第三話 ラッキースケベ

 てっきり男が来ると思っていた俺は、数秒呆気に取られてしまった。


「ああ、そうですか。隣に越してきた平良比です」

「敬語はいいよ、同い年でしょ。いま大丈夫? 寮の案内したいんだ。準備が必要なら待つけど」

「いや、大丈夫」


 俺は靴紐を結びながら心を落ち着けていた。


七曜のウィーク天使たちエンジェルズ……目の前で見るとマジで美人ってか美少女。普通にアイドルとかやれるんじゃないか? おっと、なに動揺してんだ! 俺は恋愛しに来たんじゃない。漫画の勉強をしに来たんだろうが!)


 靴紐と共に精神をキュッと引き締める。


「お待たせ。行こうか」

「あ、うん。なんか、凄く気合い入ってない?」

「気のせいだろ。つーか、案内が必要なほど立派な設備があるとは思えないんだが」


 扉を閉めながら俺は言う。

 咲良は「ふっふーん」となぜか自慢げにその大きな胸を張った。


「何事も、見かけで判断しちゃダメだよ新入り君」

「?」


 まず咲良は一階に降りた。


「まぁ二階はなんにもないんだけどね。でも一階とは凄いよ」

「地下?」

「まず一階。101号室は大家であり君の叔母さんであるミノリ先生の部屋だよ。102号室、103号室は普通の部屋」

「103号室の隣二つは?」

「普通の部屋じゃない。この二つの部屋は共有スペース! まず103号室のすぐ隣の部屋は食堂だよ」


 この部屋だけスライドドアだ。

 咲良はドアを開ける。中にはキッチンと四人席ほどのテーブルが四つあった。


「たまにみんなで食べるんだ~。タコパとか! お鍋とか! 焼肉とかやるよ!」

「参加は強制じゃないよな?」

「……強制じゃないけど、みんなで食べると美味しいよ♪」


 ぶりっ子風に咲良は言う。ぶりっ子すんなって突っ込んでほしいんだろうが、実際可愛いからなんとも言えない。


「早く次案内してくれ」

「……え? ぶりっ子スルー? もしかして君、私が本当にそういうキャラだと思ってる? 違うからね!」

「わかってるよ。ただツッコミを入れるほどの気力がないだけだ……」


 実家から学校まで三時間近く歩いたもんでな。電車賃ぐらい惜しまず払えばよかったよ。


「えっと、ここがね……」


 俺と咲良はもう一個隣の部屋移動する。

 フローリングの部屋一室で、洗濯機が三つ並んでいる。さらに洗濯紐がいくつもぶら下がっている。


「のわっ!?」


 俺は思わず声を上ずらせてしまった。


「みゃー!!?」


 咲良もぶちきれた猫のような声を上げた。

 洗濯紐には……メイド服やバニースーツ、女性モノの普通の下着から紐のような下着……一言で言うなら、下品な衣服がいっぱいぶら下がっていた。


日彩ひいろちゃんだなぁ! もうっ!! ごめんヒラ君! ちょっと外出てて!」

「お、おう」


 俺は背中を押されて外に出る。


「……ここは洗濯ルームか? つか、いまさりげなくヒラ君って呼んでなかった?」


 いやそれより、さっきの衣装はなんだ? 明らかに女子モノだったよな。あんな変態みたいな衣装着るやつがこの寮にはいるのか……風俗でバイトとかしてないよな? 

 驚きすぎて鳥肌が立ったぜ。


「お待たせ! 入っていいよ!」


 改めて部屋に入る。


「ここは洗濯部屋。自分の部屋で干すのが嫌って人はここで干すんだ。ベランダもあるから日干しもできるよ」


 凄いな。あれだけあった洗濯物が全部消えてる。

 洗濯機がミシミシいってる気がするが……スルーしよう。


「本題はこっちこっち!」


 咲良が手招きする。咲良は部屋の隅の方にいる。

 咲良の足元、床に、正方形の扉がある。咲良はその床扉の取っ手を持って、「むがーっ!」と全身を使って引っ張る。が、扉は持ち上がらない。


「ごめん……ヒラ君、手伝ってぇ……!」

「わかった。って、掴む場所ないな……」

「私を引っ張って!」

「……そうは言われても」


 どこを持てと?

 扉を開けることだけを考えれば、一番いいのは脇下から胸に腕を回して引っ張る。でもこれは確実に激引きされるだろう。恐らくゴキブリを見るような目で見られる。

 肩を掴んで引っ張るか? でもそれだと力は伝わらない。ならやっぱり、腰、だな。


「いくぞ!」


 俺は腰を掴んだ、つもりだった。

 俺が腰に手を伸ばしたところで、扉がちょっとだけ開いて、そのせいで咲良の体勢がちょっと浮いた。おかげで俺の手は腰ではなく、咲良のスカートを滑り、股間の方へもぐりこんでしまった。


「うおっ!?」

「え」


 ちょいと汗ばんだ生暖かい布の感触が手に伝わる。同時に、心臓に氷を投げつけられたような気分になった。頭の中にはパトカーのピーポーピーポーという音が響いた。


「みゃあ!!?」


 俺が予想外の部分を触ったからか、咲良はビクンと体を浮かせた。その勢いで扉が開き、俺と咲良は勢いそのまま後ろへぶっ飛び床を転がった。


「……」

「……」


 そしてさらなる災難……偶然、俺は咲良に床ドンしてしまった。

 咲良の上に、覆いかぶさるような体勢になってしまった。


「わ、悪い!!」


 俺はすぐさま距離を取り、すぐさま土下座した。


「すみませんごめんなさい勘弁してください。どうか警察を呼ぶことだけは勘弁してください。一生あなたの奴隷でいいので通報だけはやめてください。僕には夢があるのです」

「大丈夫だよっ! 気にしないで! 事故だってわかってるから! 逆にこっちがごめんね! 粗末なモノ触らせちゃって!」


 顔を上げると、咲良は顔を真っ赤にしているものの笑顔を浮かべてくれていた。本当に許してくれているみたいだ。

 ラッキースケベってアレだな、実際あると興奮とかしてらんないな。罪悪感と焦燥感でなにも感じない。危機感しかない。心臓が嫌な動悸を起こしてる……。


「そうだ! 案内の続き! ここからが面白いところなんだから!」


 気まずい空気を振り払うように、咲良は手を叩き、案内を続ける。

 実は俺も気になっていた。床扉の下、そこには地下に続く階段がある。


「まさか、地下室があるのか?」

「そうだよ~。こういうの、男の子のあ・こ・が・れ、でしょ?」




 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!

皆様からの応援がモチベーションになります。

何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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