ち着かせるハズが思わぬ落とし穴だ。私は立ち上がると、


「落ち着いたわ」


 と答える。ただ、その後「良かった」と言って、ライジェルが手を差し出してきたのは予想外だ。


 不意打ちである。

 いいえ、うずくまっている少女に手を差し伸ばすのは普通のこと。


(ライジェルは悪くない!)


 誰だ、私のライジェルを悪く言うヤツは!

 これはどう考えても「俺の手を取れ」という意味だろう。


 勿論もちろん、深い意味がないのは分かっている。けれど、彼を男性として意識している今は――手を取ること――それさえも緊張してしまう。


 再び顔が赤くなり、彼の手を取ろうとした私の動きがまる。


(やっぱり、引っ込めよう……)


 そう思った私の手をライジェルは強引に取ると、身体からだごと引き上げるようにして、立ち上がらせてくれた。


 自然と彼は私をせるような体勢になる。


(ううっ、心臓に悪い……)


 顔が近いし、私を支えるために腰へ手を回していた。

 全然――いや、まったくって嫌というワケではない。


 それどころか、しばらくは、このままでいい。

 だが、免疫めんえきのない私はつい、彼から視線をらしてしまう。


「すまない。今日中に洞窟を見付けて、探索したいんだ……」


 荷物は俺が持とうか?――とライジェルが聞いてくる。


「だ、大丈夫よ」


 私はそう言って、ゆっくりと彼から離れた。ライジェルから背を向け、両手で頬を軽く叩いた後、魔法陣の書かれた布を広げる。


 そして、その上に背嚢リュックを置く。

 転移用の魔法で、異空間へと収納するためのモノだ。


 とはいえ制約がある。そのため、収納できる期間は1、2週間といった所だ。

 食材や回復薬ポーションなどの劣化れっかおさえられる。


 ダンジョンなどの探索をする場合、身軽になる必要があった。

 その際に使用する。魔法の種類としては召喚魔法に近い。


 必要な道具アイテムだけを肩掛け鞄ショルダーバッグに入れ、私は身軽になった。


「じゃあ、行こうか」


 とライジェル。地図や磁石を使わずに瘴気しょうきを浄化しながら、安全な道を進んで行く。流石さすがは男性。頭の中に地図が入っているらしい。


「シャウラが一緒なら、早く着きそうだ」


 彼がそう言った意味を私はすぐに理解する。

 しげる植物をる作業や倒木をける作業に私の魔法を使用した。


 風や火の魔法を使えば問題ない。

 途中、森の中を流れる川へと辿たどり着いた。


 これも魔力の所為せいだろう。水がキラキラと青く輝いて見える。

 少し休憩きゅうけいしよう――という事だったので、私は植物の採取さいしゅを申し出た。


 夕飯の食材の確保でもある。

 こういう湿った場所には食べられる野草がえているモノだ。


(青いから見付けにくいけど……)


 ライジェルも急いで町から出てきたらしく、食糧の確保はしてこなかったらしい。

 まあ、僧侶プリーストの場合は神様にいのりをささげることでパンや水を出すことが出来る。


 例え森の中で一人だとしても「なんとかなる」と思っていたようだ。

 ライジェルほどの実力者なら、木の実なども作り出せるだろう。


 僧侶プリーストが冒険者にとって重宝される理由のひとつである。

 ただ、それだと栄養はかたよる。


(肉や野菜も必要よね!)


 彼は「急いでいる」という事だったので、私は知っている植物だけを手早く採取した。匍匐枝ほふくし走出枝そうしゅつしと呼ばれる地下茎ランナーで増える植物だ。


 つながっているので、周辺を探せば、短時間でそれなりの収穫になる。

 ただ、複数の種類を採取し、食べてしまうと――


(魔力暴走の危険があるかも……)


 私の体質上、免疫が出来ている可能性もあったが、今回はパスの方針だ。

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