第31話 ファイアフラワー

 村は畑が更に増え、日々日々作物が収穫されている。古い家を活用したり、ツリーハウスを更に育てて一時しのぎの貯蔵場所にしているのだが追いついていない。

 周囲の村や街に余剰作物を売りたいところだが、輸送をする手段がないんだよな。

 なのでこれまで領都から無償で補給を受けていたのだが、これを廃止しこちらの作物と交換でモノを仕入れる形はどうかなと思っている。

 父は枯れた大地という領土を維持するために補給部隊を出していたのだけど、相当コストがかかっている。

 国としての方針なのだろうけど、物資だけじゃなく輸送費も嵩む。

 うーん、こちらから作物を出すことで経費をペイできればいいのだけど……補給部隊そのものを出さない方が父にとってはいいのかもしれないな。

 いずれ聞きに行くか。ナイトメアに乗れば領都であっても日帰りできるかもって距離になるからね。

 おっと、話が逸れてしまった。

 村に戻ってきてから一心不乱に種を調べて七日……つまりナイトメアが村に来てからも七日経過している。

 当初、ナイトメアは俺とジャノ以外を威嚇するような態度を取っていたのだけど、とある事情から今では村人との信頼を築きつつあった。

 というのはだな。枯れた大地であるエルド周辺地域は人間が食べることのできる植物が極端に少ない。

 そんな中、次々に畑ができ作物が満載状態になったらどうだろうか?

 更に草食動物である家畜が好む牧草まである。

 村の外にいる野生動物にとっても村は食材の宝庫なのだ。草食動物や雑食系の動物だけじゃなく、肉食動物にとっても。

 家畜は弱いし、さして追いかけるでもなく確実に捕食できる。

 とまあ、色んな野生動物が村に侵入してくるんだよ。中には凶暴なのもいるし、うまい肉なものもいる。

 俺が帰って来た翌日には運悪く人を恐れぬどころか人であっても狩の対象である虎型の魔物が侵入してきてさ。

 危険を告げる鐘が打ち鳴らされる中、お腹を空かせたナイトメアが空から虎型の魔物を急襲し仕留めた。そのまま、食べ始めたけど……。

 俺の手前、ナイトメアは村人を威嚇することはあっても襲い掛かったりはしない。その日は他にもイノシシや鹿も姿を現し、ナイトメアに秒で狩られたんだ。

 既に虎型の魔物で腹いっぱいなナイトメアは村人に獲物を譲った。

 彼がどう考えているのか本当のところは分からないけど、俺の見解では村が俺の縄張りみたいなものだと思っているのかなと見ている。

 ジャノの分析によると彼は俺を主人と慕っているので、俺の縄張りを守ろうとしているんじゃないかって。

 それなら危険じゃない鹿まで狩る必要はないんじゃないかと考えるかもしれない。縄張りってやつは侵入者をすべからく排除するものなのである。

 熊とかもうかつに縄張りに踏み込むと襲い掛かって来るじゃないか。

 動物って空腹じゃなきゃ狩りをしようとしないのだけど、縄張りは別だ。ナイトメアにとっても縄張りは熊とかと同じようなものなのかもと考えたんだ。

 彼にとって「俺の」縄張りを護る行為が、村人にとっては侵入者を排除してくれる頼もしい護衛に映った。

 当初は村人を威嚇していた彼だったのだけど、村人からの信頼を感じ取ってか最近はそっけなくはあるけど村人に向け低い声を出したりはしなくなっている。

 空を飛べる彼なら、村の端から端までもものの数分で到達するから一頭だけで村を防衛するに十分な戦力足り得るのだ。


 窓からナイトメアを見ていたら息を切らせた村人がナイトメアに向けて手を振っている。

 彼の浮かんでいる場所から俺が部屋にいることが分かった村人が声を張り上げた


「イドラ様、ボーンボアを解体してもいいですか?」

「もちろん。みんなで分けるようにしてもらえるか」

「ありがとうございます!」

「お礼ならナイトメアに言ってくれ」

「もちろんです!」

「村人も感謝しているって。この調子で頼むよ」


 お礼を述べたが、ナイトメアは足を開いて角の生えたイノシシを離すと同時に空高く舞い上がる。

 どうやら次の獲物を見つけたらしい。

 今日は入れ食い状態だな。そのうち数が減って来ると見ている。

 これだけ派手にナイトメアが暴れていたら村は危険と認識する野生動物も出て来るはずだから。

 そうじゃなきゃ弱肉強食の世界で生きてはいけない。


「クルプケ……あれ、もういない」


 もう一回クルプケをわしゃわしゃしようと思ってたのに、ナイトメアや村人と会話しているうちにどこかへ行ってしまった。

 クルプケは神出鬼没だからなあ。俺が寝ている間にベッドに乗っかっていることもあったり、なかったり。

 ジャノのところに行く前にクルプケの持ってきてくれた種を調べておくか。

 目を瞑り心の中で念じる。

『開け、種の図書館』

 クルプケの持ってきてくれた赤く細長い種に触れた。

『ファイアフラワーの種:高温耐性+++』

 聞いたことのない花の品種だ。一体クルプケはどこからこの種を持ってきたんだろう。俺が思った以上に彼の行動範囲は広いのか?

 危険なモンスターもいるってのに……といっても彼を押しとどめる術はない。

 今まで無事だったのでこれからも大丈夫と信じよう。

 う、うーん。考えると不安になってきた。彼はいざとなれば地面に潜ることも、木の上に登ることだってできる。領都にいた時から自由に行動していたから今更か……。 

 この時間だとジャノは執務室かな?

 宿舎の一階を区切って机を並べたんだよね。村長は村長で補給物資の管理とかしてくれていたんだけど、畑と家畜に加え収穫した作物やら管理しなきゃならないものが増えた。

 喜ばしいことなのだけど、管理をしようとしたら事務作業が必要になるだろ?

 他にもナイトメアが活躍している害獣駆除やらもある。

 その辺りをまとめて管理できるように作ったのが執務室ってわけさ。一言で表現すると村役場みたいなものだな、うん。

 執務室に行くと見知った長髪の優男が机に向かっていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る