第6話 これが『恋に落ちる』ということ?(2)


 今までは意識と身体からだが切り離されていたような感覚だった。

 外部の映像を見て、何処どこか他人事のように状況を把握はあくする。


 もう一人の自分がいて、冷静に観察していた。

 それが元に戻る。


 すると目の前に彼の顔があった。

 あまりにも近いので思わず、


「はわわわっ!」


 と声を変な声を上げてしまった。

 そんな私の反応がツボに入ったのだろうか?


 面白かったらしく、彼は微笑ほほえむと、


「ゴメン」


 そう言って、私の顔から手を離す。

 さぞかし、面白い表情かおをしていた事だろう。


 だが、私はそれどころではない。もっとれていて欲しいとか、笑うのは失礼だとか、そもそもの原因は私なので仕方がないとか、頭の中はグチャグチャだ。


「大丈夫なようですね」


 そんな彼の台詞セリフに対して「いや、ぜんぜん大丈夫じゃないから!」と返したい所だったが、言葉が出ない。これが『ずかしい』という気持ちだろうか?


 一人でいる時間が多かったので、忘れていた感覚だ。

 顔がカッと熱くなる。


 妖精エルフなので、長い耳までになってしまっているハズだ。

 しかし、彼に気にした様子はない。


 それどころか、彼は経緯けいいを詳しく説明してくれた。

 顔の火照ほてりが消えるのには丁度いい時間だ。


 私は黙って彼の話を聞いていた。

 まず、私が食べた植物だけれど、毒ではなかったらしい。


 身体からだの不調から『毒性の植物だった』と思い込んでいたようだ。

 彼の仮説によると『魔力の暴走状態だったのではないか?』そんな話だった。


 ひとつひとつはなんの効果も持たない、ただの植物。

 ただし、ある条件下で、毒や薬に変化するモノがある。


 ようは食べ合わせが悪かったのだろう。

 合食禁かっしょくきんと言われるヤツだ。


 例えば『スイカ』と『お酒』。

 アルコールとカリウム、水分の相乗効果によって、強力な利尿作用があるらしい。


 スイカを食べながら、お酒を飲み過ぎた場合、脱水症状や急性アルコール中毒になる危険性もあるそうだ。他にも『タコ』と『わらび』。


 これは過剰摂取すると『ワラビ中毒』を引き起こす。

 ただ『ワラビ中毒』は人間よりも、牛や馬、羊などの家畜に発生しやすい。


 また、一般的に知られているのは『水』と『油』だろう。

 油が水で冷やされることにより、胃で凝固ぎょうこする。


 この他にも『タコ』と『アワビ』、『カニ』と『椎茸しいたけ』、『河豚フグ』と『青菜』などが、消化器系に異常をきたす食べ物だそうだ。


 今回の私の場合、食べ物の成分や性質ではなく『植物が持っている魔力の相性が悪かったのではないか?』というモノだった。


 彼の生まれ育った地では『五行思想』というモノだがあるらしい。

 『五行説ごぎょうせつ』ともいうらしいが、異なる魔力は互いに影響を与え合うようだ。


 『相生そうじょう』『相剋そうこく』『比和ひわ』『相乗そうじょう』『相侮そうぶ』という性質があるらしい。

 例えば『相生そうじょう』。


 『火生土かしょうど』と言われるモノがあり、これは『燃えた灰は土にかえる』ということを意味するらしい。


 また『相剋そうこく』。

 『水剋火すいこくか』と言われるモノがあり、これは『水は火を消し止める』という意味だ。


 つまり、異なる魔力が私の体内で様々な現象を引き起こし『それが魔力暴走を引き起こしていたのではないか?』というのが彼の考えである。


 それは魔力の高い者ほど、効果が表れやすく、妖精エルフである私は、特別影響を受けやすかったようだ。


 確か『妖精狩り』の連中も特別な薬を使うと聞く。魔力をふくんだ食べ物は、例え少量であっても、組み合わせによっては妖精エルフ身体からだに変調をきたすらしい。


(毒味は済ませていたけど……)


「なるほど、食べ物の組み合わせが悪いと、そういう事になるのね!」


 私は彼の説明に納得する。


「逆に効果を打ち消すこともあるけどね」


 と彼。『胡瓜きゅうり』と『トマト』を一緒に食べた場合、トマトの持つビタミンCが破壊されるらしい。


 面白い事を教えてもらった。

 いつもは毒に意識を集中していたけれど、今回は魔力の質が原因だったようだ。


 流石さすが魔王大陸インサニタス

 食べ物であっても、魔力が含まれているため、油断できない。


(まあ、食べようと思うのは魔物モンスターか私くらいだけれど……)


 最初に彼が魔法で私を解毒してくれたのだが、効果がなかったようだ。

 よって、回復魔法を使用してくれた。


 その時『私は目をました』というワケだ。

 体調が良くならない私を心配し、彼は原因を特定してくれた。


(冷静な判断力と知識や経験に基づいた推測……)


 魔力暴走の可能性に辿たどり着いた彼は直接、私に魔力を流し込むことで『正常な状態へと戻してくれた』というワケである。


 魔力は瞳に現れやすいため、彼は顔を近づけて、私の瞳をのぞき込んでいたらしい。

 だから気が付いた時、彼の顔が近くにあった。


 彼は「おどろかせるつもりはなかったんだ。ゴメン」ともう一度あやまる。

 別に私は怒ってはいない。ずかしかっただけだ。


 むしろ、感謝すべきは私の方である。

 しかし、彼は恩を着せるつもりはないようだ。


 私は俄然がぜん、彼に興味がいた。

 ただ、魔力を流し込むというのが――


(ちょっとエッチだ……)


 と思ってしまうのは、私が妖精エルフだからだろうか?

 彼の魔力が私に流れ込んで、体内で混ざり合っている。


 それは気持ち悪いというよりも、心地好ここちくて――


(これが『恋に落ちる』ということ?)


 もっと彼の魔力が欲しい。

 そう思ってしまう自分がいる事に気が付いた。


 同時に――キュルルルゥ~♪――とお腹の音が鳴る。

 どうやら、恋ではなく『お腹がいていただけ』だったらしい。

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