第26話 毒々しい種
「おいおい、風魔法じゃないじゃないか」
「ナイトメアの亜種なのか、キリンの亜種で黒色なのか悩ましいところだね」
「どっちでもいいさ」
「期待しているよ。防御は任せて君は攻撃に集中してくれていい」
今度は特別性だ。次の種は毒々しい紫色の種である。
先ほど稲妻を塞いだ種は成長力を極限まで上げた反動でもう枯れ始めている。
対するナイトメアは挨拶代わりの雷撃でまだまだ元気一杯だ。先ほどより広範囲に青白い紫電が走り、今度は全体に広がるでなく束となりこちらに襲い掛かって来た。
俺はそいつには目もくれず、紫色の種の描くイメージに集中する。こいつは特別性で俺の魔力によってある程度操作できるものだから、発芽しておしまいではない。
「森羅万象にジャノ・エルガーが願う。いざ奇跡をもたらしたまえ。ミラージュロンド」
一直線に向かっていた稲妻の束が逸れ、蔦の床の下を通り崖に突き刺さる。ガラガラと物凄い音を立て崖の一部が崩れた。
「稲妻の方が御しやすい。風だとこうはいかないからね」
涼しい顔でのたまうジャノ。この分だと最小限の魔力消費で稲妻を躱してくれそうだ。
かといってのんびり構えているわけにはいかない。ナイトメアが体当たりやかぎ爪の攻撃に切り換えてきたら、逸らすのではなく防ぐ必要が出て来る。
彼ならばやってのけるだろうけど、彼の魔力とて無限ではない。
「行くぜ。フィドラーコーディ。悪夢には悪夢の力、見せてやれ」
紫色の種を握り、魔力を込める。先ほどやった発芽のための魔力と異なり、種を進化させる時のように湯水のように魔力を流し込む。
急速な体内魔力の減りにより、頭がクラリとするが踏みとどまり前を見据えた。
魔力の減りは立ち眩みの症状に似る。立ち眩みは意図せず起こるが、魔力の減りは意図的に行うのが違いかな?
存分に魔力を吸った紫色の種からこれまた毒々しいどす黒い赤紫の茎が伸びる。
対峙するナイトメアは稲妻の攻撃を躱されたからか怒りの咆哮をあげこちらに肉迫してきた。
そこに赤紫の茎がナイトメアの鼻先に触れ、弾けたようにぶわっと茎と共に同じ色の手のような形をした葉が広がる。
またたく間にナイトメアの体を茎と葉が覆いつくし、髑髏にも似た真っ赤な花が咲いた。
ズウウウウン。
ナイトメアの首がガクリと落ち、気を失うと同時に奴の体が地に落ちる。
「この高さから落ちたら一たまりもないだろう」
「魔力は大丈夫かい?」
「少し休みたい。いや、上まで登ってからにしよう」
「そうだね、ここでは身動きができない」
登るための種なら発芽させるだけの魔力しか使わないから、このままでも行ける。
登りきったら、しばらく横にならせてもらうがね。
◇◇◇
「ふう……」
「水だよ」
「ありがとう」
「二人とも凄かった! わたしだけじゃなく、全ハーピーから感謝……あ、でも、伝えない方がいいかも、う、うーん、でも伝わっちゃうかも?」
馬車で寝転がり、ジャノから魔法で生成してもらった水を受け取る。
ふうう。生き返るう。
ルルドが何か良く分からないことを言っているけど、別にハーピーのためにやったわけでもないし俺たちのためであったからな。
立ちふさがる敵を打ち払っただけ。あのまま何もしなきゃ、全員稲妻に焼かれてお陀仏だったもの。
ナイトメアは空を飛ぶ。とてもじゃないが、逃げて振りきれるものでもない。
なら、こちらを舐めて近寄ってきている時にやるに限る。空から高速移動しつつヒットアンドアウウェイで来られたら苦戦は必須。
あの場だったからうまく勝つことができた。あの場だったから容易く仕留めることができたのだ。
ルルドの興味はハーピーが、という話から別のところに移る。気になるところがあり過ぎるのは分からないでもないけど、疲れちゃわないか少し心配だ。
「あの禍々しい種はどんな種だったの?」
「あれは見た目からして毒々しい種なのだけど、効果のほどもおぞましい。我ながらえげつないものを作ったよ」
「すごかった!」
「フィドラーコーディは対象の魔力を吸い成長する。ナイトメアの魔力は膨大だったから花が咲くまでになったんだよ」
「魔力を……? 飛べなくなっちゃう」
「ハーピーも魔力を使って飛ぶんだったか。翼のないナイトメアならきっと魔力で空を飛んでいるのだと思ってさ。フィドラコーディは一度取りつくと魔力を吸いつくすまで成長を止めない」
「……ぶるっとした」
ぎゅっと手を握り、青い顔になるルルド。
発芽させ、茎を伸ばして対象に取りつかせるのにもクソほど魔力を使う。
フィドラコーディは魔力喰いの種。俺にしか発芽させることができないから、フィドラコーディによるバイオハザードは起こらないから心配しないでくれ。
「もう少しだけ休憩させて欲しい。竜の巫女のところはもうすぐそこなのかな?」
「うん、わたし先に行って戻って来ようか?」
「飛んで戻ってくるのかな?」
「ううん、ここからなら歩いて行くよ。飛ぶより歩く方が疲れないから。ずっとわたしの傷のことを心配してくれたんだもの」
「あはは。歩いてすぐなら馬車で行った方がいい。ルルドも休んでおいて」
「安心して休んでおいてくれていいよ。何かあれば引っ張り出すからそのつもりで」
馬車の窓から顔を出し、俺たちの会話に割って入るジャノは抜け目ない。
彼は今も周囲を警戒してくれている。だからこそ、俺も安心して休むことができるってものだ。
「よっし、じゃあ向かおう」
「もういいのかい?」
「まだ全快じゃないけど、もう一回くらいならさっきの毒々しい種を使うことができるくらいになった」
「目的地を目の前にして、ってところかい?」
「そんなところ」
にししと笑い、馬に鞭を入れる。
ものの10分ほどで竜の巫女が住まう神殿に到着した。
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