第34話 ごおおおお
「何だあのモンスター……」
岩で覆われた竜? とでも表現したらいいのか?
頭だけで一メートルもあり、口には鋭い牙が並んでいる。鎧のように岩を纏っている。
そいつはドオオオオンと爆音と共に飛び上がり地面に着地した。
でかい。
全長10メートルを超える巨体だ。鱗の代わりに重たい岩の鎧で覆われているからか、一歩足を踏み出すだけで地面が揺れる。
『グルウウウアアアア』
「待て、あの岩の鎧だ。雷撃は通らん。体当たりしたらこちらが怪我をする」
勇敢にも岩の竜に踊りかかろうとしているナイトメアを押しとどめた。
ナイトメアと岩の竜じゃ相性が悪すぎる。雷撃は岩を通さないし、あの巨体に体当たりなどしようものなら怪我をするのはこっちだ。
「俺がやる、合図したら岩の竜に接近してもらえるか?」
「クレイ、ゴースル」
「わ、分かった。一発だけな」
ナイトメアに話しかけたらクレイがゴーを主張してきた。
この状況なら太陽の欠片がどうこうってものはないだろ。クレイの小さな体から発されるブレスがいくら高温でも岩の竜を滅するまではいかない。
うまくいけば多少のダメージを与えることができるだろ。
クレイが大きく息を吸い込み、岩の竜に狙いをつける。
ゴオオオオオオオオオ!
火球のようなブレスではなく、レーザーのような熱線が発射され上から下に薙ぎ払われる。
悲鳴をあげることもなく、岩の竜が真ん中から真っ二つになりゴオオオンと崩れ落ちた。
「え……」
「ゴーシタ。ホメテ」
「え、えらいぞお。一発で倒したじゃないか」
「クレイ、エライ、イドラ、タスカッタ?」
「大助かりだよ!」
び、びびったぞ……。漏らしそうになるくらいに。
まさかの熱線レーザーにあっけにとられてしまった。クレイにブレスを使わせる時は慎重に場所と用法を選ばないと、とんでもない被害になるぞ。
「ナイトメア、降ろしてくれ」
たてがみを撫でると俺の意を汲み取って降下するナイトメア。
岩の竜が崩れ落ちた衝撃でまだ土煙がまっていてくしゃみが止まらない。
思った以上に重量があったんだな、この竜。
正直、竜の一種なのかも分からない。見た目が竜っぽかったから勝手に竜と言っているだけだからね。
「しっかし、大被害だな……」
広大なファイアフラワーの群生地の四分の一くらいが岩の竜の瓦礫で占められてしまった。
太陽の欠片が壊れてなければよいのだけど……岩の竜を放置するわけにはいかなかったし致し方無し。
それにしても岩の竜の岩は美しい。
海の青を切り取ったかのような澄んだ青色に波のような白が混じっている。
前世のパワーストーンのお店でこれに似た石を見たことがあるぞ。この青を見ているだけで何だか癒される気がしたんだよな。
土と泥で汚れているけど、磨けばパワーストーンのお店で売っていたような石になるに違いない。
何て名前だったっけな、この石。
う、うーん。思い出せん。
「ウマウマ?」
「あ、ごめん。太陽の欠片を探さないとな」
「ウマウマジャナイ」
「そうだな。ウマウマはファイアフラワー群生地の外にでも植えようか」
そう言うとクレイは喜びからかポンと小さな炎を口から吐き出した。
その後、ふよふよと飛んで小さな手で何かを指す。
彼の示す先には朱色の玉があった。
玉のサイズは直径30センチほどで、グルグルと炎が動いているように見える。
不思議な石だな。これって岩の竜の目玉だったところじゃないか?
しゃがんで玉に触れようと手を伸ばす。
「熱っ!」
玉に触れる直前で熱を感じ反射的に手を離した。
燃え盛る炎のような熱を持つ朱色の玉は俺でも只者ではないと分かる。
この玉は持って帰るべきだ。海のような模様と色の岩で囲んでから袋に詰めれば持って帰ることができるだろ。
後でこの場所に再度やってきて海のような模様と色の岩をできる限り運ぶとしよう。
「クレイ、他に何か見えるかな?」
「ナイ」
「そ、そうか」
言いきられてしまったらどうしようもない。ある種の蛇はピット器官という熱感知の仕組みを持っている。
ドラゴンも鱗を持つ生物なので似たような器官を持ってないかなあと思って彼を連れてきたのだけど、どうやら失敗だったらしい。
もう少し周囲を見てもらってから判断すべきだけど、今回はこれで引いておくべきと考えた。
即答だったので、今度はジャノを連れてきて彼の指示の元クレイにもう一度見てもらうことにしよう。
くまなくファイアフラワーの群生地を見てくれと言っても広すぎるからさ。
元々、一度の探索で発見できるなんて都合のいいことは考えていない。ファイアフラワーの群生地の場所が分かったので、次からはナイトメアで飛べば一時間もかからずここまで来ることができる。
何も得ることができなかったわけじゃないし、明日また来ればいいさ。
クレイの機嫌を損ねるよりはその方が断然いい。
「そんじゃま、梨とリンゴを食べてから帰るとするか」
「ウマウマ」
「もきゅきゅ」
俺たちは梨とリンゴをウマウマしてから帰ったのであった。
◇◇◇
「なるほど。クレイを連れていったわけか。彼なら僕らの持たない色覚を持っているだろうからね」
「そうなんだよ。って色覚?」
「鳥やトカゲの使い魔と視覚を共有できることは知っているかい?」
「使い魔の見た景色を見ることができるってやつだっけ」
「そうさ。鳥やトカゲはどうも僕たちに見えていないものを見ているように思えるんだ。確かこの本に」
「ジャノは使い魔を持っていないんだっけ?」
「昔、持っていたことはあったよ。すぐにリリースしたけどね。その時に試した」
次回はジャノも一緒について来て欲しいって話をしようとしたら、全然違う話になってしまったぞ。
俺も興味がある話なので、本を開きながら彼の説明を聞いた。
カラスの眼と視界を共有しても本物のカラスの見ている色を見ることはできない。
見る側の人間がカラスの持っている色を全て再現することができないから、とか、カラスの目を通じて自分の目で見ているから、とか所説がある。
何故、カラスの見ている色と人間の見えている色が違うのかってのは、色の違いが判別できない箇所をカラスが「色を区別」していることからだ。
使い魔とは意思疎通ができるから、カラスから聞けばすぐ分かる事実だったのだってさ。
そういや、魚類は人間に見えない色が見えるとかで漁の時に魚にしか見えない色を使って漁をしているとか聞いたような気がする。
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