第13話 洞窟への道程(2)


 私はライジェルにお願いし、防御魔法を使ってもらう。

 川の一部をめるためだ。魚がいそうな場所を指示する。


 次に私は電撃の魔法を使用して川へと放る。すると感電した魚が浮いてきた。

 川の中に入ってつかまえると岸へと上がり、手早くさばいて塩を振る。


 後は綺麗きれいな葉で包み、保存魔法を掛けておく。

 これで食料の確保は終わった。


 どの程度の日数を使った洞窟での探索になるかは分からない。

 けれど、これで2、3日くらいなら、もぐっていられるだろう。


 ライジェルも食糧の重要性は理解しているのか、文句一つ言わずに手伝ってくれる。むしろ、協力的なので助かった。


 ここまでは「順調だ」と言ってもいいだろう。

 本来なら何度なんど魔物モンスター遭遇そうぐうしていても、おかしくはない。


 やはり、ライジェルの浄化魔法と魔物モンスターけの魔法のお陰だろう。

 魔物モンスターを狩れない事は――冒険者にとって――収入に大きく影響する。


 だが現状、私たちはお金に困っていない。

 なので、今は安全に進めることの方が利点メリットは大きい。


 目的の洞窟へ辿たどり着く前に、ヘロヘロになっていては意味がないからだ。

 私が採取している間「帰りも休憩できるように」と、ライジェルは簡易の結界をほどこしてくれたようだ。


 瘴気しょうきが霧散していったので、しばらくは安全に使えるだろう。

 ライジェルは「不当に解雇された」と言っていたけれど――


(彼ほどの人材を解雇するなんて……)


 ブラック企業(?)の上司とやらは、いったいなにを考えているのだろうか?

 私にとっては幸運なことだが、通常はあり得ない。


 ここ魔王大陸インサニタスでは僧侶が不足している。手放すことは「他の冒険者の仲間になる」ということで、好敵手ライバルに塩を送るのと同義だ。


 私としては逆に、その上司に会ってみたくなった。

 まあ、ライジェルに言ったら「めておいた方がいい」と言われるのだろう。


 無事に食糧の確保も出来たので、その後はぐに洞窟へと向かう。

 先程の川でライジェルは地図を確認していた。


 どうやら、安全な場所は頭に入っているようで――記憶力の他に――情報収集の能力にも長けているらしい。


「こっちだ」


 と言って、ドンドン進む。

 ただ、私の足に合わせているので、途中で立ちまって振り返る。


 その度に私は申し訳ない気持ちになってしまう。

 顔に出ていたのだろうか? そんな私を気遣きづかってか、


「花が咲いているな」


 とライジェル。青色で分かりにくいけれど、木々の間から見えた群生地を指差す。

 正直、ほとんどの植物が青いので「わぁ! 綺麗きれいっ」とはならない。


 しかし、よく見ると――色は違ったけれど――私の知っている植物に似ている。

 子供の頃などは、よくくわえていた。


 花の根元に、微量びりょうみつが付いているようで、かすかに甘い味がするのだ。

 私はライジェルに手を引かれ、花に近づく。


 彼は浄化魔法を使ったのか、一瞬で瘴気が晴れる。

 宿っていた魔力もわずかだが、霧散したようだ。


 花の色がかすかに青から紫へと変化する。


(間違いないわ!)


 私の知っている花だ。

 なつかしさもあり、花をむと、私は口にくわえる。


(甘い! 大丈夫そうだ)


 毒の心配もない。私はライジェルにも、花を一輪いちりん手渡した。

 ほのかに甘い――そんな気がする程度だ。


 けれどライジェルは、私の差し出した花をくわえて微笑ほほえむ。

 それだけで、私は元気になるのだから不思議だ。


 ワケがあって一人旅を続けていたけれど――誰かと気持ちを共有できる――こういう時間は心地良い。


「確かに、子供の頃にやったな……」


 なつかしい味だ――とライジェル。

 みつの味に感動しているというよりも、思い出を確かめているようだ。


 まあ、こんな機会でもなければ、いい大人が花のみつったりはしないだろう。


「ありがとう、シャウラ」


 ライジェルが私に掛けてくれた、その言葉だけで活力がみなぎる。

 いつの間にか、私は悩むのをめていた。


 そんな花の群生地――そこから少し歩いた場所に目的の洞窟はある。

 本来は冒険者であっても、辿たどり着くのには苦労しただろう。


 その原因の主な理由は瘴気しょうきだ。人間や動物にとっては毒である。

 耐性のない生物では、長時間の活動は困難だろう。


 ライジェルが瘴気しょうきを払い、魔物モンスターを寄せ付けなかったため――私たちは安全に――思ったよりも簡単に、目的の場所へと辿たどり着くことが出来た。


 魔王大陸インサニタスは魔王城のあった中心部へ行くほど、瘴気しょうきが濃くなっている。

 当然、大陸の内側へ行けば行くほど、強い魔物モンスターも出現した。


 地図でこの辺りを調べたのなら、まだ海の近くだという事が分かる。

 それほど、出現する魔物モンスターも強くはない。


 だが、出会わないに越したことはないのも事実だ。

 瘴気しょうきの影響か、毒や麻痺まひ昏倒こんとうなどの状態異常バッドステータスを与えてくる魔物モンスターが多い。


 1体1体は弱い魔物モンスターであっても、むれでこられると脅威である。

 魔王大陸インサニタスの開拓時代――その初期の頃は――村を作っても魔物モンスター所為せいで、すぐに壊滅していたらしい。


 とはいえ、ここまで来たライジェルの実力と私の魔法を考慮こうりょするのなら――魔物モンスターと戦いながらでも――楽勝で辿たどり着けただろう。


 しかし、それは逆に言ってしまえば、すでに多くの冒険者たちが洞窟へ辿たどり着いている事になる。


 少なくとも、洞窟は――各国が管理する――港町からは比較的、近い場所にあった。

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