第11話 頑張れ、私の心臓!(2)


 最後にライジェルは、フィンへ『妖精狩り』について説明をする。

 基本的に複数人で行動していること。


 冒険者くずれをやとい、おとりにして使うこと。

 『妖精狩り』同士は顔を隠し、互いの素性を知らないこと――などだ。


 この辺りは私の認識とも合致がっちしている。

 例え『妖精狩り』をつかまえても、芋蔓いもづる式にはいかないのが現状だ。


「そもそも、妖精を誘拐ゆうかいして、誰に引き渡すつもりだったんだ?」


 そんなライジェルの質問に、フィンは「うっ……」と言葉を詰まらせる。

 どうやら、考えていなかったようだ。


(まあ、そんな事だろうとは思っていたけれど……)


 妖精を受け取る側も、現場を押さえられるワケにはいかない。

 それなりの方法があるハズだ。


 冒険者ギルドにおける素材の受け渡しと違って、受付けカウンターなどは存在しない。

 私も色々と言いたくなってきたが、これ以上はフィンを追い詰めるだけだ。


 言っても意味はないだろう。私は黙って、見ていることにする。


「本来は見せしめのために、未遂みすいでもギルドへ引き渡す所だが……」


 ここは魔王大陸インサニタスだ――とライジェル。

 今更ながら、フィンはドキッとしたのだろう。再び顔色が悪くなる。


 その様子にライジェルは満足したのか、


「まだ、ギルドも機能していないかならな」


 そんなことを言って「もう、しないように」とフィンにくぎす。

 ギルドへ引き渡す――と言われ、青褪あおざめてしまったフィン。


 安心したのか、ホッと胸をで下ろしていた。

 その後、ライジェルは無言で視線を動かす。


 フィンはそれに誘導ゆうどうされるように顔を動かした。

 視線の先にたのは私である。


 ライジェルがあごを動かし、フィンへなにかをうながす。

 フィンはすぐに気が付いたようで、


「シャウラさん、すみませんでした!」


 と謝った。ダメージを受けているのは私よりも明らかにフィンの方なので、なんだか変な感じがする。


「分かってくれれば、もういいよ。それより……」


 仲間の所へ、早く戻ってあげて――私がそう言うと「そうですね」とフィン。

 だが、ライジェルは無言むごんの圧をかける。


 それを感じ取ったフィンは、


「迷惑を掛けて、すみませんでした!」


 あらためて頭を下げると、チラリとライジェルの様子をうかがった。

 うむ、いいだろう――といった所だろうか?


 コクンとライジェルがうなずいたので『許してもらえた』と思ったのだろう。


「それでは」


 まるで「お世話になりました」とでもいった表情で、私たちに背を向けて歩き出す。途中で振り返り、一礼すると森の出口へと向かって走り去っていく。


 ヤレヤレである。パウンドケーキもすっかりめてしまったので――保存魔法を掛けて――食べるのは後にするとしよう。


 私はライジェルに「ちょっと、待っていて」と声を掛ける。

 まずは水魔法と洗剤で調理器具を洗浄。


 風魔法でかわかし、エタノールで消毒する。

 製作したかまどだが、土へと戻しておいた。


 まあ『いつも、やっていること』なのだけれど、そんな私の様子を見ていたライジェルは、


「これなら、一緒に来てもらっても大丈夫か」


 とあごに手を当て、ひとり言をつぶやく。


なんのことだろう?)


 私が背嚢リュックに荷物を詰めながら、首をかしげると、


「シャウラ、俺とパーティーを組んでくれないだろうか?」


 とお願いされた。一瞬いっしゅんなにを言っているのか分からなかったのだが『言葉通りの意味ではない』と解釈かいしゃくする。


(つまり、私のことを心配しているのね……)


 帝国が冒険者たちへ『妖精狩り』をするようにそそのかしている。

 怪我けがや病気、貧困で追い詰められた冒険者なら、話に乗ってしまうかもしれない。


 そうなると女性のうえ、エルフで一人旅をしている私は格好の獲物だ。

 ライジェルは、そんな風に考えたのだろう。


 もともと私の方から、お願いしようとしていた事でもある。

 ここは万歳ばんざいをして喜びたい所だが、


「いいけど、条件があるわ!」


 などと私は勿体もったいぶる。本当は地面に頭をこすりつけて「一緒に連れて行ってください!」とお願いするつもりでいたが、しなくても済みそうだ。


 ライジェルは「なんでしょうか?」と微笑ほほえむ。

 俺に出来ることなら、なんでも言ってください――そんな表情をしている。


 ついつい甘えてしまいそうになったが、私は、


「さっきみたいに、くだけた話し方をして」


 と返答する。フィンがいたので、丁寧ていねいな言葉づかいはめたようだが、また元に戻っていた。


 優しい話し方も嫌いではないのだが、もっとしたしくなりたい。

 そのためには「まずは話し方からだ」というのが私の考えである。


 ライジェルは一度目をつむり、少し考えた後、


「分かりました――いえ、分かったよ、シャウラ」


 と返す。そんなライジェルの言葉に、私の心臓は――トクンッ――とねた。

 思っていたよりも破壊力がある。


時期じき尚早しょうそうだったかしら?)


 彼氏いない歴=年齢の私。ちょっと心臓がえられそうにない。

 別に付き合っているワケではないけれど、少しだけ後悔こうかいした。


 このままではキュン死しそうだ。


(頑張れ、私の心臓!)

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