第二話 お隣のエンジェル
俺がこの学校に入ったのは二人の人物に背中を押されたからだ。
一人は土門。そしてもう一人はこの学校の教師にして、俺の叔母である――
「よう
土門と別れ、一人食堂に来たらちょうど食事をしている彼女に会った。
「
平良比心祝。俺の母親の妹。32歳、独身。
黒のロングヘアーで、モデル並みの体型なのに、なぜかモテない。身内贔屓なしにかなりの美人だと思うのだが、モテない。きっと性格のせいだろう。
「叔母さんって呼ぶのはやめろ。私のことはミノリちゃんと呼べ。もしくはミノリ先生だ」
「じゃあミノリ先生。例の学生寮に案内してほしいのですが、いつになったら暇になりますか?」
「予定より早いな。三限、四限に受け持ってる授業があるから、夕方までは手が空かん」
「さすがにそこまで待つのは面倒だな……学校の設備は見ていて楽しいけど、荷物が邪魔過ぎる」
俺は手に持ったアタッシュケースと背負っている馬鹿でかいリュックを見せる。
「なんで引っ越し業者に頼らないんだお前は」
「ここの学費がバカ高いせいで、引っ越し業者を雇う余裕がなかったんですよ」
「はぁ。先に言え。それぐらいの金は出してやったのに。ほら」
ミノリ先生は一万円をポンと財布から出した。
「これでタクシーを使え。寮の住所はメッセージで送る」
「さすが成金学校の教師ですね。一万円ぐらいはした金ですか」
「入学する前に退学にされたいのか貴様は! あ、そうだ。寮生の中で今日二限で終わりのやつがいたな。後でそいつにお前の部屋を訪ねさせる。そいつに寮の案内をしてもらえ」
「了解です。ちなみにおつりは……」
「いらないよ。やる」
俺はガッツポーズと共に「よし!」と声を上げる。
「……マジで金ないんだな。頑張れよ」
そこまで言って、ミノリ先生は「あれ?」と首を傾げた。
「でもお前、あんな大先生のところでアシスタントやってたんだから、結構金貰ってたんじゃないのか?」
背中に、嫌な汗が浮かぶ。
トラウマというのは誰にでもある。俺も例外なく、トラウマってやつをもっている。俺のトラウマは、ある半年の出来事。とある先生のもとでアシスタントをやっていた時の記憶だ。
「あの人に貰った金はもう使い果たしました。働いてたのなんてたったの半年ですから、大した額貰えませんでしたよ」
「ふーん。ま、売れてる先生だからって多く払う義務なんてないか」
「それじゃ、また後で」
「ああ。またな」
ミノリ先生に手を振り、俺は食堂を後にした。
スマホでタクシーを呼び、学校の前にあるベンチでタクシーを待つ。暇なので購買で買った週刊少年セブンを読みながら。
いつからだろうな、作品の粗ばかり探すようになったのは……どの漫画を読んでいても、どこかで俺より劣っている部分を探している。こういう視点を一回脱却しないとダメだとわかっているのにな。
ふと、新人賞のページで手が止まる。
「……」
俺の漫画家としての唯一の功績、それは二年前、この少年セブンの月間賞で大賞を取ったことだ。それはそれは大変褒められた。少し手直ししただけの読み切りが本誌に乗った。いろんな場所で称賛された。
高3だった俺はすぐさまデビューできるもんだと思っていたよ。それなりに頭良かったのに浮かれてどこの大学も受験せず、周囲にも自慢しまくった。すぐに大ヒット漫画家になれると思った。すぐに億万長者になれると思ってた。でも、すぐにわかった。読み切りと連載では求められるモノが違うと。何度連載ネーム出しても没の連続。挙句の果てに編集からはこんなこと言われたっけ。
『君の描く女の子さ、なんか魅力がないんだよね。ちょっと、女の子に対する理解度が足りないんじゃないの。彼女とかいないでしょ』
いないよ。できたこともないよ。
経験したモノしか描けない、なんてモノは愚者の戯言だ。だけど、確かに俺はちょっと女子に対する理解度は低いのかもしれない。昔から男とばっかつるんでいたし、二次元の女子しか興味なかったし。
と、そんなことを考えていたらタクシーが来た。
タクシーに乗って、ミノリ先生に教えてもらった住所へ。
今向かっているのは学生寮、というかクリエイション総合学院に通っていれば格安で住める場所だ。まだ築二年。格安とはいえ、期待できる。
「着きましたよ」
「あ、はい」
タクシーのお兄さんにお金を払い、荷物を持って降りる。
「ふむ」
目の前に、確かにアパートがある。
でも、なんというか……古い。え? ト○ワ荘じゃないよね? いや、あそことは全然建物の造りは違うけど、建築技術は同程度のモノしか使われていない気がする。
二階建て。一階と二階、共に部屋が五つずつ。木造建築だ。驚いたことに部屋の外に洗濯機がある。
「2022年建築だよな? 1922年の間違いじゃないよな……」
いやでも納得か。あれだけ安いんだもんな。
外階段を上がって二階へ。右から二番目の部屋、202号室。そこが俺の部屋。あらかじめミノリ先生から貰っていた鍵を使い、ドアノブを下げて中に入る。
まず玄関、玄関を上がって左手側にトイレ、その隣に風呂。右手側にキッチン。キッチンとトイレ・風呂部屋の間を抜けると、六畳の和室。押入れが一つ。窓が二つ。エアコンはあり、コンセントもあり。なぜかコンセントの数が多い。あと和室に似合わない薄型テレビ、木造りの本棚、丸テーブル、キッチンには冷蔵庫とレンジもあった。本当に家電完備なんだな。助かる。
押し入れには布団もある。
(家電が最初から揃っていて、風呂とトイレがちゃんと分かれていて、キッチンもあり。布団もあり。寝室やベランダはないけど、これで東京月2万5千円なら全然いいよな)
リュックとアタッシュケースの中身を出していって、荷物を整理して、それぞれの家電の動作確認。すべて問題なし。
新生活の準備を整えたところで、近くにどんな店があるか探しに行こうかなー、と思った矢先のことだった。
ピンポーン、と部屋のチャイムが鳴った。
今は15時15分。まだミノリ先生が来るには早い。さっき言ってた案内役の寮生だろう。
「はい」
扉を開ける。
俺は、扉の前に立っている人物に驚いた。
「はじめまして」
そう挨拶したのは金髪の少女。それもとびっきりの美少女だ。
俺は彼女を知っていた。というか、今日見たばかりだ。
彼女は風でたなびく柔らかな髪を押さえ、挨拶する。
「201号室、お隣に住んでいる咲良亜金だよ。ミノリ先生の甥っ子の平良比修松君……だよね?」
――――――――――
【あとがき】
『面白い!』
『続きが気になる!』
と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!
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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!
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