第10話「大会出場」

「なぁ、本当に出るのか?」


「当然、あたしは元から1人で出るつもりだったし。何?ビビってるの?」


「いや、ビビるって言うか緊張してる」


「気楽にやればいいじゃん大会って言ってもどうせ小さなもんなんだし」


「そうだよ和真君、気楽に行こ!」


「お前なぁ・・・」


数時間前・・・部室にて。美穂が再び紙を1枚持ってきた。


「ねぇ和真君、これ見てよ」


「SPLASH CHRONICLEの大会?優勝者にはSPLASH関連の限定グッズ10セットプレゼント・・・なんだこれ」


「和真君は興味無い?」


「大会には興味無いな・・・別にグッズも欲しいわけじゃないし・・・」


「あたしは出るよ」


「黒川?」


「あたしも別にグッズには興味無いけど、色んな強い人と戦いたいし」


「強いやつ・・・か」


「和真君、興味湧いた?」


「・・・少しな」


「じゃあ明日ゲーセンにレッツゴー!」


「えぇ・・・」


そして今に至る。黒川は慣れているのかいつもよりも浮ついていた。和真はといえば、緊張で手が震えていた。すると、美穂が和真の手を優しく握り、励ました。


「大丈夫だよ和真君。勝ち負けじゃなくてゲームを楽しんできなよ」


「・・・そうだな、そうするよ・・・すぅー・・・はぁー・・・よしっ!」


深呼吸をして、少し気が楽になった和真はゲームセンターの中へと足を踏み入れる。ゲームセンター内は既に人が溢れており、様々なゲームの音が鳴り響いている。そしてゲームセンターの奥の方の場所にSPLASH CHRONICLEの筐体が置いてあった。その近くに店員がおり受付を行っていた。


「参加希望者の方ですか?ではこちらにご記入ください」


和真は先に書いた黒川の隣の枠に名前を記入した。黒川とペアでこの大会に出場するのだ。開始時刻は12時からで今は11時47分。それまで心を落ち着けることにした。


「落ち着け・・・落ち着け・・・勝ち負けじゃないんだ、楽しめればそれでいい・・・」


すると、黒川が背中を軽く叩いてきた。


「気負いすぎだってば、負けたら死ぬわけじゃないんだし、もっと肩の力抜きなよ」


「あぁ、分かってる。分かってるが・・・」


「大丈夫だって、いつもの本気が出せなくてもあたしが優勝まで導いてあげるから」


「はっ、それは心強いな。俺の隣、任せたぜ」


「任された」


そして、時間がやってきた。先に記入した組から戦い始め、遂に出番が回ってきた。


「さぁ、行くよ?準備はOK?」


「あぁ、出来てるよ」


2人は席につき、カードをスキャンして機体を選択する。その時、外野がざわつき始めた。


「お、おい、あの小さい女、もしかして漆黒の白雪姫じゃないか?」


「あ、ほんとだ、あのプレイヤーネーム知ってるぞ・・・でもあの隣のやつ知らないな・・・」


「でも待てよ、俺知ってるかも・・・家庭版で1回当たったことある。ゼウス使ってるやつなんてほとんど見ねぇし多分あいつだ・・・試合中1回も被弾してるとこ見たことねぇ」


「そんなヤバいやつらがタッグ組んでんのかよ・・・やべぇな」


試合が始まり、30分が経過。遂に決勝まで登り詰めた。


「いつもより被弾が多かったけど段々調子取り戻してきたんじゃない?」


「あぁ、もう大丈夫だって言っても次で最後だけどな」


「最後くらい被弾なしで行ってよ」


「無茶言うなよ、まぁ、頑張るけどさ」


画面にスタートと表示される。先に動いたのは黒川のゴーズ。素早い動きで2機を翻弄している。それを後ろから援護する和真。和真に近付こうとすると黒川が速攻で駆け付け、ダウンさせていく。そうして、相手は最後の残機となった。


「く、くそぉぉぉ!!!せめて一機墜とす!!」


黒川が華麗にさばいてみせるが、その背後にもう一機が迫っていた。


「貰ったぁぁぁぁぁ!!!!!」


「そう簡単に取らせるかよ」


「なっ!?」


いつの間にか敵の背後を取っていた和真のゼウスが相手を掴み、空に放り投げる。そして、翼のような武装からレーザーを放ち、最後の一機を撃ち墜とした。そして、画面にWINと表示される。


「やった!梨沙っち達の勝ちだぁ!」


黒川の機体のHP半分まで減っていたものの、和真の機体はノーダメージという素晴らしいプレイを見せつけ、観客を盛り上げた。そして、賞品として貰った物を黒川と2人で分け合い、ゲームセンターをあとにした。


「勝つって分かってたけど手に汗握っちゃったよ、ほら見てよ、ウチの手ベチャベチャ」


「わ、私も凄く緊張した・・・」


「初めて人前で歌った時みたいな緊張感があったよ・・・」


「やってないお前らが緊張してどうすんだよ・・・まぁ、勝てて良かったな黒川」


和真は黒川に拳を突き出した。黒川は少し恥ずかしそうにしながらも拳を合わせた。


「う、うん・・・(あれ、なんでこんなドキドキしてるんだろ・・・今までこんなこと無かったのに・・・)」


「・・・ん?どうした黒川?顔が赤いぞ?」


「な、なんでもない!なんでもないから!・・・早く帰ろ」


「お、おう・・・」


その日の黒川は試合が終わったというのにどことなくぎこちなかった。

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