第十五話 火曜水曜慣れてきたご様子 その3

「つまり……ちんちんが反応したら負けってことか……」

「そう、ちんち――性器にちょっとでも熱が入ったら負け」

「やるわけ――なくね? 俺、別にお前にやってほしいこととかないからな」

「ミノリ先生から聞いたけど、金欠みたいだね。もしもあなたが勝ったら」


 彩海は台所にある段ボール箱を指さす。


「あそこに入っているカップラーメン十個、あげる」

「この勝負――乗った!」


 勝負の意図はわからんが、背に腹は代えられない。カップ麺十個は魅力的すぎる!


「だが、勝負の前に聞きたいことがある。なんで俺を寮から追い出したいんだ?」


 壁を壊した件以外は模範的な寮生だったはずだ。


「……あなたが、私の天使たちに手を出すから」

「天使たちってのは、他の寮生のことか?」

「そう。あの子たちは私にとって天使なの」


 楽し気にそう言い放った後、彩海は俺を睨みつける。


「だから、あの子たちを穢す存在は許さない」


 声が冷淡になる。


「人畜無害ならそれでよかった。でも、あなたはこの十日とちょっとですでにあの子たちに関わり過ぎている。木晴と亜金はあなたに強い興味を持っているし、月歌もあなたが関わると様子がヘンになる。日彩も、あなたに特別な関心を持っているみたいだし……火恋まで……!」


 つまり、コイツはここの寮生のことが大好きで、その大好きな寮生たちが俺という突如飛来したお邪魔虫と関わることが嫌なんだな。


「ここに居たいなら証明して。あなたがただの性欲猿じゃないことを……」

「オッケー。ゲームの意図も理解した。俺が性欲を制御できるかを試したいわけだな」

「そう」


 ふーむ。ちょっと歪んだ試し方だが、別にいいか。


「いいだろう。そんで、どうやって俺の股間をチェックする気だ? まさか服を脱げって言うんじゃなかろうな」

「大丈夫。コレを見て」


 彩海はテーブルに乗っているノートパソコンを一台、こちらに向ける。ノーパソには俺が映っていた。


「え? 撮影されてる? どっから……いや、角度的に……」


 部屋の天井の隅を見る。そこに、カメラが設置されていた。そこだけじゃない。天井の四隅にカメラが設置されている。彩海がPCを動かすと、画面が四分割になり、四方から撮影された俺が映っていた。


「さらにこうすると……」


 また彩海がPCを操作すると、画面が熱探知モードに切り替わった。俺の体が青や赤や緑に光る。よくテレビで見るアレだ、サーモグラフィーってやつだ。 


 コイツ……俺のちんちんの温度を測るためにここまで……なんで無駄なサーモグラフィーの使い方だ。


「これであなたの全身の体温が丸わかり」

「ちんちん包囲網……ってわけだな」

「そう、ち――変な名前つけないでほしい」


 しかし、こうして自分の股間の温度を測られるのは恥ずかしいな。


「ゲームがスタートしたら動くのも喋るのも禁止。瞬きは許すけど、正面以外を見たり十秒以上瞼を閉じるのは禁止」

「……わかった。いいだろう。やろうじゃないか」


 彩海はスマホの画面を見せてくる。画面には30分のタイマーが映っていた。


(恐らく、これからAVとかを見させられるんだろうな。舐めやがって。本気出せばそのぐらいの誘惑断ち切れるぜ)

「じゃ、よーい……スタート」


 彩海がスマホに触れると、タイマーがカウントダウンを始めた。

 彩海はスマホをテーブルに置き、そして――服を脱ぎだした。


「……!」


 彩海はパーカーを脱ぎ、シャツを脱ぎ、上半身下着だけになった。

 水色のセミロングの髪、半開きの瞳から見える綺麗なサファイア色の眼。芥屋に負けず劣らずの白い肌が惜しみなく晒される。胸は控えめで、下着も白の簡素なモノだが、腰が細くて非常に美しい体のラインだ。下半身はスカートを穿いたままなのが逆にエロい。薄暗いから、余計に色気を感じる。


 彩海はそのまま俺に近づき、俺の膝の上に乗った。


「どうせ男なんて」


 彩海は股で俺の腰を挟み込み、その細い腕で俺の頭を掴んで胸に寄せた。


「こうすれば、勃つんでしょ」


 彩海は大きな失敗を犯した。

 俺に触れなければ……この賭けに勝てていたかもしれないのに、俺に触れてしまったばかりに、勝機を逃した。

 俺の体は冷え切っていた。

 目が泳いで、焦点が定まらない。


「え……?」


 彩海は後ろを振り向いて、PCの画面を見て、驚いた。

 そりゃそうだ。なぜならサーモグラフィーに映る俺の体は――真っ青だったから。

 彩海が一度立ち上がり、俺から離れる。その間に俺は自らを落ち着けるために深呼吸した。


「私が抱き着いて、体温が下がった……ってことは……」


 彩海はPCをジッと見つめた後、どこか悔しそうな顔で振り向いてきた。


「私に、魅力が無いと言いたいわけ……?」


 俺はブンブンと首を横に振る。が、彩海はプライドを傷つけられたようで、スカートを脱ぎだした。しかもその後、ブラに手を掛けた。さすがにそれはまずいと思い、俺は両手を前に出して『やめろ』とジェスチャーで伝える。彩海もそれはさすがに早まった判断だと思ったのか、ブラに手を掛けたものの外さずに手を離した。


「本気でいく」


 次に彩海はさっきと違い、俺に背を向けた体勢で俺の膝の上に座った。俺の股間に、尻を乗せる形だ。しかし、ここでも俺の美少女恐怖症が発動する。俺の股間は服の上からでもわかるぐらいシナシナになっていった。干しシイタケのようだ。


「……っ!!!」


 彩海の体がプルプルと震える。どうやら彩海も俺の股間から元気が失せていったことに気づいたようだ。

 それから彩海は手を変え品を変え、俺の股間を奮い立たせようとするが――撃沈。俺の美少女恐怖症がすべての誘惑を弾いていった。

 30分が経過し、アラームが鳴る。だが、アラームが鳴る20分ぐらい前にはもう決着はついていた。


「……」


 彩海は膝を抱え、背中を丸め、端の方に座っている。その背中は悲しげだ。


「とりあえず、合格ってことでいいよな?」


 慰めの言葉も思いつかないので、カップ麺を貰って足早に去ることにしよう。


「これからもよろしくな、彩海」

「……」


 女の自信を無くした彩海は放って、俺はカップ麺の入った段ボールを持って部屋を出た。


――水曜日、ノルマ達成?


 はたして俺の美少女恐怖症は快復に向かっているのだろうか。むしろ悪化してはいないだろうか。

 不安だが、やるだけやってみないとな。後は佐藤と咲良、そんで日彩だ。前半の面子に比べたら遥かに楽な面子だ。


……今日のことは忘れよう。




 ――――――――――

【あとがき】

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『続きが気になる!』

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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