第30話 レムリアンを探せ

「おかえりなさいま……きゃ」

『グルルルル』

「こら、落ち着け」


 俺たちが戻ったことに気が付いて元宿舎から外に出てきたシャーリーを威嚇するナイトメア。

 すっかり怯えてしまった彼女の耳がペタンとなっている。

 ドウドウと首をポンと叩くとようやくナイトメアが落ち着いてきた。

 

「ナイトメアは君を主人と思い、僕を認めた者として扱っているように思えるね」

「こいつと戦った時にジャノも活躍したものな」

「彼は君との戦いで君の強さに敬服したってところかな」

「なので、他の人に対しては威嚇したり、近寄らせまいとする……と考えればしっくりくるな」


 となるとハーピーのルルドもナイトメアに寄ると爪で引っかかれるかもしれないな。

 連れてきたはいいが、目を離すと何をしでかすか分からない猛獣だったか……ま、まあ、そのうち他の人にも慣れてくれるだろ。

 シャーリーにも空の旅を楽しんでもらいたいと考えていたけど、ちょいと難しそうだな。


「ご飯にしますか?」

「そうしよう」


 俺たちから距離を取ったシャーリーがおずおずと尋ねてくる。

 ナイトメアが尻尾を上げたら、彼女の尻尾もびくっとなっていた。

 そんな微妙な空気を打ち払うかのようにミニドラゴンがパカンと口を開く。


「ウマウマ?」

「そうだな、クレイのためにも新しい種を植えるか」


 俺の言っていることが分かるのか、クレイはバンザイをして喜びを露わにする。

 何にしようか。果物の種は色んなものがある。

 リンゴと梨がお気に入りなら洋ナシも植えておくか。

 種を植え、水をかけるとリンゴの木と同じように芽が出て瞬く間に木になり果実をつけた。

 待ってましたとクレイが小さな翼をパタパタさせ木の枝に着陸する。


「ウマウマ」

「好きなだけ食べていいよ。俺たちも食事にしよう、ナイトメアは何を食べるんだろ」

「彼は肉食なはずだよ」


 ジャノの言葉にあっけにとられ口が開いたままになってしまった。馬な見た目なのに肉を食べるのか。そういや、彼が口を開いた時にずらっと並んだ牙が見えた気がする。

 この前の補給部隊が持ってきてくれた肉は保管できてないし、家畜はまだ増えていない。

 あ、干し肉ならある。

 家畜が育つまでの間、俺も狩りに出なきゃいけないか。俺だって肉を食べたいしさ。

 

 ◇◇◇

 

「ついに見つけたぞ!」


 進化ツリーの先にレムリアンの名が表示されている。

 ステータスの効果のところに魔法的霊薬と記載されていたので、何らかの効果はありそうだ。

 名前が異なるかもと予想していたのだけど、文献通りだった。

 ここまで七日の時を費やしたが……本当にあったんだ! レムリアン。

 いやあ、俺にしては長かった。薬のイメージから薬草類を片っ端から調べたのだけど、まるで成果がなくて。

 ならば今ある種を全部調べてやるとしらみつぶしに調べていき、ふとアンブロージアってリンゴに似た果実だったっけ? と浮かびリンゴを進化させていったらレムリアンに辿り着いたんだ。

 しかし、まだ進化先にレムリアンが登場したに過ぎない。

 当たり前のことだけど、レムリアンを手に入れるには種を進化させなきゃならんのだ。現状はまだレムリアンに進化させることができていない。

 「種の図書館」に表示されているツリーを見てムムムと息を吐く。

 『黄金のリンゴ→帝王リンゴ

        →アムランジュ

        →レムリアン

        →無限のムーラン』

 黄金のリンゴまで進化させて、次に表示されているのが四つ。

 このうち、帝王リンゴ以外の進化先には別の「素材」が必要と表示されている。

 これまで滅多に魔力以外に必要な素材が表示されることはなかったが、リンゴの進化先には素材が必要となるものが一変に三つも出るとは……。

 他の進化先に興味はないので、置いておくとしてレムリアンに目を向けると進化に必要な素材は『太陽の欠片』と表示されている。

 

「太陽の欠片ねえ……」


 もちろん聞いたことがない。錬金術師を目指していたら知っていたのかもしれないけど……。

 分からない時はまずジャノに頼る。これに限るよね。


「ふう」


 息を吐き椅子の背にもたれかかる。自然と欠伸が出て両手を上に伸ばす。

 伸びをすると何故か椅子の背もたれ上に後頭部を乗せちゃわない? そんでそのまま首を逸らして後ろを見たりしようとして椅子ごと後ろに倒れたりとかしたことはないかな?

 俺だけだったら悲しい。

 椅子が倒れそうで倒れない微妙なバランスを保っていたら、もこもこした犬……ではなくマーモットが目に入る。


「クルプケ。また出かけていたの?」

「もきゅ」


 ガタン!

 クルプケを見ようと更に後ろへ体重をかけたら、バランスが崩れ背中をしたたかに打ち付けてしまった。

 結構大きな音がしたのだけどクルプケはお尻をふりふりしつつ倒れている俺の首元に種を置く。

 対する俺は無言ですっと立ち上がり、パンパンと服をはたいた。

 そしてクルプケを掴み上げわしゃわしゃする。

 

「新しい種を取ってきてくれたのか」

「もきゅきゅ」


 クルプケは特に首元をわしゃわしゃされるのがお気に入りで、目を細め気持ちよさそうにしていた。


『グルウウアアア』


 全く騒がしいな……。クルプケとわしゃわしゃタイムを楽しんでいたというのに。

 吠える、咆哮する、色んな表現があると思うが、決してこれは鳴くではない。

 窓枠がビリビリと震えているし、これほど大きな咆哮だと村長の家くらいまで聞こえているんじゃないかな?

 うるさいが、これはこれで役に立っている。

 何故かというのは咆哮の主である窓の外で浮いているナイトメアを見れば一目瞭然だ。

 宙に浮き俺にアピールした彼の鋭い爪先で掴まれているのは角の生えたイノシシのような動物であった。


「今日も活躍してくれたんだな。ありがとう」

『グルルル』


 窓を開け彼にお礼を言うと満足したのかそのまま降下していく。

 今日はもう獲物を狩って来たのは二匹目だな。

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