第十二話 月曜はじまったいつもの日々

 朝、俺は寮の前でとある人物を待っていた。

 ガチャ。と102号室の扉が開いた。そこから目当ての美少女が現れる。


「おっはよー」


 俺は元気よくその美少女に挨拶した。

 美少女はその銀色の長髪をサラッと流し、


「さようなら」


 そう言い捨て、俺の横を通り過ぎていった。

 芥屋月歌。今日、月曜日に俺は、彼女と30分以上会話しなければならない。



 --- 



 二日前の夜。こんな会話があったとさ。


「名づけて、『日替わり美少女定食大作戦』だ」

「なんだよソレ」

「ウチの寮には運が良いことに様々な個性を持った美少女が六人もいる。お前は、それぞれの美少女と日替わりで一日必ず30分以上会話するんだ」


 つまり、美少女と関わることで美少女恐怖症を克服するわけだ。


七曜のウィーク天使たちエンジェルズって呼ばれてるんしょ? ウチら」

「いや、お前は入ってないぞ。土門曰く、土曜と日曜は欠番らしい。そういや日曜は候補はいたけど下品だから外した的なこと言ってたな」

「あのオレンジは後で嬲り殺すとして、それぞれの曜日にそれぞれの曜日に対応したエンジェルと30分以上会話するんだ。月曜日はゲッカン、火曜日はレンレン、みたいにね」


 ゲッカンとは芥屋月歌のことで、レンレンってのは飛花火恋のことだろう。


「土日はあたしが担当しよう。よーし、じゃあみんなにメッセージ送るね~。『マッツンがみんなと仲良くしたいから、これから一週間積極的に話しかけるってさ~』と」

「待て待て! まだ送るなよ! まだ俺、なにも言ってな――」


 日彩はスマホの画面を見せてくる。スマホにはすでに送られたメッセージと、既読2という文字が出ていた。そして間を置かない内に、芥屋月歌(満月のアイコン)から『別にいいですよ。無視しますので』と。次に咲良(佐藤とのプリクラ写真のアイコン)からスタンプで『OK!』と送られてきた。


「火蓋は切って落とされた……やるしかないぜ、マッツン」

「お前が勝手に切って落としたんだろ! ――はぁ、でも、これぐらいしないとダメかぁ……わかった。頑張ってみる」

「その意気だマッツン! 目指せ! 美少女とセックス! そこまでできれば恐怖症は完璧に克服されたと言えるだろう!」

「いちいち下品なんだよお前は!」


 

 ---



 こうして『日替わり美少女定食大作戦』は始まったわけだが……。


「……実際、難易度高いぜこれは……特に芥屋」


 アイツなぜか俺のこと毛嫌いしてるからな~。


「あれ? どうしたのヒラ君。こんなとこで棒立ちしちゃって」


 コンビニで買ってきたであろうバニラアイスをぺろぺろしながら咲良がやってきた。


「芥屋に挨拶したら厳しく返された。なぁ咲良、アイツと会話弾ませるにはどうすりゃいいんだ?」

「え? え!? ヒラ君、もしかして月歌ちゃん狙い!?」

「いいや。むしろ俺がアイツのこと好きになれていたのなら、どれだけ良かったことか……」

「んん?? なんか状況がよくわからないナリ……というか、会話弾まなかったんだ。じゃあなんでさっきすれ違った時、月歌ちゃん、あんなに嬉しそうな顔してたんだろ?」

「嬉しそうな顔?」

「うん。ニターってしてたよ」

「……それ日彩と間違えてないか?」

「いやさすがにその二人を間違えないよ。対極じゃん」


 それもそうだ。


「よくわからないけど、そこまで不機嫌なわけじゃないんだな。よし、追いかけるか」

「月歌ちゃんは壁がとにかく高いから頑張ってね」

「ああ。またな、咲良」


 俺は寮の門から出て、歩道を走って芥屋を追いかける。今ならまだ芥屋に追いつけるだろ。

 走ること数分、自然公園の前、芥屋の背中が見えた。よし、声を掛けよう。


「芥屋!」


 芥屋はビクッと体を震わし、こっちを振り返った。芥屋の頬は赤い。表情には動揺の色が見える。


「待ってくれ……はぁ……ひゅー……!」

「……息切れしすぎです」

「久々に……走ったから……げほっ! ペースミスった……!」


 ぜーぜー言う俺に対し、芥屋は呆れた様子で、


「時間はありますか?」

「え? ああ。まだ一限までは結構ある」

「それなら、そこのベンチで待っていてください」


 芥屋は公園にある噴水、その前にあるベンチを指さす。


「いま、何かドリンクを買ってきます」

「……悪い……恩に着る」


 ベンチに座り、芥屋が来るのを待つ。

 芥屋は自販機でジュースを二本買い、持ってきてくれた。


「スポーツドリンク。アクエリオスとボカリ、どっち派ですか?」

「SO・RE・KA・RA派だ……600mlのやつ」

「ああそうですか。じゃあ自分で買いに行ってください」

「冗談です。どっちでもいいんでください」


 俺はボカリを受け取り、一気に半分飲み干す。


「ふー。サンキュー。落ち着いた」

「それで何か用ですか?」

「え?」

「何か用があったから追いかけてきたのでしょう?」


 用……は、特にないんだよなぁ。


「えっとだな……」

「……」


 芥屋は不機嫌そうに瞼を下ろし、立ち上がる。


「もういいですっ」

「あ、待った!」


 芥屋はそそくさと足早に公園を去っていった。


「足速いな……」


 結局、それから芥屋と接触する機会は得られず。


――月曜日、ノルマ未達成。



 ---



「はぁ……」


 夜。部屋で一人、パソコンと向き合う。


「ダメだ……全然ダメだ……女子を描く意欲ってのが湧かない」


 漫画は描けないし、初っ端からミッションは失敗するし、自信無くすぜ。


(いっそ諦めちまうか? ストーリーは捨てて、適当に絵だけでも気合入れて描けば最低限の評価は得られるだろう)


 でも、それをしてしまえば……ここで妥協してしまえば、俺は漫画家としてなにか大事なモノを無くす気もする。


『話を聞け!!』


 隣……咲良の部屋の方から声が聞こえる。


『私はこの地を守るため、日々修行を重ねてきたのだ! 足を引っ張ることはせん! だから私も貴様の旅に連れていけ!』


 オーディションのセリフか? いやでも、オーディションはとっくに終わっているはず。


(オーディションに受かった後のことを考えて、練習してるのか……)


 咲良の声を聴いて、先ほどまでの弱気な自分に嫌気が差した。

 妥協なんてしてられるか。やれるだけやってやる。



 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!

皆様からの応援がモチベーションになります。

何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る