第十四話 火曜水曜慣れてきたご様子 その2

 水曜日の朝。

 俺が登校しようと部屋の扉を開けると、赤毛の少女……飛花が柵に背を預け立っていた。


「おはよ」

「おはよう」

「体調は?」

「問題なし」

「そ」


 飛花はちょっと様子がおかしい。なんか、あんまり目線を合わせないし、ソワソワしている。


「俺を待っていたのか?」

「は、はぁ!? なわけないでしょ! たまたま、水希を待ってたらアンタが来ただけ……」

「彩海の部屋は奥だろ。なんで俺の部屋の前にいるんだ」

「別に二階ならどこでも同じでしょうが! ハイこれ!」


 飛花は手に持っていた紙袋を渡してくる。 

 紙袋の中には菓子が詰まっていた。


「……昨日はありがと。そんで……ごめん。なんか、無理させちゃったみたいでさ」

「気にするな。俺は俺で得るモノがあったからな。つーかこんなの持ってたってことは、やっぱり俺のこと待ってたんじゃん」

「待ってないってば!」


 強情な奴め。

 俺は紙袋を玄関に置き、もう一度部屋を出る。すると、


「……」


 彩海水希が部屋の前まで来ていた。


「あ、おはよ水希……」


 飛花は気まずそうな顔で挨拶する。


「どうしたの火恋、今日待ち合わせしてないよね?」

「し、してたわよ! メッセージで送った!」

「来てない」

「うっそだぁ。あ、確認したら送信失敗になってるぅ。電波悪い所で送ったからだなぁ」


 俺は扉の鍵を閉め、手を振りながら階段に足を掛ける。


「朝からわざわざご苦労だったな。飛花」

「だから違うってば!!」

「……」


 階段を下りる直前、視線を感じたのでふと振り返ると、水希が面白くなさそうな顔で俺を見ていた。明らかに敵意を向けていた……。



 --- 



 水曜は二限で終わりだ。午前中で切り上げられるから楽な日である。

 クラスルームで荷物をまとめ、帰ろうとした時、スマホがピロン! と鳴った。覚えのないメアドからメールが来ている。


『このゲームをクリアせよ。by彩海水希』


 メールにはURLも書いてある。そのURLをタップしてみると、背景が真っ黒な謎のページに飛び、謎のゲームが始まった。

タイトルは『愛しき糸通し』。

指で赤い糸を引っ張り、設置されている輪っかに次々通していくというゲームだ。輪っかは大小様々、向きも位置も様々だ。

 意図はよくわからないが、とりあえずクリアしてみよう。単純なゲームっぽいし、すぐ終わるだろう。


 一回目、三個目の輪っかで失敗。

 二回目、二個目の輪っかで失敗。

 三回目、四回目、五回目――失敗、失敗、失敗。


「ちっ!!」


 思わず舌打ちしてしまった。

 操作性が悪い上に、失敗する度に『ざーこ』、『へたくそ』、『ざっこざ~こ』、『やる気あるん?』という悪口が表示される。なんてストレスゲーだ。

 大声出したことで教室で注目を浴びる俺。場所を変えよう。

 売店の前にある椅子で再開する。挑戦すること百十回――ようやくクリアする。

 全ての輪に糸を通すと、画面がドンドン引いていった。


(あれ? 糸が、文字になっている?)


 どうやらこの赤い糸は輪っかによって、文字になるよう誘導されていたらしい。

 赤い糸で『15時に205号室にて待つ』と書いてある。


「普通に送れよ!」


 スマホをぶん投げそうになったぜ。



 ---- 



 15時。

 俺は205号室、彩海水希の部屋を訪ねる。チャイムを鳴らすと、すぐさま扉が開いた。


「よう。来たぞ」

「入って」

「ちょっ!?」


 彩海は俺の腕を引っ張り、中に入れる。そしてすぐに扉の鍵を閉め、チェーンまで掛けた。

 部屋は薄暗い。身の危険を感じた俺は、彩海の手を振りほどこうとするが、


(つっ!? こんな時にもか!)


 美少女恐怖症が発症。筋肉が痺れて上手く動けない。

 彩海は俺から手を放し、パーカーのポケットに自分の手を突っ込んで居間に上がっていく。


「来て」

「……」


 有無を言わせない表情だ。渋々ついていく。

 居間にはノートPCが二つ、デスクトップPCが一つ起動しており、カーテンは閉めっぱなし。灯りは豆電球。畳の上には服が散乱している。下着も普通にばら撒いてある。


「座って」

「どこに?」

「適当に物どかしていいから」


 俺は足元の衣服を手でどかしていく。その途中で、控え目なブラジャーさんにも出会ったが、すぐに放り投げた。

 胡坐をかいて座ると、彩海が正面に立ち、俺を見下ろしてきた。


 冷ややかな瞳だ……フードを被ったまま、威圧してくる。水色の髪も、この暗さだと不気味な輝きを放つ。


「今日、あなたを呼んだのはゲームをするため」

「そういやゲームクリエイター学科だったっけ。お前が作ったゲームのベータテストでもすればいいのか?」

「違う……ゲームというか、賭けと言った方がいいかも」

「? なにを賭けるんだよ。自慢じゃないが金はないぞ」

「私が勝ったらこの寮から出ていって。あなたが勝ったらあなたの命令をなんでも一つ聞いてあげる」

「おいおい……なんでもってことは、あんなことやこんなことも――」

「聞く。ストリップでもセックスでもやる」

「はぁ!? おま、なに言ってんだ……!」


 ぐへへ……と鼻の下を伸ばす余裕なんてなかった。

 ひたすらに怖かった。いきなりこんなこと言い出すなんてどうかしてる。

 しかもコイツの表情的に冗談ではない。俺が賭けとやらに負けたら本気で追い出す気だし、自分が負けたら本気で俺に体すら自由にさせるのだろう。


「賭けの内容は簡単。これから30分間……私になにをされても性器の温度を上げちゃダメ」

「は?」


 性器……つまり、俺の股間にぶら下がっている紳士のことか?


「あなたの性器に少しでも熱がこもったら私の勝ち。どう? 簡単なゲーム、遊びでしょ」



 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!

皆様からの応援がモチベーションになります。

何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る