第五話 月曜日が好きな奴は大体オタク
「はあ」
初登校日。俺はため息と共に部屋を出た。
まだ昨日の衝撃が頭に残っている。ちなみに昨日の歓迎会では先生と佐藤と咲良としか話さなかった。残りの三人はノータッチ・ノーコンタクトだ。別にいいけどな。俺も必要以上に仲良くする気はないから。
「あれ? ヒラ君、早いね」
階段を下りたら、首にタオルを巻いた咲良に会った。
服装からしてランニング帰りってところか。良い汗かいてる。
「精が出るな。朝ランニングか」
「うん! 今の声優はメディア露出も多いからね~。スタイル維持は大事!」
「うおおおおおおおおおおっっ!!」
バイクが道路を通ったと思ったら、バイクじゃなかった。赤い髪の女子、飛花火恋だ。飛花はバカみたいな速度で走っていった。
「らあああああああああああああっっ!!! サ~~~~~~~~スペンス!!!!(頑張れ私! の意)」
「……なにやってんだアイツ」
「なんか『一か月毎朝20km走ったら1500mのタイムはどれだけ伸びるのか!?』っていう動画を撮ってるんだってさ」
だから自撮り棒みたいなのを付けてたのか。面白いか? その企画。
「アイツの場合は精どころか魂が出そうな勢いだな」
「あ、面白い言い回し。さすが漫画家志望! というか、ヒラ君一限からにしても早くない? まだ一時間近くあるでしょ。ここから学校まで15分ぐらいだよ?」
「ちょっと学校見学の続きをしたくてな。昨日は中途半端に終わっちまったから」
「そうなんだ。じゃあ私が案内してあげるよ! ちょっと待ってて!」
「別にいい……って、行っちまった」
咲良は足早に階段を駆け上がり、俺の部屋の隣、自分の部屋に入っていった。
マジでお人よしだな。人の世話するのが趣味かなんかなのかね。なんて考えていたら、
「門の前で突っ立たないでくれますか?」
銀色の髪をサラッと流して、月曜日の天使――芥屋がやってきた。四月の日光ですら焼けないか心配になるほど肌白いな。
「わるい」
俺は歩道に出る。
この寮は周囲を柵で囲っており、柵の中に入るには門を通らないとならない。その門に立ちふさがっていた俺が全面的に悪いわけで、芥屋に睨まれるのも仕方ないことだ。仕方ないことだが……睨み過ぎじゃね? 親でも殺したっけ俺。そういや昨日も食堂で目が合う度に睨んできていたような。
芥屋は俺から視線を切り、隣の本屋に入っていった。
(ん? アレは……)
芥屋は本屋の外棚にある少年セブン(毎月第一月曜日発売)と少年ジャ○プ(毎週月曜日発売)を手に取り、中に入っていった。
「今から大学行くのにあんな分厚いの買っていくのか……重いだろ」
どっちも合わせたら1.5キロはあるぞ。
「おはようございます。平良比さん」
茶髪で小柄な女子、佐藤木晴が門から出てきた。
「佐藤か。早い出発だな」
「それを言うなら平良比さんもじゃないですか」
「俺は授業の前に学校を見学したくてな。お前は?」
「私はいまサークルでBL本を共同で書いていて、今日は午前中その作業なんです」
「BL? それは、ボーイズラブってやつか」
「はい。好きなんです」
こんな普通な感じで腐ってやがったのかこの子。
「そうだ! 平良比さんって背景物凄くうまいですよね。パース完璧だし、草木も建物も海や雲もなんでも描けて凄いです。私、人物絵は得意なんですけど背景は苦手で……今度教えてくれませんか?」
「ちょっと待て、なんでお前が俺の背景技術を知っている?」
「見たんですよ、平良比さんの読み切り。ミノリ先生が寮生みんなに見せてくれたんです」
(あの独身ババア……!)
「あ、もうこんな時間……すみません、話はここまでで」
佐藤は走り出すが、すぐに足を止め、こちらを振り返る。
「そうだ。月歌ちゃんなんか、平良比さんの読み切り読んで泣いてましたよ」
「は?」
「じゃ、また今度お願いします!」
佐藤は走って学校の方へ向かっていった。
「芥屋が、俺の漫画読んで泣いた……? 冗談だろ」
ちょうどその時、本屋のスライドドアが開き、脇に紙袋を抱えた芥屋が出てきた。俺はつい、芥屋と視線を合わせてしまった。
「(ギロッ!)」
「……」
芥屋は俺を睨み、わざわざ逆方向へ歩いて行った。学校に行くとしたら、あっちは遠回り……俺の前を通るのがそんなに嫌だったのだろうか。
(佐藤め、冗談が過ぎるぞ……殺気しか感じない)
寮に向かってくる足音。
足音の方、芥屋が行った逆の路地から眠たげな瞳をした少女、彩海がやってきた。腕にコンビニ袋をかけている。コンビニ帰りのようだ。
彩海は俺に目もくれず、言葉もかけず、電柱の前を通るが如くテンションで前を横切り、階段を上がって二階の一番奥の部屋に入った。コンビニ袋が揺れるザッ、ザッ、ザッ、という音がやけに大きく聞こえた。
ある意味アイツが一番楽だな。理想のご近所付き合い。喋らず関せず……。
「おっ、またせーっ!」
サンシャインの如き笑顔でやってきた咲良。今の自分が恋愛モードじゃなくてよかった。もし恋愛モードだったら今の笑顔で惚れてたな100%。思春期に咲良に会わなくて良かった……。
「行こ! ついでに道中にある便利なお店も教えるよ」
「助かるよ」
晴天の下、馴染みのない道を馴染みのない美少女と歩いていく。
すれ違う男共の嫉妬の目が心地よかった。なんつーか、優越感? 全然彼女でもなんでもないんだけども。散歩は一人でするのが好きだが、これはこれで痛快でヨシ。なんて性格の悪いことを考えていたせいか、途中で毛虫の死骸を踏んだ。
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