第四話 歓迎会は余計なお世話が八割
階段を下っていくと、白い扉にたどり着いた。SFとかで見るようなハイテクな感じの扉だ。扉の側には指を突っ込める機器がついており、咲良はそこに人差し指を突っ込む。すると扉はスライドし、開いた。
(指紋認証の扉!? なんでここだけこんな近代的なんだ!?)
しかし、驚くのはまだ早かった。
中に入ると、これまた凄い。高級高層マンションの一室と言われても疑わないほど、広く、綺麗な部屋だ。キッチンはもちろん、ソファー、観葉植物、薄型大型テレビ、PCが四つ。ゲーム機も大量に戸棚に入ってる。
「ここはリラックスルーム。そして」
部屋には入り口以外にも三つの扉があった。
咲良は一つずつ扉を開き、紹介していく。
「ここはプロジェクタールーム! 映画とか動画をおっきなプロジェクターで視れるよ! 各配信サイトも利用可能!」
でっかいプロジェクターとソファーが幾つか置いてある部屋だ。この大画面で動画を流せば凄い迫力だろうな。
「ここは配信部屋! 動画配信したい場合はここを使ってね!」
カメラやモーションキャプチャーをはじめ、配信に必要な機材が揃ってあり、そして壁がよく撮影の背景とかで見る緑のやつだ。
「ここはカラオケルーム! 好きな時にカラオケを楽しめるよ!」
十人は入れるほど大きなカラオケボックスだ。
凄いな……リラックスルーム、プロジェクタールーム、配信部屋、カラオケルーム。この地下室のクオリティはすんごい。
「……どうなってんだここ。地下だけ別格の設備だな」
「ちなみに全室防音だから、いくら騒いでも大丈夫だよ。寮生は無料で利用可能! ただし!」
咲良はリラックスルームの壁に貼りつけてある紙を指さす。その紙には地下室利用に関する注意事項が四つ書いてあった。
「一つ! 二時間ごとに必ず一度外に出ること。二つ! 必ず換気扇のチェックをすること。三つ! 寝ないこと。四つ! 利用する時は
「了解。どれもホント凄いけど、俺は使う機会なさそうだな。でも声優志望とか、配信者になりたい人間にとっては最高の環境だな」
「元々そういう人のために作ったらしいからね。私は声優学科だからよく使わせてもらってます。そういえば、ヒラ君はコミック学科だったっけ?」
「まぁな」
「いつかヒラ君がアニメ化作家になったら……私をヒロインに起用してね!」
目ざといな。コネを作りにきやがった。
「……懐かしいな。昔、そういう漫画あったよな。でも断る。俺の作品がもしアニメ化するなら上手いやつに演じてほしい」
実力至上主義だ。
「いや、私も上手いから!」
「なにか役はやったことあるのか?」
「うっ……モブなら多少は……」
「この度はご応募ありがとうございました。咲良様の今後のご活躍をお祈り――」
「やめて! その呪文を聞くとトラウマが! トラウマが蘇るぅぅう!」
頭を押さえてうずくまる咲良。
俺は咲良は放っておいて、入り口扉についている指紋認証の機器に人差し指を突っ込む。すると扉が開いた。機器についている液晶に『平良比修松様 退出』という字が流れた。
「俺の指紋も登録済みか……いつ俺の指紋とったんだ、あの人」
まぁチャンスはいくらでもあったとは思うけども。
「これで案内は終わりだろ?」
「あ、うん」
「ありがとな。助かった。じゃあまた」
「待ってヒラ君!」
「ん? どうした?」
「今日の19時に食堂に来て! 寮生のみんなで歓迎会やるから!」
悩む。
正直めんどくさい。けど、これから近所になる人たちの厚意を無下にはできないし、もし断ったら叔母さん……じゃない、ミノリ先生に後で怒られる。
「わかった」
そう返事して俺は部屋を後にする。
部屋に戻って、畳に敷いた布団の上に寝転がる。
(ダメだ……とにかく疲れた。もう一歩も動けない。19時まで後3時間……軽く仮眠するか。18時と18時半にアラームをセットして、と)
スマホでアラームをセットし、眠る。窓から差し込む陽光が気持ちよく、すぐさま脳が
---
目が覚めた時、俺はすぐさま自分が寝すぎたことに気づいた。
なぜなら日差しが完全になくなり、外が暗くなっていたからだ。昼どころか夕方が終わっている。
スマホを確認する。すで18時58分だった。アラームは機能していたようだが、思っていた以上に深く眠っていたからか、気づかなかった。
「やっばい!」
後2分しかない!
俺の歓迎会なんだ。10分前には着いていたかったのに誤算だ。遅れるなんてもってのほか!
恰好はこのままで行く、仕方ない。着替えている時間はない。寝ぐせだ。寝ぐせだけは消す! 急いで洗面所に行き、寝ぐせ消しのスプレーをツノに吹きかけ寝ぐせを消去。部屋を出る。すぐに階段を駆け下り、灯りのついた食堂に入る。
「すみません! 遅れました!!」
食堂に入り、俺は今年に入って一番驚いた。
――女子しかいなかった。
正確には女子五人と30代女性一人しかいなかった。
ミノリ先生がいるのはわかる。けれど、残りの五人、咲良を抜いて四人が予想外の人物過ぎた。
「いえ、ギリギリセーフです。とはいえ、非常識な時間ではあると思いますけどね」
シナリオ学科二年、
「時間ギリギリに登場とは……アンタ中々に……サスペンス(ワクワクさせる存在の意)ね!」
動画クリエイター学科二年、
「言っとくけど、私はご馳走食べに来ただけだから」
ゲームクリエイター学科二年、
「ちょ、ちょっとみんな冷たいよ……! あ! はじめまして! えと、佐藤木晴です! よろしくお願いします! 平良比さん!」
イラスト学科二年、
「ごめんねヒラ君! 全員集合って言ったんだけど、一人だけ取材行ってていないの!」
そして声優学科二年、
「諸君、彼が明日からコミック学科一年になる平良比修松だ。前に言ったが私の甥だ。こき使ってやれ」
クリエイション総合学院教授、
この六人が、俺のご近所さん……だと!
「待ってくれミノリ先生! 俺以外の寮生が全員女子だなんて……き、聞いてないぞそんなの!」
「私は言おうとしたのに、お前が『同じマンションの人間なんてどうでもいい』と言って聞かなかったんだろうが」
そういやそんなこと言った! 馬鹿! 昔の俺のお馬鹿!
「まぁとにかく座れ」
四つのテーブル。
右奥のテーブルには先生と芥屋、左奥のテーブルには飛花と彩海、右手前のテーブルには佐藤と咲良が座っている。左手前のテーブルが空いていたので、俺はそこに座ろうとしたが、
「ヒラ君、こっち座りなよ。色々聞きたいことあるしさ」
咲良が手招きして言う。
「いや、でも……」
俺は同席の佐藤を見る。佐藤は天使のような笑顔で、
「私も、平良比さんには色々と聞きたいことがあります」
佐藤と咲良はハッキリ言ってめちゃくちゃ感じが良い。このコミュ障気味の俺が臆せず女子と同席しようと思えたのだから相当だ。佐藤が咲良の隣に移動したので、俺は彼女たちの正面の席に座る。テーブルにはすでにオレンジジュースとコーラとウーロン茶が置いてあったので、俺はオレンジジュースをコップに入れた。
「それでは皆さん、グラスを上げて……」
先生の言葉で、住人たちはグラスを上げる。
「我が甥の入寮を祝して! 乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
全員が同じテーブルの人間とグラスを合わせる。ミノリ先生はわざわざ俺とグラスを合わせに来てくれたが、他の面子は乾杯の合図から間を置かずにグラスを置いてしまった。
俺の専門学校生活……そして、
――――――――――
【あとがき】
『面白い!』
『続きが気になる!』
と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!
皆様からの応援がモチベーションになります。
何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!
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