第十九話 自由で壁をぶち壊し行こう
日曜日。
寮の一階の食堂に、修松と咲良を除く全寮生が集まっていた。
「どう? 亜金の様子」
火恋が隣に座る木晴に聞く。
「昨日電話したけど、話している時はいつも通りの亜金ちゃんだよ。でも……やっぱりどこか元気ないね。金曜日に学校から戻ってからは一歩も部屋を出てないしね……」
違うテーブルで本を読みながら、月歌も会話に参加する。
「気持ちはわかります……私も、小説賞で落選した時はやっぱり、立ち直るのに時間がかかりますから」
「みんなやわだねェ」
月歌の前の席、二つの椅子を使って日彩が寝転がっている。
「落選なんか声優やってりゃいくらでもあるだろ。一流のプロ声優だっていまだにオーディションには落ちるらしいし」
火恋の前の席、水希が日彩の意見に目を細める。
「ちょっと冷たい。日彩はもっと真剣に考えて」
「へーい」
「冷たいといや、アイツも我関せずって感じだね」
火恋は唯一の男子寮生を思い浮かべて言う。
「無理もないよ。あの男にとって、私たちはただの近所の人間だから、どうでもいいんだよ」
水希は冷たく言い切る。
「……平良比さんはまだ来たばかりだしね」
木晴は苦笑する。
一方、日彩と月歌は……、
「どう思う? ゲッカン」
「なにがですか?」
「アイツ。なにもしてないと思うか?」
「愚問ですね」
月歌は顔色を変えずに言う。
「彼に限って……そんなことはないでしょう」
---
ずっと昔のことを思い出した。
漫画を描くことが好きになった時のことだ。読むことじゃなく、描くことがだ。
アレは小学三年生の頃。俺のクラスには一人、とても病弱で、ずっと学校に来れてない女子がいた。顔も見たことないし、名前も覚えちゃいない。
ある日、先生が『〇〇ちゃんを元気づけるために、みんなでお手紙を書きましょう』とか言い出しやがった。みんな、顔も知らないその子のために手紙を書いたんだ。
でも俺は思った。顔も知らない奴になにを書けばいいというんだ、と。だから俺は漫画を描いた。くだらない、ギャグマンガを描いたんだ。漫画なら、顔も名前も知らない相手でも元気にできるとそう思ったから。
結局その子の病はよくならず、病気を治すために海外に引っ越すことになった。その子は、引っ越す前に先生に俺宛ての手紙を預けたんだ。
思えばそれは、生まれて初めてのファンレターだった。
『おもしろかったです。平良比くんのマンガのおかげで、手術をうける勇気が出ました。これからもマンガ描き続けてください』
あの手紙が原点だったのだろう。俺の、漫画家としての……原点。
「……」
部屋に寝転がり、天井を見上げる。
原点を思い出した俺は、ペンを手に取り、液タブでネームを描き始めた。
そうだ、俺のような口下手が言葉で誰かを元気づけようとしたのがそもそもの間違い。
だから俺は描く。唯一、自分ができる自己表現をする。
俺は月間課題に取り掛かった。主人公は――声優を目指す女の子だ。
――――――――――
【あとがき】
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