第33話 もっきゅもっきゅ

「もきゅう」

「こっちか」

「もっきゅもっきゅ」


 鼻をヒクヒクさせ鼻先で行き先を示すクルプケに導かれつつ荒野を進む。

 それにしても、まさかこんなパーティになるとは思ってもみなかった。

 今回ジャノは村でお留守番である。村の事情を鑑み、彼が再び村を抜けることになると色々なことが止まってしまう。

 それに今回はクルプケの足で行った範囲だし、道中急ぐために馬……を連れてこようとしたらナイトメアが主張して「俺の背に乗れ」とさ。

 彼には村での害獣駆除という役目があるので置いてきてもよかったのだが、ジャノがいるので村の警備は特に心配する必要はない。

 彼とシャーリーにはいざとなった時のために種も渡している。


「ウマウマ?」

「そうだな、食事にしようか」


 俺のお腹の前にはミニドラゴンのクレイとクルプケが埋まっていた。

 お腹が減ったと主張するクレイにそろそろ俺も腹が減ってきていたのでこの辺りで食事にすることを決める。

 クルプケとクレイの食事はお手軽だ。

 ナイトメアから降り、木の根元に腰かける。袋からリンゴと梨を出してクレイの口に突っ込んだ。

 クルプケの足もとに梨を置くことも忘れない。


『グルルルル』

「ごめん、食事は後からで少し我慢して欲しい」


 ナイトメアは肉食なので狩りをするなりして現地調達になる。といっても、肉食の野生動物の常なのかこまめに食事をする必要がなかった。

 一日、または二日に一回たんまりと肉を食べればよいみたいだ。

 彼は出て来る前に捕獲したばかりのイノシシを食べてきたのでまだ食事の必要はない。

 だけど、俺たちが食べるので彼に断りを入れた。

 俺はナイトメアほどの食事量が必要なく、村に備蓄されつつある干し肉を持ってきている。数日間なら肉を食べずとも平気だし。


「持ってきた分は全部食べてしまってもよいよ」

「ウマウマ」

「もきゅう」

 

 食べきれるのかな、と思ったけどクレイがもしゃもしゃと持ってきた果物を全て食べ切った。

 体の大きさの割に良く食べるよな。枝の上を住処にしているくらいだし、ブレスで焼却処理をする時以外は食べ続けているのかもしれない。

 果物も種を持ってきているのでいつでも現地調達可能である。

 何もないところに突如リンゴの木があるのはどうかと思ったけど、誰も困らないしいいかなって。

 現代地球では種の保存の観点からむやみに外来種を持ち込むことは禁止されている。この世界にはそのようなものはないし、枯れた大地という厳しい自然は人間の食べられる植物が極端に少ない。そのような地域なのでリンゴの木一本くらいなら良いだろうと判断した。

 俺の種は成長力を極限まで高めているが、次世代を繋ぐ繁殖力は無いように調整している。

 なので、リンゴの木によるパンデミックは起きない。

 

「よっし、行こうか。頼む、クルプケ」

「もきゅもきゅ」


 お腹いっぱいになるウトウトし始めていたクルプケは俺のお願いを聞きしゃきっと首を伸ばす。

 クレイとクルプケ、そしてナイトメアと共に探索に向かった目的はもちろん太陽の欠片を採取するためである。

 太陽の欠片は人間の目に見えない膜で覆われているらしく、見えないものは探しようがない。

 そこでクレイである。俺の予想が正しければ、きっと彼が見えないものを見てくれるはず。

 

 気の抜ける脱力系パーティ構成であるが、村の外はモンスター蔓延る魔境……は言い過ぎだけど、警戒するところは警戒しなきゃいけない。

 といっても大概のモンスターはわざわざナイトメアに近寄ってこようなどせず、翌日にはクルプケがファイアフラワーの種を拾った場所まで到達した。

 ここは火山のふもとらしく小高い丘になっており、遠目に火口が見える。

 火口といってもマグマが噴出しているわけではなく、山の中腹ほどのところに大きな穴があったので火口だろうなと推測したに過ぎない。

 丘の一番高いところからは見晴らしがよく、山の中腹と丘の間にある谷の地域も一望できた。

 そこに広がっていたのは一面の朱色!

 

「すげええ!」

「ゴースル?」 

 

 まるで満開の彼岸花が群生しているかのような景色に思わず声が出る。


「ゴーはしないからね」

「ウマウマ」


 近寄ってみないと分からないけど、あれはきっと彼岸花ではなくファイアフラワーに違いない。

 残念、今ウマウマなものは持っていないのだ。太陽の欠片をゲットしたら梨の木の種を植えるから待っててくれ。


『グルルルルル』


 朱色の花畑に踏み入ろうとしたら、ナイトメアが唸り始める。

 俺の目には何ら警戒する対象が見えないが目に見えない何かがいるのか?

 といっても進まないと何も始まらないわけで、ここまで来て何もせず引き返す選択肢はない。


「お、おおお」


 花畑は彼岸花ではなく、ひまわりの花に似た花だった。色は鮮やかな朱色で茎も同じ。

 根本から花の先まで全て朱色の植物だった。これがファイアフラワーだろうか。

 しまった。事前に種を植えて現物を確かめておくべきだった……ファイアフラワーのある場所へ行くばかりが先に立ち実物があるのに実物を見ていなかったのだ。

 今試してみるか。

 ファイアフラワーの種の成長力を最大まで高めて、朱色の花と花の間に植え水をかける。

 むくむくと成長したファイアフラワーの種は朱色の花そっくりに成長した。


「お、おお。これで当たりだな」


 朱色の花はファイアフラワーで間違いない。


「クレイ、花以外の何かが見える?」

「ゴースル?」

「ブレスで薙ぎ払ったら太陽の欠片ごと灰になるよ……」

『グルウウウアアアア』


 俺の声をかき消すようにナイトメアの咆哮が響き渡る。

 と同時に地面がゴゴゴゴと揺れた。

 こいつは不味い!


「ナイトメア!」


 クルプケの尻尾を掴みひらりとナイトメアに飛び乗る。クレイはパタパタと飛んで俺の肩に乗っかった。

 ナイトメアが空に飛び立つと同じくして地面から巨大な何かがドドドドドと姿を現す。

 「ゴースル?」とクレイが言っていたのも、ナイトメアが警戒していたのもこいつが原因だったのか。

 俺は全く気が付かなかった。まさか地面から来るとはな。

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