第4話 もう、ダメかもしれない(2)


 パウンドケーキ作りで重要なのが――『バター』と『卵』――この2つだ。

 本来は魔法で「ちょちょいのちょい」と作れるのだが、折角せっかくなので手間を掛けよう。


(もうじき、死ぬかもしれないし……)


 まずは材料のバターと卵だが、これを常温に保つことがポイントである。

 バターが固いとクリーム状にることがむずかしくなるからだ。


 また、泡立て器の中に詰まってしまうと、出すのも面倒である。

 何度なんども詰まる場合は、結構なストレスだ。


 また、温度が異なると、卵と合わせた時に分離する原因にもなってしまう。

 そんな時は体温よりも少し熱い位のお湯で、バターを湯煎ゆせんしておくのも手だ。


(ただ、かしバターにならないように気を付ける必要があるのよね……)


 完全に溶けてしまうと、バターの力で生地がふくらむことが出来なくなってしまう。

 そうなるとパウンドケーキ作りには使えない。


 ショボーンである。


(まあ、材料の状態にさえ注意すれば、後は難しくはないから大丈夫♪)


 バターと砂糖をすり混ぜることで、パウンドケーキはしっとりとした味わいに仕上がる。


 必要なのは『ひたすらき混ぜる』そんな覚悟だけだ。クリーム色だったバターがしろになって「ふわっ!」とした質感になればいいだろう。


 よく言われる『空気をふくませる』というヤツだ。

 泡立てていくと、ふくらんでくるので分かるだろう。


 そして、問題の卵を投入!

 ここで綺麗きれいに混ざるかが運命の分かれ道だ。


 焼き上がりのふくらみと生地のなめらかさが、まったく違ってくるのだから不思議である。


 我々人類は「パウンドケーキにためされている」と言っても過言ではないだろう。

 まあ『油のバター』と『水分の卵』は、もともと混ざりにくい。


 分離して当然の組み合わせである。卵と合わせる際は、いた卵を少しずつ入れて、その都度、よく混ぜる事が大切だ。


 分離して、ポロポロとした状態になってしまうと目も当てられない。

 バターがない時は他の油で代用するのも手である。


(冒険者たる者、必要な時に必要な物が手に入るとは限らないモノね!)


 オリーブオイルやヨーグルトが有名だろう。手に入るのなら――胡麻ごまらずに低温で圧搾あっさくした――太白たいはく胡麻ごま油を使うのがオススメだ。


(次は粉の混ぜ方だろうか?)


 粉を入れたら切るように混ぜる。

 『泡立て器』ではなく、ここからは『ヘラ』の出番だ。


 ボウルを回転させながら、ヘラで切るように手早く混ぜる。

 生地に切れ目を入れるように、ヘラを縦に入れ、すくい取ったら手首を返す。


(『生地を置く』というイメージだろうか?)


 グルグル回してってしまうと、色が変わって――いいえ、間違えた。

 生地に粘りグルテンが発生してしまう。


 こうなるとふくらむ前に――焼いている途中で――固まってしまうのだ。

 今回は『野苺のジャム』を使うので、粉を混ぜている途中のタイミングで投入するのがいいだろう。


 まあ、長々と説明したが、手早くパウンドケーキを作りたい人は、風魔法を習得するのが一番だ。


 卵を『卵白』と『卵黄』に分け、卵黄の方に野苺のジャムとバター、小麦粉を投入する。まずは卵白の方を風魔法で高速回転――ギュイイイィンッ!


 1分くらいだろうか?

 砂糖を加え、さらに泡立てればメレンゲの出来上がりである。


 次は材料を入れた卵黄の方も混ぜるのだが――


(この時、風魔法より泡立て器を使った方がいいかもしれない……)


 小麦粉を馴染なじませるイメージでき混ぜるのだ。

 下手へたに風魔法を使うと小麦粉が舞ってしまう。


 後はメレンゲを少しずつ入れて混ぜ合わせる。

 ここからは、再び風魔法を使う。


(ただし、出力は下げてね♪)


 空気を送り込むイメージで――ヒュルルルン!

 こっちはすぐに乳化するハズだ。


 生地きじが出来たのなら焼きに入る。

 まあ、気を付けなければいけないのは――


(中までしっかりと火を入れるくらいだろうか?)


 焼き過ぎないように注意したいモノである。私としては『野苺のジャム』をフル活用したいので、ケーキのトレイにジャムをく。


 この時、大きめのつぶはトッピングに使うので取り分けるといい。

 次に生地きじを入れるのだが、中心まで火が入るようにする。


 そのためには谷を作って、真ん中の厚みを少なくするのが基本だ。

 なだらかなへこみを作る。


(丁度、私のペコペコのお腹のようなへこみ……)


 先程、取り分けた『野苺のジャム』のつぶを上にトッピングすると、可愛らしい見た目に仕上がる。


 生焼けが心配な場合、焼き始めから生地きじが平らになった際、ナイフで真ん中に切れ目を入れるといいだろう。後は焼き上がりを待つだけである。


 よし、イメージは完璧だ。


(後は卵さえ、卵さえあれば……)


 解毒魔法を使えて、卵を持った冒険者が通りかかって私を助けてくれないだろうか?

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