第36話 再び神殿へ
「お、おお。出来た、出来たぞ」
「何かあったのですか?」
「あ、ああ。竜の巫女を治療できる秘薬を探しているって言ってただろ。入ってきていいよ」
「失礼したします。おっしゃっておりました」
「可能性のある秘薬の元になる種ができたんだよ」
「それで先ほど集中されていたのですね! お邪魔しちゃいました」
「いや、全く持って問題ない。驚かせちゃったよね」
「いえ、おめでとうございます!」
このままシャーリーと踊り出したい気持ちであるが、まだ早い。
今できたばかりのレムリアンの種は「未強化」状態である。木が果実をつけるまでどれほどの時間がかかるのか。
少なくとも一年以内にレムリアンの果実を採集することは叶わないだろう。
そこで、強化だ。
「もう少しだけ種をいじりたい。呼んでくれたのにごめんね」
「分かりました! でしたら私は食事の準備をしてまいりますね」
パタンと扉が閉まり、再び椅子に座る俺。
そもそも、標準状態であればレムリアンが実を付けるまでどれくらいの時間がかかるのだろうか。
実物が手に入ったので詳細パラメータを確認することができる。
「百年……。竜の巫女どころか俺も生きてないわ」
成長力を強化しすぎると次世代の種が取れなくなるんだよな。
植えたら即収穫できるリンゴの木とかがそうだ。一世代限りなので外来種の危険など考えなくても済むのが良いところである。
一世代かつ寿命も短くすればそれだけ成長が早くなるんだ。
難しいところは小麦などはこれに当てはまらない。小麦はリンゴの木のように即成長しきって実をつけるパラメータにすることができなかった。
レムリアンはどうだろうか。
まず
ふむ、寿命は一万年。探せば今もあるんじゃないか……レムリアン。
寿命に対し繁殖力は極めて低い。これなら新たな種を得るのだったら、再度進化させて手に入れる方がよいか。
成長力+++にしたら繁殖力がゼロになった。もう一段階成長力を+したい。
この場合は他のパラメータを落として強化するのだけど、レムリアンの場合は通常の最高強化状態である+三つでもまだ強化できた。
成長力++++++だ。
これならそもそも成長が遅いレムリアンであっても竜の巫女の限界に間に合うはず。
◇◇◇
「ウマウマ?」
「いっぱいあると思うよ」
翌朝になり、さっそくレムリアンの種を持って竜の巫女の元へ向かうことにしたんだ。
前回と異なりナイトメアで空を飛んで行くので昼食の用意さえ必要ない。
今回は一人で行こうかなと思ったのだけど、クレイが喜ぶかもと思って連れて行くことにした。ちょうどナイトメアに乗ろうとしている時に彼を見かけたんだよね。
神殿を出る時にルルドへちょっとしたものを渡していて、きっと今頃神殿の周囲はクレイにとって素敵な景色になっているはずである。
『グルルルルル』
ナイトメアが唸り、一気に空へと飛び立った。
馬より遥かにスピードも出ているし、空からだと遮蔽物が無く速い速い。
あっという間に神殿のある崖が見えてきた。ここでナイトメアが高度を落としふわりと崖の上に着地する。
その場所は前回俺たちが蔦で登って来た辺りだった。
ここからはゆっくりと歩き神殿に向かう。
「ウマウマ」
「お、気が付いたか?」
神殿を囲むように新たな木がずらっと並んでいる。それらはクレイの大好きな甘い果実をつけているものもあった。
リンゴ、梨、洋ナシ、そして桃。
ざっと見たところだいたい半分くらいかな? 交互に植えたみたいで果実の成っていない木はまだ成長途中だ。
「食べるのはちょっと待ってくれ。俺のものじゃないからさ」
「マツ」
よだれがダラダラ出てるんですけど……。
木の状態からしてルルドが神殿にいるはずだから、彼女を探そうか。このままじゃ気になって竜の巫女のところへ行けやしねえ。
彼が喜ぶかなと思って連れてきて、予想通り喜んでくれたみたいだけどここまで食べ物に対してウズウズするとは。
お、ちょうどいいところに。
空から枝をいじっているハーピーの姿を発見した。髪色がルルドと異なるから別のハーピーかな?
手を振る前に俺たちに気が付いて彼女はこちらに降りて来た。
「ナイトメア……ということはイドラ様ですね!」
「う、うん。イドラだよ。この果実、少し頂いてもいいかな?」
「もちろんです! 全て元はイドラ様の種ですから」
「ありがとう。クレイ、良いよ。思う存分食べてくれ」
待ってましたとパタパタと翼をはためかせ一番近いリンゴの木の枝に乗っかるクレイ。
残されたのは彼のよだれだけ。
ふう、それじゃあ竜の巫女のところへ行こう。
「こんにちは、イドラさん」
「お待たせしました。試して頂きたいことがあるのですが、相談があります」
「私にできることなら」
「不躾ですいません。神殿の外に使っても良い広い場所ってありますか?」
「果実の成る木ですか? イドラさんがルルドに分けてくださったと聞いています。ありがとうございました。みなさん、とても喜んでいますよ」
「今回お持ちしたのも果実が成る木なのですが、何分大きな木でして」
「まさか……お持ちになったのですか?」
「そうです、幸運なことにレムリアンの種が手に入りました」
体力の消耗を抑えるためなのかイズミは感情表現に体を動かしたり、表情を大きく動かしたりすることがなかった。
しかし、この時ばかりは大きく体を揺らし開いた口が塞がらないといった様子だ。
幸運だったのは事実で謙遜しているわけではない。種の図書館でリンゴからレムリアンへ進化できることを発見したこともたまたま進化できる種を持っていただけだった。
最たるものは「太陽の欠片」である。ジャノの記憶と彼の持っていた本にある太陽の欠片と俺が求めていた太陽の欠片が同一のものだったのか別のものだったのかは分からない。
だけど、朱色の玉が俺の求める太陽の欠片で、進化できたことは本当にたまたまだったのだから。
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